2.アルバンの追っかけ
「いつでもいけますよ!」
アルバンの返答はクルシュの予想通りだった。
それを聞いた瞬間に俺はため息を吐いてしまう。
「本当に大丈夫なのか? 無理ならそういってくれて良いんだぞ?」
「ソーマ様の頼み……。このアルバン、それこそがご褒美にございます。今まで頑張ってきた甲斐があったというもの……。ぜひやらせてください!」
アルバンが心酔しすぎて怖いほどだが、ここは便りにさせてもらおう。
あと、声を掛けるべきなのはエーファとブルックとラーレか?
あとはシロも頼んでおくべきだな。
メンバーを考えて、全員が都合の良さそうな日を考えていた。
◇
結局、メンバー全員が揃う日にクエストを行っていた。
ただ、黒龍王のことを考えるとクエストは簡単すぎて、ここまでメンバーが必要だったのか、疑問が浮かんでいた。
魔物はゴブリンやウルフが多数とオークが十体。
徒党を組んでやってきたので、人数が少なかったら脅威だったかもしれない。
しかし、今の俺の領地には数をものともしない面々が揃っていた。
「ウルフ肉-♪ ウルフ肉ー♪ こんがりおいしいウルフ肉ー♪ 香ばしおいしいウルフ肉ー♪ えいっ!」
歌を口ずさみながら、にっこりと笑顔で爆撃を行っていくシロ。
その様子を苦笑しながら眺めていた。
弱い魔物はそれだけで消し飛んでいた。
そして、後に残されたオークはアルバンとエーファの的にされて、かわいそうなほどでもあった。
「筋肉、どっちが主様により相応しいか、あのデカ物を倒した数で競わない?」
「ふふっ、チビトカゲにオークが倒せるとでも? よし乗った! ソーマ様のためにこのアルバン、力を尽くします!」
「はいはい、どっちも頑張ってくれ……」
適当に応援しつつ、鼓舞を行うと気がついたときには全てのオークが倒し尽くされていた。
「どっちだ、どっちが勝った!?」
「当然このエーファの勝ちに決まってますよ。ねっ、主様」
エーファが微笑みかけてくるが、現れたオークの数も偶数。
倒されたオークの数も偶数。
勝敗が付くはずもなかった。
「これは……引き分けだな」
「ぐっ……、またしてもソーマ様に褒められるチャンスを――」
「ちっ、この筋肉と引き分けなんて、負けに均しいです……」
二人とも凄い数を倒してくれていたのに、なぜか悔しそうに口を噛みしめていた。
「それじゃあ、アルバン様はあたしと一緒に訓練をしてもらうって事で良いかしら?」
突然アルバンの腕に誰かがしがみついていた。
エーファかと思ったら、それよりも背丈がある。
「って、誰だ!?」
長い黒髪をしたアルバンとほぼ同じ背丈の男性。
ただ、筋肉質のアルバンと違い、どちらかと言えば細身の体型で俺と同じくらいの若い人だった。
突然、気配なく抱きつかれたアルバンが驚きの声を上げていた。
「アルバンの知り合いではないのか?」
「婚約者です!」
「ち、違いますよ!? 全く知らない奴です!」
「酷いですよ、アルバン様。あれだけ熱い夜を交わした仲なのに……」
「そうなのか?」
男が赤く照れた様子を見せているので、思わず信じそうになってしまう。
しかし、アルバンは必死に首を振って否定していた。
「ち、違います。違いますよ、ソーマ様。私とこいつはそういった仲ではなく、元部下になります!」
「実はそうなのですよ。ルイスって言います。アルバン様の追っかけを担当させてもらってました」
ルイスはニコッと俺に向かって微笑んでくる。
「筋肉はそういった趣味だったのか。なるほど……、良い趣味だ。これでエーファは主様と二人っきりで蜜月の日々を過ごせますね」
エーファがルイスに対抗してか、俺の腕にしがみついてくる。
「ちょっと離れてくれ。俺は今大切な話をしてるから」
エーファを無理やり引き離すと改めて俺はルイスの方へ向き直る。
「それで、アルバンの追っかけがこの領地へ何をしに来たんだ?」
「あたしもこの領地に住まわせてもらってもいいかしら?」
ルイスはにっこりと微笑む。
よくみると、ルイスの腰には二本の細い剣が携えられており、戦うことができるように見えた。
「アルバン、もしかしてルイスって魔物と戦うことは……?」
「もちろん、それなりの実力者です。元々は神聖騎士団……に入ろうと頑張っていた若者でしたので――」
あぁ、入ることはできなかったのか……。
アルバンのその言葉で大体のことを察してしまった。
「えぇ、私が落とし続けてましたので。神聖騎士にはそぐわないかと思いまして……」
権力で落としていたのか……。
思わず苦笑いをしてしまった。
一方のルイスは驚きの表情を浮かべていた。
「あ、あたしが落ちていたのはアルバン様の愛の鞭だったのね……。お前の力はこんなものじゃない。この程度で諦めるつもりなのかって……」
「えっ、ち、ちがっ――」
