5.戦闘
俺とクルシュはバルクの商店へとやってきた。
相変わらず、ここにこればなんでもそろうと言えるほどの品揃え。
そして、店の奥には少し落ち込んでいるバルグの姿があった。
「バルグ、ちょっといいか?」
「……っす」
相変わらず何を言っているのかわからないが、それ以上に今日は声が小さい。
よく耳を澄ませるとなんとか聞き取れるほどだった。
「落ち込んでいるみたいだな。何かあったのか?」
「ユリ……、俺……、うぅぅ……」
悲しさのあまり、目元を抑えるバルク。
これだけだと何もわからない。
すると、どこからともなくユリさんが現れる。
「全く……、本当にボクがいないとダメなんだからね。バルクは……」
「ユリ……」
二人で抱き合っていた。
いったい何を見せつけられているのか……。
「えっと、ユリさん。バルグさんが悲しんでた理由って……?」
「うん、ボクと離ればなれになってるからだって。すぐ隣にいるのにね」
「あぁ、そういうことか……」
今までつきっきりで二人でいたわけだもんな。
それを考えるといきなり離れると悲しくなるのも無理はないか?
「あの……、ユリさん? お店の方は大丈夫ですか?」
クルシュが心配そうに聞いていた。
「さすがにボクも疲れたから少し休憩だよ。ずっと働き詰めだったから少しくらい良いよね?」
ユリさんがペロッと舌を出して微笑んでいた。
「まぁ、シロが来たら大変だよな……」
先ほどの様子を思い出して苦笑する。
お得意様には違いないのだろうけど、一人で店を大忙しにさせるほどだから、のんびりしたいユリさんからしたらどうなんだろう?
「どこまで抑えられるかわからないけど、シロにはあまり行かないようにいっておこうか?」
「ううん、大丈夫。シロちゃん、本当になんてモおいしそうに食べてくれるから、見ていても気持ちいいんだよ」
「ユリさんがそういうならいいんだけどな……」
「それより、バルグに何か用だったの? 通訳しようか?」
「俺……、だい……」
「えっと、すみませんけど、よろしくお願いします」
今日はいつにも増してバルグさんの言葉がわからなくなっている。
だから、ついついユリさんに甘えてしまった。
「それで、何を聞いたら良いかな?」
「あぁ、バルグさんにも城壁の工事を手伝って貰えないかとおもってな。商店も忙しいだろうけど、どうだ?」
「もち……」
「もちろん大丈夫だって。バルグも少しうれしそうだよ」
うーん、相変わらず表情が変わっているようには見えないんだけどな……。
ただ、なぜかユリさんにだけはわかるようだった。
「それなら、本当に申し訳ないけど、手伝ってもらっても良いか? 全く人手が足りてないみたいなんだ。俺たちだと足手まといになるようで……」
「それ……」
「それなら、商人仲間に声を掛けましょうか? だって」
「そんなことをしてもらっても良いのか? それなら俺としては凄く助かるが……」
「もち……」
「もちろん、このくらいで良かったら全然協力してくれるって。良かったね、ソーマさん」
「あぁ、本当に助かった。人が集まったら、この領地にも城壁ができるから、更に安全になってくれるはずだ:
「うんうん、それなら僕たちも安心できるもんね。それじゃあ、バルグ、頑張ってね。お弁当作って応援に行くからね!」
「がんば……」
バルグの目に光が灯っていた。
単純だな……。
俺はその様子に苦笑を浮かべながらも、強力な味方を得たことでなんとか城壁完成に目が見えてくれたことにホッとしていた。
◇
城壁を作製し始めてから50日を過ぎた。
ついに城壁の大半が完成し、いつでも魔物が襲ってきても防げそうなほどになっていた。
そんなタイミングで、ルルが現れる。
「ふふふっ、いよいよ城壁が完成間際になったようじゃな。つまり、この妾の出番、というわけじゃ」
「ルルちゃん、ここは危ないですから、あっちで遊びましょうね」
「はーい。って、子供扱いするな!?」
頬を膨らませて怒るルル。
