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第三話 解決と提案


 機材を片付けて、津川先生と一緒に院長先生のところに行く。

 データ収集をおこなっていたサイトには、適当なデータをPOSTで送信をしておいた。ルータに空けられた穴を塞いで、作られていたユーザを削除した。ルータには、他にもVPNの機能やNAT設定やルーティング設定とかやりたい放題だ。メモだけして、話し合いのネタに使う。証拠に使えるように、設定はデータとしてダウンロードしてある。

 まだ遠隔操作のプログラムも削除していない。クライアント側のプログラムを俺のノートパソコンにダウンロードして設定をした。接続の確認も終わっている。ルータのIPも調べてある。


 会議ができる部屋に通されて、待っていると、院長先生とスーツ姿の神経質そうな一人の男性が入ってきた。

 渡された名刺を見ると、県の関係者のようだ。”海野(うんの)吉永(よしなが)”と書かれていた。


「津川先生。篠崎さん。海野さんは、この施設を管轄する人で、今回の件をご報告したら、お話を聞きたいという事でこられました」


 院長先生の話から、県の職員ではなく、厚労省の出向組のようだ。

 津川先生と俺も簡単な自己紹介をする。


「篠崎巧さん。そんなに警戒しないで下さい」


「え?」


「克己先輩。それと、桜先輩と美和先輩の事は知っています。私は、2期後輩になるのです」


「・・・。えぇ・・・、と・・・」


「私は、美和先輩が直接の先輩です。私が、中央で問題に巻き込まれた時に、助けてくれたのが桜先輩と克己先輩でした。今度は、お子さんに助けられるとは思いませんでしたが・・・」


「え?どういうことですか?」


「過去の話は、今は必要ないでしょう。現在の話として、パソコンの問題点を指摘してくれています。行政のミスではなく、問題の特定をしてくれました」


「それが?」


「複雑な理由があるのですが、この施設や問題が出ている施設を担当した業者は、中央から推薦された業者なのです」


「・・・。中央と地方で主導権の争いをしているのですね」


「簡単に言えばそうですね。今日、様子を見に来てよかったです。状況がはっきりとするまで、私が話を止められるのは僥倖なことです」


「わかりました。説明を始めたいと思いますが・・・」


「お願いします」


 院長先生は、海野さんに全部を任せるようだ。

 津川先生も俺に任せると宣言したので、俺と海野さんで話を進める。


 ルータの設定を変更している事や、パソコンに遠隔操作できるプログラムをセットアップしている事、ルータのIP情報を外部のサーバに登録するプログラムがサービスを使って定期的に起動している状況を説明した。


「篠崎さん。それは、どういった意味を持ちますか?もちろん、推測で構いません」


「まず、考えられるのは、遠隔地からのメンテナンスです」


「そうですか、しかし、今回の契約にはメンテナンスは入っていません」


「はい。そうお聞きしました。それで、もう一つの可能性ですが・・・」


「それは?」


「死活管理をしている可能性を考えましたが、ルータの設定まで変えている説明が出来ません」


「そうですか、”業者の悪意”だと考えて解釈をすると?」


「踏み台に使おうと思っていると考えられます」


「踏み台?」


「はい。サーバを攻撃したり、ハッキングしたり、小さいところですと、ランキングなどの不正操作に使えます。しかし、今回は踏み台である可能性は小さいと思います」


「なぜですか?」


「まず、この施設もですが、他の施設も、パソコンの利用が不定期です」


 院長先生を見ると頷いている。起動のログを見ても、不定期になっているので、間違いはないだろう。


「わかります。実体調査を行っています。その結果、新品のパソコンを配布するのは、不適切だと判断されてしまいました」


 海野さんは少しだけ残念そうな雰囲気を出している。

 正直な感想を言えば、やっていることを考えると、最低スペックでもそれほど問題にはならない。業者に依頼してアップグレードを行うとの、施設辺りの予算は大きく違わない可能性だってある。


