表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/86

第一話 日常

 旅行計画が進行している。


 ユウキが、海外とかいい出したが、却下させてもらった。予算的な事もあるが、もっと現実的な問題として、5泊6日で、今から海外のホテルの予約を取ることはできるだろうが、パスポートが間に合わないだろう。国によって準備も違ってくる。なんと言っても、語学力の問題がある。


 当初の予定の通り、伊豆に行くことにした。

 伊豆は、思っているよりも広い。それに、あまり交通の便が良くない。正確には、車を使う事が前提になっているが、太い道が少なく、混雑が予測される。その上、観光地特有の問題も出てくる。人が集中する場所が決まっている。

 伊豆だけの問題なのかもしれないが、広い伊豆に観光地が点在しているので、移動だけで時間が必要になってしまう。


 ユウキに行きたい所を選ばせることにした。

 アウトレットモールから始まって、爬虫類の動物園。綺麗だと有名な海岸。歌にもなっている峠。フェリーが到着する港。そして、深海魚をメインにしている水族館。伊豆でない所も含まれるが、一応近くには間違いないので、合格としておこう。


 それにしても見事に、伊豆を一周している。峠だけは、中央にあるが、行きたいのは、その道中にある、わさび園だという事なので、問題はなさそうだ。


 これを、先輩方に伝えると、了承の返事が帰ってくる。

 もともと、ホテルと1ヶ所決めて、そこで観光するつもりだったようだが、ユウキの意見から、目的地に合わせて宿泊施設を変える事にしたようだ。


 どういう順序で廻るのかを、放課後に教えてくれると連絡が入った。


 俺の家で、それを聞く事になった。

 今日は、雨だったので、ユウキの部活も早めに切り上がって、俺もやることがないので、早めに帰ることにした。


 二人でホームで電車を待っていると、俺でも、ユウキでも、二人の科の先生でない、先生がホームで電車を待っていた。


 科が違えば、部活やなにかで、顔合わせをしない限り、先生だったよなと、ふんわりした感じでしか覚えていない。

 この先生も同じだ。たしか、建築家の先生だったと思う。


 先生であることは、間違いないので、会釈しておく。

 向こうも気がついて、軽く手をあげて答えてくれる。どうも、俺とユウキは、セットで有名になってしまっているようだ。


 先生が”あっ”って顔になる。そして、俺たちの所に急いで近づいてくる。厄介事のような気もするが、いまさら逃げるわけにも行かない。


「篠崎君と、森下君ですよね」

「はぁ」

「よかった・・・」

「え?」

「あぁ電車がもう来ますね。僕は、(はら)(みのる)です。建築科の2年を教えています」

「はぁ」

「明日、時間をもらえますか?少し、相談したいことがあります」

「えぇかまいませんよ。生徒総会に関することですか?」

「いえ、建築科のことで・・・電子科の先生に相談したら、君たちが適任だと言われてしまいまして」


 あ!丸投げされた。


「わかりました・・・。明日で構わなければ、私は、生徒総会の部屋に居ます。ユウキは部活だよな?」

「うん!でも、終わったら、生徒総会の部屋に行くよ」

「それでは、明日、放課後に、生徒総会の部屋に行きます。今くらいの時間なら大丈夫ですよね?」

「えぇ大丈夫です」


 丁度、俺たちが乗る方向の、電車がホームに入ってきた。

 原先生に、一言断ってから、電車に乗った。


 はぁなんか、面倒な匂いがするな。

 明日の放課後までに、電子科の先生を訪ねておこう。俺に、話を持ってきたってことは、ネットワークかパソコン周りのことだろう。確か、建築科でも、独自のサーバが有ったはずだ、そのことでという話なら、多分、情報系の先生だろう。俺に、丸投げしそうな人は1人しか居ない。