「ルルの出番……ということは、上空からの敵に対する手段をついに教えてくれる……ということだな?」
「もちろんじゃ。ここはただ城壁を使うだけではなく、聖魔法による結界も同時に行うのじゃ。聖魔法に結界魔法があるじゃろ? むしろ、それは聖魔法の領域じゃ。そうすれば魔物なんて一撃なのじゃ!」
得意げに言ってくるルル。
確かに普通なら結界とか回復とかそういったイメージが浮かぶのが普通だよな。
「えっと、結界を張れば良いの? 触れたら爆発するけど?」
シロが本当に良いのかと、俺に向かって視線を送ってくる。
「さすがに危なくないか? 突然爆発するんだろう?」
「大丈夫だよ? 芸術だから」
シロが親指を立てて、にっこり微笑んでくる。
「いやいや、ただの危険な罠だからな!?」
「突然爆発するかも……って思ったら、やっぱり怖いですもんね」
クルシュが俺の意見に同意してくれる。
すると、シロが腰に手を当てながら言ってくる。
「突然爆発なんてそんなこと絶対にないよ! いつもわざと爆発させてるもん!」
「もっと悪いですよ!?」
クルシュが慌てて言っていた。
「えっと……、この領地には空を飛ぶ人間がおるのか? 結界を仕掛けるのは上空だけじゃろう?」
ルルが呆れ口調で言ってくる。
「あっ……」
確かにそれだと全く問題がない。
むしろ、城壁で歩いている人たちは防ぐことができるのだから、普通に暮らしている分には、まず爆発することはない。
むしろ、その領域まで届くことがなかった。
「なるほど……。確かにそれだとシロが爆発を起こしたとしても問題ない訳だ。まぁ、驚きはするけどな」
理由はわかったし、結界をシロに作ってもらった方が良いこともわかった。
あとは城壁さえ完成したら結界を作ってもらって……。
「えいっ!」
シロがかわいらしい声を上げて、魔法を使っていた。
「はいっ、これで上空に結界を張ったよ」
「そ、そんなに簡単にできるものなのか?」
「うん、魔法って簡単だからね」
本当に何も苦に思っていないようで、シロが大きく頷いてくる。
「そうなのか?」
俺はクルシュの方に確認をする。
しかし、クルシュは必死に首を横に振っていた。
「そ、そんなに簡単のはずがないですよ!? わ、私がずっと練習しててもほとんどできないのですから……」
「だよな……。俺の勘違いかと思ったぞ……」
簡単にできるのはシロだけのようだ。
「まぁ、これであとは城壁さえ完成したらこの領地は平和に――」
ドガァァァァン!!
いきなり上空で爆発が起こっていた。
「し、シロ!? け、結界のはずだろ!?」
「うん、ちゃんと結界だよ?」
「で、でも爆発したぞ?」
「うん、爆発するよ?」
何をおかしいことを言っているのかと言った風に言い返してくる。
「いや、だって突然爆発して――」
「さっき、魔物とかが襲いかかってきたら爆発するって言ったよね?」
その瞬間に大慌てでアルバンたちが駆け寄ってくる。
「ソーマ様!! 大変です! 魔物の集団が襲ってきました!」
「エーファが攻撃したら何か爆発しましたけど?」
「それはそこの爆弾トカゲが何かしたのだろう?」
「え、エーファは普通の攻撃をしただけですよ!?」
「そ、それじゃあ、魔物の集団はもう去っていったんだな……」
「いえ、撃退したのは空を飛んでいた魔物だけです。どうしましょうか?」
ブライトは質問してきていたが、既に武器を準備しており、その腹は決まっているようだった。
それなら俺としてもやることは一つだった。
「アルバン、戦える者を集めてくれ。魔物たちは撃退する。その指揮を頼む。クルシュは俺と一緒に戦えないものの避難を手伝ってくれ」
「はっ!」
「わ、わかりました」
「えっと、私はどうしたらいいかな?」
シロがいつの間にか骨付き肉をかじりながら聞いてくる。
「シロはアルバンに付いてくれ。いざというときは聖魔法を頼む」
「わかったよー。ご飯一杯でねー」
