3.採取スキル
領地の広さは一気に倍ほどの広さになっていた。
魔物がいない、ただの森が領地になっている。
これだけ広がったなら建物を作るだけではなく、他にも色々と出来そうだった。
畑を整えたり、城壁を作るにも領地を使う。
それに今までは建物を作る事だけに目がいっていたけど、広場を作ったり、領地で訓練するための訓練所を作ったり……。
ここまで広がるとなんでもできそうだった。
ただ、広がっただけだとまだまだ村としか言えない。
せっかくレベルが上がったのに、このままではもったいないな。
それに、外からのトラブルが多く持ち込まれる現状を考えると、やはり早めに城壁を作る必要がある。
特に辺境であるということと、隣の領主に目を付けられていること、他にも様々なトラブルによって、常に外敵からの恐怖に駆られているのだから……。
いくら、エーファやアルバン、更にはシロがいるといっても、個々で対処できる問題には限りがある。
それを考えると余裕ができた今、作るべきはまずは城壁だった。
でも、そのために必要な物を考えると、今の領地にある素材じゃ足りなそうだった。
やはり、城壁といえばブロックなりレンガなり、それなりに頑丈なもので作らないといけない。そう考えると必要になってくるのは石材。
それもそれなりにランクの高いものを準備すべきだろう。
外敵から身を守るために必要なものなのだから、ここはなるべく強度の強いものを準備しておきたい。
しかし、今この領地で使えそうな石材は一種類だけ。
【名前】 石ころ
【品質】 E [石材]
【必要素材】 D級魔石(0/5)
【鍛冶】 E級石材(35/10)→石のオノ
さすがにEランク素材で城壁を作りたくない。
どれほど弱い城壁になるのか考えただけで想像できるのだから……。
せっかく作るのだから、ここだけはこだわっておきたい。
でも、この領地にある石材は今まで別のものを拾ってきたついでに拾ったものばかり。
あまり、高品質の石材がないのは仕方なかった。
ただ、これから領地を守ることを考えていたら、城壁は必ず必要になるものだった。
「うーん、城壁を作るとなると必要な素材は石材か? でも、建築スキルにはまだ城壁は表示されてないんだよな。他にも必要な素材があるのか? それとも純粋に領地のランクが足りないのか?」
「どうしましたか、ソーマさん。なにか悩んでいるみたいですけど」
考え事をしていると、隣にいたクルシュが聞いてくる。
「いや、この領地って色々と目立つだろう? 今までもクルシュがさらわれたり、魔物が襲ってきたりとかもしてたから、そろそろ城壁を作った方が良いのか、って思ってな」
「そ、その……私が攫われたから……ですか?」
「いや、クルシュだけではないかな。俺にはこの領地に住む皆を守る必要がある。そのためにできることを考えていたら領地を守る城壁がいるかと思えてきたんだ。でも、作るための素材がまだわからないし、無駄骨になるかもしれないが――」
「やりましょう!!」
俺の迷いを吹き飛ばすかのようにクルシュは力強く言ってくる。
「でも、クルシュにも色々と素材をとってきてもらうことになるぞ? それが無駄になるかもと考えると……」
「私なら大丈夫です! むしろやらない理由がないですよ!」
クルシュは目を輝かせて、グイッと顔を近づけてくる。
「そう……だな。ありがとう、クルシュに相談して良かったよ。それじゃあ明日から城壁を作るために頑張るか!」
「はいっ、頑張りましょう」
クルシュが笑みを見せてくれる。
その優しげな表情に何度助けられたか……。
直接はあまり言わないものの心の中でクルシュにもう一度お礼を言っていた。
「んっ? 領地を城壁で囲うのか? 魔法で感知するだけじゃダメなのか?」
そんな俺たちを見ていたルルが不思議そうに聞いてくる。
「いや、それだけだといざ襲われたときに大変だろう? 特にこの前みたいにオークとか黒龍王みたいなやつがこの領地に襲いかかってくるからな」
「た、確かにあんなやつがしょっちゅう襲ってくるならおめおめと暮らしていられないからな」
「まぁ、しょっちゅうって言うほどよく襲ってくるわけではないけどな……」