 昼休みに、冷蔵庫を訪れれば、話くらいはわかるだろう。


「ねぇ」「ねぇ」


「ん?あぁ悪い。何?」

「ううん。なんでもない。それよりも、先輩たちは何時くらいに来る予定なの?」

「あぁユウキの、部活が長いと思っていたらしいからな。20時くらいに行くって聞いているぞ」

「そう?あと、3時間くらいはあるのね」

「そうだな」

「タクミ。ご飯は?」

「先輩たちは、食べてからくるって言っていたから、俺とユウキだけだな」

「え?今日も、克己さんも沙菜さんもいないの?」

「あぁ」

「なんか、最近見ないのだけど・・・生きているの?」

「それを言うなら、桜さんと美和さんも同じだろう?」

「うーん。そうなんだけど・・・。ママは、なんか、東京の会社が大変ことになっているらしいし、パパは、いつもどおりだけど、なんか、大阪に出張って言っていたよ」

「へぇオヤジは、美和さん絡みの話で、施設の立ち上げって話していた、なんでも、医療系の施設みたいで、オフクロもそこで手伝いをするって話していたぞ」

「そうなの?」

「あぁ家からでも通える距離らしいけど、施設が部屋を用意してあるからって、そこから通っているみたいだな」

「そう・・・。タクミ。今日も泊まっていくけどいい?」

「あぁ」

「よかった!」


 何を心配しているのかわからないけど、なんか、安心している。


「ユウキ。何食べたい?」

「お肉!」


「昨日食べただろう?」

「うーん。それじゃ、昨日と違うお肉!」


 はい。はい。

 昨日は、トンテキを焼いて食べた。付け合せの野菜は、俺の皿に移動していた。


 そんなに、時間もかけられないし、冷蔵庫の中にある食材を使うとしたら・・・。


「ハヤシライスでどうだ?」

「牛肉多めで!」

「わかった」

「マッシュルームも入れてね」

「ご飯はどうする?バターライスを作るか?」

「うーん。今日は、普通でいいかな。そのかわり、炭酸スムージを付けて!」


 最近、レシピサイトで見て作ってみたのが、スムージに炭酸を入れる飲み物だ。

 炭酸水を作るマシンを購入して試してみたのだが、ユウキがこれにハマった。毎日、朝と夕方にスムージを作って飲むようになった。野菜が不足気味だったので丁度良かった。

 最初は、果物だけだったが、野菜を入れても大丈夫だということが解って、今では、野菜スムージになっている。


 お腹の調子が良いのが、自分でもわかるようで、俺が推奨している、朝のヨーグルトも食べるようになっている。大量の蜂蜜やオリゴ糖を要求されるが、食べないよりはいいだろう。


 家に戻ってきた。


 道路を挟んだ家も、だんだんできてきている。地下室が有るようだ。駐車場も半地下になっている作りが見えた。今では、塀ができて、見えなくなっているが、なかなか、面白そうな作りになっているようだ。どんな人が引っ越してくるのか楽しみだ。

 年が近い人が居れば、ユウキが強制的に友達になるだろうから、そうしたら、家の中を見せてもらえるだろう。


 玄関を入って、確認するが、やはり、二人とも今日も帰ってこないとなっていた。昼間に、一度来て着替えを持っていたようだ。予定では、あと1週間は帰ってこないことになっていた。桜さんと美和さんの予定も確認してみたが、桜さんは、あと4日は帰ってこない。美和さんは、明日一度帰ってくるとなっていて、3日くらいこちらで仕事をしてから、桜さんと一緒に、恩師の所に行くようだ。オヤジも行く予定にはなっているが、システムの進捗次第なのだろう。


「タクミ。今からご飯作るの?先に、お風呂入っていい?汗と雨で濡れて気持ち悪い」

「あぁ!そうだ、ユウキ。俺も入るからな」

「わかった!」


 ユウキを風呂に押し込んで、ハヤシライスの調理に取り掛かる。

 これは、そんなに難しくない。チルドルームに、牛肉がまだ残っている。それを使ってしまおう。


 玉ねぎを半分細切りにする、残りの半分はフードプロセッサーで細かくして、先に炒める。細切りの玉ねぎを投入して炒める。牛肉を使うから、バターじゃなくて、植物性の油を少しだけ入れた鍋で炒める。そこに、さっき炒めた玉ねぎを投入。水を入れて、アクを取りながら、煮込む。

 その間に、ご飯を用意する。ユウキと二人だけなので、二合も炊けば十分だろう。足りなかったら、食パンもある。ご飯は、全部食べきってしまうだろうから、ガスコンロで御釜を使って炊くことにした。


 ハヤシライスの素があるので、それを使うことにする。ユウキが好きなブランドだから、問題はない。


 セットしたタイマーが鳴った、蒸らすために、火を止める。ご飯を蒸らしている間に、ハヤシライスの仕上げを行う。

 マッシュルームを適当な大きさに切って、中に入れていく、丁度、水煮されたうずらの卵があったので、ユウキが好きな食材だし一緒に煮込むことにした。


 炭酸水ができている事を確認して、スムージを作ることにする。

 ベースは、モモでいいだろう。凍らせたモモを取り出す。一緒に、人参と赤ピーマンと桃缶のシロップを凍らせた物を、スムージにしていく。できたスムージは、冷蔵庫で、ギリギリまで冷やしておく、炭酸水と混ぜるのは、ユウキの仕事になっている。