「こ、こらっ、シロちゃん! そんなことを言ったらダメですよ……」
「あははっ……、かまわん。手を貸してもらうんだ。そのくらいのことはさせてもらう」
「そ、ソーマさんもそんなに甘やかさなくて良いんですよ……」
「あははっ、約束だよ、お兄ちゃん」
シロはうれしそうに頷いてからアルバンの方へと近づいていった。
そして、二手に分かれようとするとエーファがさも当然のように俺たちに付いてこようとした。
「こらこら、エーファはアルバンたちの方だ」
「え、エーファは主様と一緒にいたいだけですよ……」
「そうは言ってもな……」
確かにエーファは常に俺のことを慕ってくれているけど、一緒に行動していることは少ないかもしれない。
だから、たまにこうやってわがままを言いたくなるのも仕方ないことかもしれない。
でも、相手は魔物だからな……。
「仕方がない。魔物の方には妾が手を貸そう」
ルルがアルバンの方へと移動する。
ただ、それを慌てて止める。
「さ、さすがに相手は危険な魔物だぞ? 危ないぞ?」
「妾を誰と心得ておる?」
「とっても可愛いルルちゃんですね」
にっこり微笑みながら答えるクルシュをスルーするルル。
「これでもずっと深淵の森の奥に住んでいた魔女ぞ? 雑魚の魔物の一匹や二匹くらいなら容易に倒せるわ」
確かに見た目が子供っぽすぎて忘れがちだが、ルルは危険と言われている深淵の森でずっと暮らしていたんだ。
自身に襲い来る危険を察することなら出来てもおかしくない。
「わかった。すまないけど、頼んだ」
「任せるのじゃ。主を手伝うと欲しいものがもらえるのだろう?」
「ま、まぁ、俺が準備できる程度のもので良かったらな」
前もって釘を刺しておく。
そうしないとルルならどんな要求をしてきてもおかしくなさそうだから……。
しかし、彼女はそれでも嬉しそうに頷いていた。
「もちろん問題ない。主が作った別の薬を貰いたいだけじゃ」
「それくらいなら……」
「よし、全力で潰してくる。少々待っておれ!」
ルルは意気揚々とアルバンのあとをついていく。
すると、それを見ていたエーファが頬を膨らませていた。
「むぅ……、主様はみんなに優しすぎますよ……」
「……どうかしたか?」
「なんでもないですよ。エーファもちょっと行ってきますね」
エーファもそのままアルバンたちについて行く。
さっきまで俺と一緒にいたいと言っていたのに良かったのだろうか?
しかし、進んでいったかと思うとすぐに振り返って言ってくる。
「もちろん、エーファが一番倒したらエーファのお願い聞いてくれるのですよね?」
「えっ!?」
「それじゃあ、いってきまーす!」
俺の回答を聞くことなく、エーファはアルバンたちの方へ向かって駆け出していた。
◇
この領地最高戦力の面々が全員で魔物の相手をしてくれることになったので、そこまで時間がかからないと思っていた。
でも、まさか避難を開始した瞬間に終わるとは思わなかった。
「主様ー! 約束通り、エーファが活躍してきましたよー!」
「お前、今さっき、俺を巻き込んで龍魔法を放っただろ!? 危うく死ぬところだったぞ!?」
「魔物も倒せたら本望じゃないのか?」
「死んで本望のはずないだろ!?」
アルバンとエーファが相変わらず仲よさそうにしている。
「確かに妾も見ているだけだったぞ?」
「エーファ様……、手加減をされていました……」
「こんがり肉……。ちょっと焼きすぎだよ……。やっぱり焼き加減はクルシュちゃんが一番だね……」
「アルバン様は龍如きには負けないわね」
他の面々も全員無傷で帰ってくる。
それを見て、俺は少しホッとしていた。
ただ、最近領地レベルを上げる以外で魔物が襲ってきやすくなっている。
それは何か事情があるのだろうか?
俺は一抹の不安を隠しきれなかった。
小説二巻までの内容は以上となります。
新作を始めました。
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