「え?どうりで・・・」


「どうしたのですか?」


「ちなみに、業者に支払ったお金とか、俺が見ても問題はありませんか?」


「問題はありませんよ。県の予算なので、公表されます。少し、待って下さい。資料が有ったはずです」


 ファイルを確認し始めた海野さんだったが、すぐに一枚の見積書を探し当てた。


「コピーですが、業者から出された見積もりです。ほぼ、そのまま予算がついています」


「拝見します」


 見積書を受け取って、唖然とした。

 オヤジが行政の仕事を嫌がる意味もなんとなく解った。俺も無理だ。


「どうですか?」


「海野さんは、この見積もりは、おかしいと思わないのですね」


 俺が見て居た見積書は、そのまま津川先生に渡った。

 どうやら、津川先生も院長先生も不思議には思わなかったようだ。


「えぇ問題はないと思います」


「そうですか・・・。院長先生。ここに来られた方が置いていった名刺と連絡先のメモを、もう一度見せてほしいのですが?」


 やはり・・・。


「篠崎さん?」


「海野さん。これを見て下さい。名刺は、確かに見積もりを出した業者と同じ名前になっています」


「はい」


「問題は、メールアドレスです」


「え?」


「ドメインが違います。そして、メモに書かれた連絡先には、違う会社名が記載されています」


「・・・。再委託ですか?」


「そう考えるのが妥当だと思います」


「わかりました。これは、私の方で対処します」


「中抜きがどの程度かわかりませんが、オヤジ・・・。父から聞いた話では、行政の仕事では、2-3割が中抜きされるそうです。2割として考えると、この金額では、再委託された会社の旨味は殆どありません」


 出張費と書かれた項目が1万/日となっている。

 それに作業費とOS代金が書かれている。

 旨味どころか、足が出ていると考えられる金額だ。


「え?」


「おそらく、半日仕事でしょ。移動を考えれば、1日で1件回れれば合格でしょう。人件費だけの金額です。OSの代金が入っていません。元請けが払ってくれているとは思えませんので、再委託した会社が出していると思います。院には請求されていないですよね?」


 院長先生がうなずく。

 請求は発生していないと聞いたので、間違い無いようだ。


「中抜きがなければ・・・」


「ありますよ。確実に・・・。でも、それは俺が調べるような問題ではないと思います」


「そうですね。それで?」


「業者は、赤字覚悟でやっているのは、旨味が提供されたのではないでしょうか?」


「・・・。メンテナンス費用ですか?」


「はい。院長先生のところに来た見積もりを見れば、そう考えるのが妥当です」


「篠崎さん。ありがとうございます。流れは把握しました。推測を交えて構いませんので、文章にしていただけますか?」


「私は、行政が必要としている文章がかけません。それでもよろしいですか?」


「大丈夫です。清書は、私が行います」


「私が受けた依頼外の話ですので、報酬を頂きたいのですが、いくつか質問と提案をさせて下さい」


「・・・。わかりました。私の権限の範疇なら質問に答えます」


「ありがとうございます。私は、今回の依頼で、院が作っている野菜を貰う契約をしました。これは問題になりませんか?」


「・・・。自主的に作っている物ですので、問題はありません。備品ではないのですよね?」


 院長先生がうなずく。

 畑の位置も、近くの農家から、休耕地となっているところを無償で貸して貰っているらしい。


 海野さんは、話を聞いて問題はないと判断した。


「よかったです。施設が、それらの野菜を販売しても問題はないのですよね?」


「ありません。篠崎さんへの報酬に宛てられるのですから、対価として支払っているのと同じです」


「施設が、無料のショッピングカートを契約して、野菜を販売するのは”あり”ですか?」


「少しだけ検討が必要ですが、問題はないと思います。販売がメインだとダメですが、児童たちの学習のためなら問題はないと思います」


「ありがとうございます。それで、提案なのですが」


「今の、話の流れですと、篠崎さんは、施設にショッピングカートを運用させるおつもりですか?」


「正確には、ウェッブサイトを作って貰って、そこでショッピングカートを組み込んで見ようと思っています。サイトやカートの準備は俺がします」


「私たちに出来ますか?」


 今まで黙っていた院長先生が口を挟んできた。


「わかりません。それほど難しい事では有りませんが、慣れてもらうしかありません。それに、俺も慈善事業ではないので、手数料を頂きます」


「はい」


「売上の5%でどうでしょう?」


「え?固定ではなく?」


「はい。計算は、こちらでします。問題があれば、都度、協議をしましょう。カード決済が組み込めるのかはわかりませんが、できるだけ行えるように手配します。どうですか?海野さん」


 話を振られた海野さんは、少しだけ考えてから、問題は無いです。施設側で決めてくれれば大丈夫という結論になった。



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