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伝説のピアニスト

作者: 内河弘児

ピアニストを目指して音大を出たが大した結果を残せず、ショッピングモール内にあるカルチャースクールで子どもや主婦たちを教えて糊口をしのいでいる。

(かろ)うじて防音室のある楽器演奏可のアパートに住んでいるが、肝心のピアノは先月売ってしまった。

ピアノ教室の隙間時間での練習や、家で紙に描いた鍵盤を使った練習ばかりで腕は錆びていく。

焦りはどんどんと募っていく。


ある日、楽譜を質屋に入れようと街を歩いている時の事だった。

雑貨屋のショウウィンドウに自分の顔が写っているのに気が付いた。頬はこけて目は落ちくぼみ、髪も乱れたみすぼらしい男が写っていた。

一日一食で過ごす日が続いているのだから当然だろう。

自分の顔から眼を背けようとした時、店内に一台のアップライトピアノが置いてあるのに気が付いた。

試し弾きと言えばピアノに触れるかもしれない。

気が付けば私は店内におり、蓋をあけてそっとピアノに触れていた。




眩しいばかりのスポットライトを浴びている。

オーケストラを従えての、自分の名前を冠したピアノコンサートのその舞台の上で。


雑貨屋で出会ったピアノの音は神の音といえる素晴らしい音色だった。店内にも関わらず夢中で弾いていたところ、店主がどうせ捨てる予定だったからとピアノを譲ってくれたのだ。

それから私の環境は目まぐるしく変化した。その中古のピアノで練習しはじめてから、次々とコンクールで優勝し始めた。

コンクール荒らしと呼ばれた私はありとあらゆるコンサートで一位を譲らず、やがてリサイタルやコンサートに呼ばれるようになり、今や私の地位は不動の物となったのだった。


オーケストラを従えたコンサートを終え、打ち上げ帰りのほろ酔い気分で帰宅した私の前にはあのアップライトの古びたピアノが置いてある。

その蓋部分をそっと優しくなで、私はピアノにそっと語り掛けた。


「さようなら、もう私にはふさわしくないピアノ。今までありがとう。」


私のスポンサーに手を挙げたメーカーから、有名ブランドのグランドピアノが送られることになったのだ。

今の私にふさわしい、立派なピアノが明日届く。



翌日の新聞には、ピアノ線にてバラバラに切断されてピアニストが殺されたという記事が掲載された。

死体は、覆いかぶさるよう倒れたピアノの下敷きになっていたという。

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