「でも、あんなドラゴンが襲ってくるならたかが壁程度だと足りないんじゃないか?」
「あっ……」
確かにルルの言うとおり、上空から襲ってこられたら、いくら頑丈な壁を作り上げたとしても意味がない。
そう考えると上空にもなにか対策が必要になってくる。
しかし、ドームみたいにすっぽりと覆う形だと、領地内が暗くなってしまう。
中々難しい問題だった。
「ふふふっ、まぁ、上空から襲ってくる敵に関しては妾に任せるが良い」
「おっ!? 何か対策があるのか?」
「まぁ、楽しみにしておれ。城壁ができた暁には妾の秘術をごらんにいれようぞ」
「ありがとうございます。ルルちゃん!」
クルシュがうれしそうにルルに抱きついていた。
「だ、抱きつくでない。そ、それに誰がルルちゃんだ!」
「ルルちゃんはルルちゃんですよー!」
「はははっ、仲がいいことは良いことだな」
「そ、ソーマ。こやつにやめさせるように言ってくれ」
「むぎゅー」
クルシュが満足するまで抱きしめられていたルルは、ぐったりとした様子で町へと戻っていった。
◇
翌日。
俺たちはさっそく石材の採取へ向かっていた。
俺とクルシュ、ラーレといったいつもの面々。
それに追加して、今回はシロとルルが同行している。
今日の目的は石材。
それも今まで拾ったことのないD級以上のものを採取することにあった。
D級が拾えたら御の字。
あわよくば、C級を採取できれば満足なのだけど……。
そう思っていたのだが――。
「ソーマさん、こっちにも落ちてましたよ」
「あ、あぁ……、助かる……」
クルシュがポンポンとC級石材を集めていた。
むしろD級石材の方が少ない。
おそらくはクルシュの採取スキルが影響しているのだろう。
【名前】 クルシュ
【年齢】 18
【職業】 メイド
【レベル】 1(1/4)[ランクE]
『筋力』 1+1[×2](29/100)
『魔力』 1+1[×2](0/100)
『敏捷』 1+1[×2](46/100)
『体力』 2+1[×2](28/150)
【スキル】 『採取』10+2[×2](854/5500)『釣り』3+1[×2](54/2000)『聖魔法』1+1[×2](78/1000)
気がつくとクルシュの採取スキルは10になっていた。
ずっと採取しかしてもらっていないのだから、あがりやすいのも当然だろう。
それと『鼓舞』や『激昂』の効果もあり、取れる石材レベルとしてはC級となっていたようだ。
激昂は俺自身の感情に作用してスキルを発動する。
発動自体は大変なものだったが、クルシュが側にいるときはその限りではない。
以前、彼女がさらわれたことを思い出すだけで容易に発動できていた。
しかも、その効果は数値の倍化。
かなり効果があるものになるので、こういうときには凄く助かる。
そして、採取スキルレベルが20以上あることになっているおかげで、おそらく採取できる素材のランクがEからCへと上がっているのだろう。
その証拠に――。
「ほらっ、私も拾ってきたわよ」
「妾も拾ってやったぞ」
「ここの草はまずかったよ……」
ラーレやルルが拾ってきたものはEランクのものだったのだ。
たっだ、クルシュが拾ってきてくれた石だけがCランク……。
「あ、ありがとう……。あと、シロ……、あまり変な物を食べるなよ。今日は万能薬は持ってきてないからな」
「あははっ、大丈夫だよ、お兄ちゃん。そう思って、毒草を拾ってきたよ」
抜け目がないシロ。
どうやら、いざ毒になったらこの場で薬を作れって事だろう。
そして、その様子を見たいってことまでなんとなく予想が付いてしまう。
まぁ、本当にシロが大変ならそんなことも言っていられないけど―。
「シロ、変なものは食うなよ?」
「んっ? もぐもぐ……。もちろんだよ?」
もう手遅れだった。
シロはルルから受け取った草を食べていた。
しかし、あまりおいしくなかったようですぐに吐き出していた。
「ぺっぺっ、これもまずいよ……」
「ふむ、残念じゃな」
「こらこら、わざと毒を食べさせるな!」
呆れ顔のまま、俺はルルを注意していた。
しかし、シロもシロだ。
もう少し食べる前に注意して欲しいと思うのは俺のわがままだろうか?