 そろそろ出てくる頃だろう。


「タクミ。シャツ借りたよ」

「おぉ。ご飯できているぞ。すぐに食べるか?」

「うん。でも、その前に、水を一杯頂戴」

「テーブルの上に置いてある」

「ありがとう」

「それじゃご飯にするか!」

「うん!」


 ユウキと他愛もない話をしながら、食事をした。

 途中で、ユウキのスマホに先輩から連絡が入って、部屋に戻って、なにかを話していた。


「先輩はなんだって?」

「え?あ・・・用事が早く終わったから、早めに来るって」

「ふぅーん。まぁいいかぁ解った」


 ユウキの癖で、なにか、隠し事をするときに、左手で髪の毛を触る。

 今も、思いっきり、左手に髪の毛を絡ませている。


 まぁいい、なにか先輩たちに言われたのだろう。


 先輩たちは、30分後に来るようだ。その前に、俺も風呂に入ることにした。洗い物は、ユウキがしておいてくれるということだが、機械類は、ユウキに任せられない。壊しそうということもあるが、前に頼んで指を切ったので、それから、俺が洗うことにしている。


 30分と言っていたが、どうせ早く到着するのだろう。あの人達はいつもそうだ。待つのはいいが、待たせるのが嫌いという性格のようだ。


 気にしてもしょうがないので、ユウキが風呂場で脱いだ制服と、俺の制服を一旦リビングに退避させる。リビングには、オフクロだろうか、俺とユウキの制服を、クリーニングから取ってきてくれている。明日行こうと思っていたが、予定が入ったので、助かった思いだ。


 脱いだ物を洗濯カゴに入れる。ユウキが、洗濯を仕切り始めてから、ネットに入れて洗う物と、そうじゃない物で分けるように言われている。シャツは洗濯ネットで洗って、他の物はそのまま洗う。色物も着ていないので、そのままだ。最近は、俺とユウキの洗濯物だけだから、毎日は洗濯していない。3-4日に一回で十分なようだ。


 風呂に入って、汗を流す。

 この瞬間だけは、オヤジを尊敬する。我が家の風呂は広いのだ。俺が、足を伸ばしても十分な広さを持つ。それだけではなく、打たせ湯の機能や、かけ湯の機能もある。森下家の風呂はここまでの施設ではなく、桜さんもよく家に入りに来ていた。そのかわり、森下家は庭が広く、冷凍庫が冷蔵庫とは別にあるので、バーベキューや花火は森下家の庭で行うことが多かった。子供の頃は、ビニールプールでよく遊んだものだ。


 今日は、来客もあるので、頭を洗って、身体を洗って、湯船で身体を少しほぐしたら、出ることにしよう。


 ユウキの奴・・・あれほど言ったのに・・・。まぁいい、後で文句を言ってやればいいだろう。

 湯船につかって居るときに、玄関チャイムがなった。先輩たちだろう。


 パタパタ音がするから、ユウキが対応しているのだろう。そう言っても、俺も風呂からでることにした。

 脱衣所に出るが、タオルも着替えもない。


「おい。ユウキ!タオルと着替えがない」

「あぁぁごめん。タクミのタオル借りちゃった。かけてあるやつでよかったらつかって!着替えは、今から持っていく」

「タオル無いのか?」

「うん。ごめん。洗濯・・・乾いていなかった」

「あぁいいよ。ユウキ。借りるな」

「うん。いいよ!!」


 なにか、ユウキの嬉しそうな声が聞こえてきた。

 なにか、先輩たちからいいお土産でも貰ったのだろう。ドアの隙間から、手が差し伸べられた。俺の下着と作務衣だ。


「これでいい?」

「あぁありがとう。先輩たちは?」

「リビングに居るよ」

「髪の毛乾かしたら、行くよ」

「わかった」

「そうだ、ユウキ。風呂に入って、お湯を使ったら、追加しておいてくれよ。溜まるまで時間かかるからな」

「えぇだって、沙菜さんが、水は貯めなくていいって言っていたよ」

「オフクロは、よく断水する所の人だからな。いいよ。気にしなくて」

「うーん。わかった。でも、お湯は残っていたよね」

「あぁもう少し有ると嬉しいかな」

「わかった!覚えておく・・・予定で居るね」

「はい。はい。そのうち、自動で溜められるようにしておくよ」

「うん。そうして!」


 ドライヤーで簡単に髪の毛を乾かしてから、作務衣を着て、リビングに戻る。

 ユウキは、今日もシャツだけで過ごすようだ。俺の制服のシャツを上に羽織っているだけだけど、まぁ少し暑いから丁度いいのかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