表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/151

弐拾参


「あいつ、行ったかな……」


 スピーカーが切れても、監視が続いていないとは限らない。

 かといってこの暗闇の中でカメラをどうこうできない。誰にも見られていないことを祈りながら、私は行動を開始した。


 暗闇の中。壁伝いに歩く。

 一体どれくらいの広さかは分からないが、必ず出入り口があるはずだ。



「あ、これは……」


 探索していると、一分も経たないうちにドアノブのような物が手に当たった。

 恐る恐る触ってみるも、電撃や毒が噴射されたり、警告音が鳴ったりする気配はない。何かの罠かもしれないと思ったが、部屋を一周してもドアがあるのはここだけだった。

 ......どうしよう。少しだけ迷いが生じた。

 でも、一歩踏み出さなきゃ何にもできやしない。


 ええい、どうにでもなれ!


 勢いをつけてドアノブを捻る。

 するとドアはーーすんなり開いた。


 えっ、ええぇ?!


「え、これ、逃げちゃって良い感じのやつ?」


 拘束を外す誘拐犯。逃げてくれと言わんばかりに開くドア。

 罠、か? 罠ですか......?

 いや……こんな丁寧に開けてくれてるんだ。お望みどおり逃げてやるよ!



 ***



 念のため言っておくと、私は女の子だ。

 でも普通の女の子とはちょっと境遇が違う。

 ヤクザの組長の妹だ。もし私が小説の登場人物だったら、面倒事に巻き込まれるためだけの存在だろう。もしくはトラブルメーカー。

 だから、いざとなったら自分の身くらい自分で守れるように、後藤さんに様々な護身術を叩き込まれた。だからといって相手を簡単にのせるわけではないが、一発ダメージを与えてその隙に逃げ出すくらいはできるようになった。


 くっそー、後藤さんめ。

 今回の誘拐はともかく、前回の波角さんの時は全然仕事してなかったなあ。

 いや、仕事はしてた。意識が薄れゆく中、彼はこっちに走ってきていた。そう、仕事はしていた。間に合わなかったけど。


 そんなちょっと頼りない後藤さんでも、いないと不安だ。私は今一人。それなのに、この先にいる人間全てが私の敵だ。



 監禁部屋の外の廊下は明るかった。私は警戒しながら歩を進める。

 無機質な金属の壁に囲まれた、SF映画の研究所のような場所だ。一体ここはどこなんだろう。他にもドアが会ったが入る気にはなれなかったし、人気も全くない。

 外への出口の道標や地図もない……どうしよう、せめて誰か人がいてくれたら良いんだけど。



 そう思った矢先、前の方が話し声が聞こえてきた。見つかる前に咄嗟に曲がり角に隠れた。

 声が近づいてくる。男二人だ。


「なぁ、あの子は何なんだ?」

「分からない。当麻さんが大事そうに抱えていたから……もしかすると、新しい女かもな」

「でもまだ成人してなさそうだったぞ。あの人、そういう趣味なのかな」


 え、それって私のことか?

 だとしたらその”当麻”という人が、スピーカーから話しかけてきたあの誘拐犯か。


 話に気を取られ、私は自身が見つかる一歩手前だということを忘れていた。

 慌てて隠れられる場所を探すも、めぼしいところはない。ただ、脇に設置してある消火器が目についた。ちゃんと定期購入してるんだな、と関心しつつ......。


 よいしょ……っと、結構重いな。でも、持ち上げられないわけじゃない。

 このまま角に隠れていても確実にバレる。

 あんまりこういうことはしたくないけど……先手必勝!!


「良いなあ。俺も可愛い女の子とニャンニャンしたいなあ」

「お前っ、それ死語だぞ。まあ、ちょっとくらいなら味見させてくれるだろ」


 私は男が横に来たのを見計らい、消火器を大きく振り上げて、片方の脳天に打ち付けた。

 途端に血が飛び散って顔が汚れるが、気にしている暇なんてない。死んでいないと思う、多分。


 もう一人は驚いた様子ながらも、すぐさま私と距離を取った。素人ならすぐに殴りかかってくるだろうが、彼はそうではない。

 相手は私の力量を把握しようと、構えを崩さず注意深く観察してくる。


 私は消火器を再び持ち上げると、今度は粉末の薬剤を噴射し、敵の視界を奪った。怯んでいる間に倒れた男から奪った警棒で殴りかかり、男を押し倒す。

 粉で真っ白になった男の首元に、私は警棒を突きつけた。


「ここはどこですか? 答えて」

「うっ……嬢ちゃん中々やるな。ここは戦嶽組の、人身売買用倉庫だ……」

「人身売買……?!」

「ああ……お前が、当麻さんに連れてこられた女だよな?」

「多分そうですけど」


 戦嶽組ーー私も名前を聞いたことがある。

 確か関西を中心に勢力を強めており、黒川組の次に規模が大きい。黒川とは近畿の派遣を巡って睨み合っているって聞いたけど……。

 にしても、人身売買だって?

 ということはこの場所には他にも捕らえられている人がいるのか? 私みたいに?


「住所は?」

「細かいのは知らないが、東京湾沿いの地下倉庫だ」

「この先には誰がいるんですか?」

「組の幹部と組織の連中……あとは客くらいか」

「……ごめんなさい、ありがとう」


 警棒で衝撃を喰らわせ、意識を奪った。

 ペラペラ喋ってくれる人で良かったよ。どちらも気絶しているが、きっと長くは持たないだろう。早く去ってしまった方が良い。


 他に武器がないか物色していると、ナイフと、それから拳銃二丁が出てきた。なんちゅう物騒な。ここは本当に日本だろうか。

 全部拝借してポケットにしまった。

 銃を服に突っ込んでおくのは不安だったので、一丁手に持っておくことにした。


「……進むかぁ」


 銃は嫌いだけど。今は仕方ない。


 私は覚悟を決め、男たちの身体を跨いで進んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