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小話2 二日酔い



 ー黒川真人視点ー


「あぁっ、クッソ……!」


 誰にも聞こえないように悪態づく。

 頭が痛いムカムカする気持ち悪い......! ああ、認めよう。何年ぶりかの二日酔いだ。


 サリンの注ぐ酒が美味すぎるのがいけない。

 カクテルを飲むような勢いで何杯も煽っていたから、昨夜の記憶がほとんどない。酒の勢いに任せて襲ってしまってやいないかと不安になったが、サリンの様子から察するにそれはなさそうだ。

 酔っ払ってても理性を保つなんて、昨夜の俺、中々やるな。



 ああ……頭痛が酷い。

 無理して仕事に来るんじゃなかった。二日酔いで、仕事に全く手が付かない。


 サリンは今学校か。良いなぁ。俺ももう一度学校に通いたい。

 もし若返りの薬があったら、サリンと同い年になって青春ラブコメができるかな。

 いや、俺は今の関係でも十分満足しているが……やっぱり、一日中一緒にいられるとなると、幼なじみ系同級生か?


 それか、教師……?


 あっ、良い! 教師良いな!

 教師と生徒、実験室での禁断の愛ーーああ、悪くない。そそるな。背徳感があるのが良い。

 よーし、じゃあ早速、教員免許を取ってサリンの学校にーー



「組長。辛そうだなと思って薬を買ってこさせたんですが、何だか随分と楽しそうですね」

「そうだな。今シミュレーションを……ってお前か」

「はい、薬です。あと、声全部聞こえてましたよ。教師と生徒の禁断の愛って何ですか」

「チッ、声に出ていたか」


 この部屋、次の改装のときにでも防音にしよう。


 制服も好きだが、体操服やスクール水着も露出が多くて良い。

 放課後、補習で教室に呼び出し、問題を間違える度にお仕置きをーーああ、考えるだけで興奮する。


「妄想も結構ですが、早く薬を飲んで計画書に目を通してください。開発部がうるさいんです」

「石油代替エネルギー開発の計画書……分かった。早めに読んでおく」


 ヤクザも地球温暖化を気にする時代になってきたか。

 開発部はこれがヤクザの会社だって知らないんだから、滑稽な話だ。


 俺は渡された薬の成分表示に目を通すと、一錠部下に差し出した。


「先に飲め」


 よくあることなので、部下は嫌な顔一つせず錠剤を口にする。

 この部下も、後藤以下ではあるが信用している。だがそこまでだ。後藤以外に完全に信用できる人間はいない。


 ふむ、薬は大丈夫そうだ。


 後藤に、部下に渡された薬を飲んだと連絡しておこう。

 遅効性の場合はすぐに毒とは分からないから、家に帰って死ぬ可能性だって十分有り得る。



 組は家族だ。

 俺が父親で、他が子供。盃を交わし、俺たちは親子に、兄弟になる。



 だがそれをもってしても、俺は誰のことも信用できなかった。



 ***



「サリン。ただいま」

「お帰りなさい。黒川さん」


 あー、可愛い。

 何だ勉強しているのか。


 そうだ。確か後藤が美味いって評判のチョコレートを買ってきてたな。

 サリンは甘いものが好きだし。……喜んでくれるかな。


「サリン、チョコレートがあるんですが、食べますか?」

「えっ、チョコ? 食べます食べます!」

「はーい。お手」

「は?」


 そんな露骨に嫌そうな顔をしないでください……。

 よし、可愛いから許す。


 これ、どこのチョコレートだ? 

 あいつも甘いものが好きだから、直属の部下を顎で使ってスイーツを買ってこさせるんだよな。あんな明らかにカタギじゃない連中が女子供に混じって買ってきたのだと思うと......何だかしょっぱい気分になる。

 ああ、これはGOTIVAか。


 サリンは嬉しそうな顔でチョコレートを一つ口へ運び、そのまま顔をとろけさせた。

 どうやら相当美味いらしい。

 今までかなり貧乏な生活を強いられてきたから、高いお菓子なんて滅多に食べられなかったんだろうな……。

 よし、今度色々と取り寄せてやろう。


「美味しい……!」

「そうですか? じゃあ、全部サリンにあげます」

「良いんですか? ありがとうございます! ……あー、でも……なんかこれ、ちょっと、頭がぼーっとするような……」

「まさか……」


 毒?!


 確認するべきだった。後藤から渡されたとは言え、あいつが直接買ったわけじゃない。別の人間が、少なくとも一度は触れている。

 可能性を考えるべきだった。

 クソ、迂闊だった……!


 一体何の毒だ。

 顔が紅潮して、目がぼんやりと……ん? これって……。


 パッケージをよくよく見てみるとーー「熟成ワイン入り」の文字。

 ……もしやアルコール?


「あっ、でも少しきもちーような……うーん、なんれすか、これ」



 サリン、貴女お酒に弱いんですね。

 ワイン入りチョコレートってそんなに度が高いもんか? せいぜい1%や2%じゃ……?


 うう、可愛さのあまり冷静な判断ができない。

 ……待てよ。これはチャンスじゃないか?

 あと数個チョコレートを食べれば、サリンはきっと泥酔する。上手くいけば昨夜の私のような、記憶がなくなるレベルにまで。


 ならば今何をしても、翌朝のサリンは何も覚えていない......?!


 つまり、だ。

 日頃我慢している、あんなことやこんなことが、思う存分できるというわけだ。



 い、いや、それも待っただ!

 俺の理性、どうか肉欲を抑えてくれ。


 ここで手を出してしまえば、俺はこれまで通りサリンと接せなくなってしまう。やることやっといてけろっとしていられるほど神経太くない。

 それは嫌だ。

 俺は今の関係を愛しているんだ。


 サリンが何も覚えていなくても、俺が確実に挙動不審になる。思い出して悶絶してしまう。

 まだダメ。

 まだダメなんだ……!!



「黒川さん……? どうしたんれすか」


 あああ可愛い!!


 と、と、とりあえず写真を……。こんな貴重なシーン、滅多に見られないぞ。

 サリンは酔って頭が回らないのか、スマホの連写音を聞きながらずっと小首を傾げている。そのポーズ最高! 天使! 可愛い!



 はぁ、はぁ……ちょっと落ち着いてきた。


 うん、ベッドに運んであげよう。

 せっかく勉強に集中していたのに、邪魔をしてしまって申し訳ない。

 一連の出来事は全て、アルコール入りチョコレートを買ってこさせた後藤のせいだ……!


「黒川さぁん……」


 くっ、止めてくれ……そんなとろんとした表情をしないでくれ……!


 見ることしかできなくて辛い。

 もしかして、俺を誘っているのか……?

 だからそんなに色っぽいのか。中学二年生にこんな色気はいらない……お願い俺を見ないで……。


「ど、どうしたんですか。壁に頭を打ちつけて……」


 シラフじゃないのに引かれてる......!


 すごく、襲いたい。ガバッといきたい。

 もう良いよな? 解放して良いよな? 男なんてこんなもんだよ。これで手を出さないなんて男じゃない。


 今まで我慢してきたんだ。今日くらい……。


 ……我慢、か。



「サリン、もうおやすみ。勉強は明日しましょう」


 サリンの額に口づけし、そのままベッドに寝かせる。

 ダメだ。

 やっぱり、俺はこの子に手を出せない。


 明日になればきれいさっぱり、全部忘れてしまうのだろう。それでもやはり、俺はこの子を傷つけたくない。



 とはいっても、絶対に我慢できる保証はなかったので、俺は一人ソファで寝ることにした。



翌朝


サリン「頭痛い......」

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