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弐拾漆



「殺されたよ、君の父、赤城翔太は。黒川真人にね。」


「う、嘘……言わないでくださいよ」


 銃は落ちた拍子に跳ね、あちら側へと転がった。

 残る武器は警棒と、役に立たない弾切れの銃だけ。これじゃあ太刀打ちできるわけない。


 いや、それ以前に、身体が震えて動かない。

 もし誘拐犯が嘘をついて私を動揺させようとしているのなら、笑ってしまうくらい効果抜群だ。


 ありえない、父が死んだなんてそんなーーありえない。


「嘘じゃないさ」

「嘘つき。黒川さんは、ちゃんと私に約束したんです」


 我ながら子供みたいだ。

 馬鹿みたいだって分かってる。


 約束なんて、ただの言葉。

 約束したから、必ずしも守ってもらえるわけじゃない。

 でも私は、私は黒川さんのことを信じたかった。じゃなきゃ、今までの私の苦しみが全部無駄になる。


「か、彼は、私が彼のものになれば、もう父とは関わらないって……」


 すると、当麻さんが声を荒げた。


「あの男は優しく振る舞っているかもしれないが、実際は冷酷な悪党だ! 君の腕の傷が良い証拠じゃないか!」


 思わず後ずさる。

 ーー何で彼が、私の腕の傷を知っているのだろう?


 今まで誰にもこの傷のことは話してない。

 後藤さんさえ、もしかしたら知らないかもしれない。それなのに何で……彼がこのことを知っている?


「な〜んだ! 君も黒川真人に傷を残されたの? 俺と同じじゃないか! ……それに、大切な人を殺されたってのも同じだね」

「私の父は死んでいません」

「まったく……小学生じゃないんだからさ。君も薄々感づいてるだろう? 黒川真人が君の父親を生かしておくはずがないって」

「それは……」


 絶対にないとは言い切れなかった。


「まだ否定する? 俺たちに嘘をつく理由はない。……いや、父親が死んだって分かったらもう黒川真人に固執する必要がなくなるわけで、君も晴れて自由の身ーーか。そしたら当麻さんが保護できるしね。いやぁ、嘘をつく理由あったよ」

「ちょっと黙っていろ、石井」


 違うーーお父さんは死んでなんかいない。

 死んでなんか…….いない。


 ……。


 ……。


 私は、黒川さんの性格をよく分かっているつもりだ。

 彼の言葉は、あながち間違ってはいないのかもしれない。私の中にわずかに残る冷静さがそう訴えかけてくる。

 黒川さんは、自分の欲しい物は絶対に手に入れる。そして全て独占したがる。自分のものが他者の手に渡るのを何よりも嫌う。


 私は父を幸せにするために、もう黒川組は父とは関わらないという条件のもと、自分を黒川さんに売った。


 私はそれほどまでにーー父を愛している。

 黒川さんなら、そんな私は嫌だろう。赤の他人になっても、私の心を占め続ける父の存在が疎ましいだろう。

 だから殺してーーそのことを私に話さず、自分に溺れさせる。

 そうすればいずれは、父のことなんて忘れるはずだから。新しい幸せを手に入れれば、自分だけを見させればーー私は父のことなんて忘れるはずだから。


 彼ならきっと、そう思う。



 これはあくまで私の憶測だ。もしかしたら違うかもしれない。黒川さんから直接聞いたわけでもない。でも、絶対にないとは言い切れない。

 誘拐犯の言葉にも確証はない。


 そう、確証はないんだ。どうして推測だけで真実だと言い切れようか。

 たとえ真実であろうとも、父の遺体を目の前に引っ張り出してこない限り、私は絶対に信じない。認めない。


「信じてもらえたか?」

「いいえ」


 不意をついて落とした銃を拾い、足を撃たれて動けない男の眉間につきつけた。

 今度は本気だ。


「死んでください」


 ここから逃げるには、彼らを殺さなくてはーー

 彼の血は止まらない。未だに止めどなく溢れ出る。足元の赤溜りがゆっくりと、しかし着実に広がっていく。

 このまま放置していれば、いずれは出血多量で死ぬ。

 なら、今のうちに楽にしてやった方が良いのでは?



 引き金を引く直前、誘拐犯の取り出した銃が私の肩を打ち抜いた。

 私が本気だと気づいたのだろう。


 銃で撃たれたのは初めてだ。

 でも、黒川さんに名前を刻まれたあの日よりはまだーー痛くない。


 触れた手ににじむ赤が妙に美しい。地面に倒れるより前に私は意識を失った。



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