弐拾捌
ーーーしており。
ーー天気は。
ーーでしょう。
声が聞こえる。
ニュースキャスターの声だろうか。古いラジオみたいに不鮮明で、ところどころノイズが入っているように聞こえた。
「起きたか? サリンちゃん」
知っている声。
優しくて、温かくて、とっても信頼のできる人の声。ピンと張っていた緊張の糸が一瞬にして解け、私は安心感に包まれた。
「ーー後藤、さん?」
「ああ。やっと目ぇ覚ましたか。良かった良かった」
私は、ぼやけた視界を天井に向ける。ここは暖かい。心地よい揺れに眠りを誘われる。
肩は若干痛んだが、少し疼く程度。
どうやらここは、車の後部座席のようだった。お腹には毛布がかけられている。
「あの、後藤さん……いたっ」
起き上がろうとすると、収まっていた痛みが湧き上がってきた。
バックミラー越しに私の姿が見えたらしく、後藤さんは慌てて呼びかける。
「おいおい、あんまり動かない方が良いぞ。一時間くらい前に弾を摘出してな。もう麻酔はほとんど切れてると思うけど、痛むだろう?」
「後藤さんが、手術を……?」
「おうよ。凄いだろう? ちょいと創意工夫してな。傷跡が残らないようにしておいた。組長も気付きやしねーさ」
どうやら、私の目が覚めるまでドライブに勤しんでいたらしい。
窓から見えるのは、東京の美しい夜景。
今から家に帰るのか……。
「助けに行ったら血まみれで倒れててびっくりしたよ。適当に周りにいた奴らをぶっ飛ばして、すぐに手術したんだ。サリンちゃんのことだから組長には知られたくないだろう? そこは俺が何とかするから安心してくれ」
ほっとした。
彼が黒川さんに報告していたら隠しようがなかった。私を庇ってくれるらしい。
「ごめんなサリンちゃん。俺のせいだ」
「後藤さんのせいじゃありませんよ」
「いや、俺のせいだ。俺がスナバでフラペチーノを頼んでなきゃ……!!」
えっ、もしかして迎えが遅れたのってそのせい?!
……それはちょっと、思うところができたんだけど。
だからといって、後藤さんが悪いわけじゃない。今回は運が悪かったんだ。
「……ねぇ、後藤さん。」
ミラー越しに後藤さんと目が合う。
深呼吸をして、私はこんな質問を繰り出した。
「私の父は、死んだんでしょうか?」
沈黙が耳を引き裂くようだった。騒がしい夜の東京が、一瞬にして静まり返ったような気がした。
後藤さんは、何も答えない。
ただ俯き、ハンドルを握るだけ。
答えがないということは、もしかして本当にーー
「それは俺には分からない。どうなったかは組長が知ってるさ。直接聞いてみな。何を言われるかは知らないけどな」
「……黒川さんに、直接」