そして、俺は改めてクルシュが拾ってきてくれた石材について調べていた。
【名前】 石ころ
【品質】 C[石材]
【損傷度】 0/100
【必要素材】 B級魔石(0/15)
【鍛冶】 C級石材(0/10)→レンガ
C級になっても石ころは石ころなんだな。
粘土とかになっててもおかしくないんだけどな……。
ただ、予想通りにC級石材になると、鍛治でレンガを作ることができるようだった。
これならもしかしたら城壁も作ることが出来るかもしれない。
そんな期待を持ちながらクルシュにどんどん石材を集めてもらっていた。
それを、俺の下へと集めてもらっていたのだが、ここで問題が発覚してしまう。
「こ、これ……、どうやって持って帰ろうか……」
数が多くなりすぎて持ち運ぶにはかなり大変な量となっていた。
そもそも草と違い、一個一個の重量がそれなりにある。
それが数多く集まってしまったのだから、持ち運びに困るのは必然でもあった。
「クルシュ……も運べないよな。シロやルルも無理だろうし……」
「は、はい……。もうしわけありません」
「石は食べられないからね」
「妾が魔法でどうにかしようか?」
そういえばルルが引越しの際に使っていた魔法がつかえるのか……。
「そうしてもらえると助かる」
「なら代わりに薬を……。薬をくれないか?」
「――その言い方だとすごく怪しく聞こえるぞ……。回復薬でいいか?」
「もちろんじゃ」
交渉が無事に終わった俺たちはがっちりと固い握手を交わしていた。
◇
領地に戻ってくると、ルルが運んでいたたくさんの石を見て、アルバンが不思議そうに首を傾げていた。
「こんなに石を持って帰ってきて、何をされるのですか?」
「あぁ、城壁を作るのに使えると思ってな。まぁ、ちょっと待ってくれ」
水晶の力を使い、石材をレンガへと変えていく。
ただ、すごい数があり、作れば作るほど、レンガを置く場所に困っていく。
「アルバン、すまないがこのレンガを倉庫へと運んでくれないか?」
レンガ一個一個はそれなりに重量があるので、クルシュたちには頼めなかった。
アルバンは嫌な顔一つせずに、近くにあるレンガを幾つか持つと、空いている手で胸を叩いていた。
「それならお安いご用です。ソーマ様の頼みでしたら――」
すると、今度はエーファが駆け寄ってきて行ってくる。
「ま、待って下さい! それならこのエーファにお任せ下さい! アルバンなんかに任せられないですよ!?」
エーファが間に割って入ってくる。
俺としては運んでもらえるのならどちらでも構わない。
ただ、エーファの見た目からして、結構な重量があるレンガを運べるのだろうか?
俺たちの中で、ルルに次いで小柄のエーファに大量の石を持たせて必死に運ばせる光景を想像して、思わず首を横に振る。
「いや、やっぱりアルバンに任せる。エーファだと俺の良心が痛む」
「ソーマ様! 大丈夫です。こんなアルバンなんかにまかせずに私にまかせて下さい!」
「いえいえ、ソーマ様は私を直々に選んでいただいたのですから、私が運ぶのが当然です。このトカゲ風情にまかせるのは心配ですから」
「なに!? この最強のドラゴンである私に勝てると?」
「ドラゴンはドラゴンでも今は子供だろう?」
「その言葉は宣戦布告と受け取るよ!」
エーファとアルバンがバチバチと火花を飛ばし合う。
そんな彼らの姿を見て俺は思わず苦笑をする。
「待て待て。喧嘩をするくらいなら二人で運んできてくれ。そもそもどっちか一人だけに頼む理由がないわけだからな。二人で頼む」
「よし、それならどっちが大きい石を運べるか勝負だな」
「くくくっ、ドラゴンである私に勝てると思うなよ!」
二人がレンガを持つと走って行ってしまう。
「あっ、まだどこの倉庫に入れるか伝えていない――」
そう思ったとき、既に二人の姿は見えなくなっていた。




