拾壱
「ああ〜、死ぬほど暇」
「サリンちゃんってさ。意外と口悪いよね……」
ここ最近ずっと一緒にいたためか、後藤さんと私はすっかり友人になっていた。
命令で私に合わせているだけかもしれないが、一緒に料理をしたり、黒川さんに悪戯を仕掛けたり、ゲームをしたりする中で、私は彼に友情を感じていた。
だから、時々気が抜けて本性がこぼれる。
「私は黒川さんみたいに良い育ちじゃないんで。注意してくれる人もいなかったし」
「見た目とのギャップが凄くてびっくりしちゃうよ」
「よく言われます」
勝手に期待されて勝手に幻滅されるのも嫌なので普段は猫をかぶる。
黒川さんは意外にも理想主義で、口にはしないが私に可愛らしい少女らしさを期待している。彼の目の前で「クソ」とか言ったら失望されそうだ。
不登校生活2週間目。
私は暇を極めていた。
家にある本はだいたい読みきってしまったし、テレビはつまらない。テレビゲームにも興味がないし、後藤さんと遊ぶにしても限度がある。
そういうわけで現在、私は新たな刺激を求めていた。
「この間、新しい本が段ボールで届いてたじゃん。あれは?」
「もう読み切りました。ミステリーは飽きたので、次はノンフィクションものが良いです」
ぼーっとしていると、何だか眠くなってきた。
早寝早起きで理想的な睡眠時間を確保している私でさえ、午後のこの時間帯はすごく眠くなる。
「ちょっとお昼寝してきます」
寝室へ行くと、電気もつけないままベッドに横たわった。
カーテン越しに感じる太陽の暖かさが心地いい。
深呼吸をすると、黒川さんの匂いがした。心なしか落ち着いてくる。
……。
……ん? 落ち着いてくる?
申し訳ない、眠たくて脳が正常に働いていないようだ。
それにしても、一人で寝ると少し物寂しさを感じる。人肌があるだけで安心できる。
私を抱き枕にすると寝つきが違うという黒川さんの言い分も、分からなくもない。
そんなことを考えていると、いつの間にか私は、すっかり眠りに落ちてしまった。
***
「ああ私のサリン。ただいま」
誰かが私の髪を触る。
感覚はあるが、意識がはっきりしない。
「本当に……何も知らない無垢な寝顔……私はできることなら壊したくない。ねえサリン」
私の額に唇が落とされた。
「ゆっくり眠りなさい。貴女は何も知らなくて良い。私の籠の中でいればそれで良い」
その言葉は甘く、強い魔力を秘めていた。
本当なら、怖いと感じるはずなのに。