「任せてください! いつかアルバン様の目に適う素敵なレディーになって見せますから!」
「あ、あははっ……。な、中々濃い奴だな。アルバンのために頑張ってくれ」
苦笑を浮かべながらルイスに告げると、彼は少しむっとした表情を浮かべていた。
「アルバン『様』ですよ。あなたのような一領主がアルバン様のことを呼び捨てだなんて……いたっ」
ルイスがアルバンに叩かれていた。
「ソーマ様になんてことを言ってるのですか!? このお方は神にも等しいお方。いえ、神です!」
いや、違うぞ……。
いつの間にか神にまで昇格されられていることに苦笑をしながら、アルバンの話を聞いていた。
「いえ、神はアルバン様です!」
「私は敬虔な神の使いです」
「わかりました。それなら、私も神を目指します!」
「まぁ……、勝手にしてくれ……」
話を聞くだけで頭が痛くなってくる。
ただ、実力があるのなら、それはそれで助かるのも事実だった。
◇
ただ、いきなりやってきたルイスに仕事を任せるにしても、どのくらいの実力があるのかわからない。
そもそも、本当に領民になってくれたのかは、ステータスを見るより他なかった。
【名前】 ルイス
【年齢】 28
【職業】 剣士
【レベル】 28(0/4)
『筋力』 28(354/1450)
『魔力』 24(225/1250)
『敏捷』 35(367/1800)
『体力』 25(367/1300)
【スキル】『剣術』12(584/6,500)『建築』3(954/2,000) 『軽業』5(365/3,000)
本当にステータスが表示された……。
この領民になってくれたことには違いないようだ。
そして、アルバン同様に建築スキルがある。
これなら領内の建築を手伝ってもらっても良いかもしれない。
人でさえ足りたら、領地の塀なんかも作り始めることができるだろうから……。
それに戦える人が来てくれたこともありがたい。
これで領地のクエストが出たとしても全員を呼ばなくて良さそうだ、
「それじゃあ、ルイス。これからもよろしくな」
「ほらっ、ルイス。ソーマ様が握手を求めているぞ。このあとどうするかわかってるよな?」
「もちろんわかってるわよ。手をはたいて、敵だと認識して、斬りかかれば良いのよね?」
「そうだ……。って違う!! そんなことをしたら、お前を破門にするからな」
「じょ、冗談よ。もちろんしっかり握手を交わしますよ。そのあと、念入りに手洗いをすれば完璧ね」
なんだろう……。間違っていないのだが、凄く傷つく……。
思わず苦笑を浮かべながら、軽く……、本当に軽く握手を交わしていた。
「また変わった奴が加わったわね」
「あははっ……、こ、これもソーマさんの人望ですね」
「ウルフ肉、うまー」
「主様を害するならエーファが絶対に許さないからね!」
「エーファ様が許さないなら、私も絶対に許しません!」
それぞれが思い思いの事を口にしていた。
それから数日後。
意外とルイスは領地に馴染んでいた。
まず家はアルバンの隣に自分で建てており、アルバン自身が建てたものではないので、断るに断り切れず、そのまま満足げに住んでいるようだった。
そして、毎朝、アルバンと一緒に特訓をしてから、領地内の建築に取りかかってくれていた。
昼になると、ようやく活動を開始したエーファと言い争いをするアルバン。
すると、ルイスが参戦するが、そこにブルックも参戦し、ルイスVSブルックという構図もできあがってしまう。
ただ、それも俺の登場で収まる。
そこから改めて仕事の割り振りと進捗を聞いていく。
さすがに、毎日それを繰り返していたので、数日も過ぎれば俺も慣れてしまっていた。
これがこの領地の風景になりつつあった。
「さて、今日は前のクエスト後にどれくらい領地が広がったかを調べて回るか」
いつもの騒動を無視しながら、俺はクルシュに対して言っていた。
「わかりました。領内でしたら危険はないですよね?」
「まぁ、ここよりは安全だろうな」
今日も争っているアルバンとエーファを見ながら言うとクルシュも苦笑を浮かべていた。
「あははっ……、そ、そうですよね」
「全く、毎日騒がしいわね」
ラーレも呆れ顔を浮かべていた。
「……領地って勝手に広がるものなのか?」
ルルが不思議そうに聞いてくる。
まぁ、普通は国王などに領地を拝借していくものだからな。
俺みたいにボタンを押したら勝手に領地が広がってました……。
なんてことになると、回りの領主が黙っていなくてもおかしくない。
「まぁ、そういう領地があってもいいんじゃないか?」
事情が特殊すぎるので、それ以上言いようがない。
「そっか……。妾もまだまだ知らないことがあるんじゃな……」
「まぁ、ルルちゃんはこれから色んな事を覚えていきましょうね」
「うむ! って、今妾のことを子供扱いしなかったか?」
「気のせいですよ」
完全に子供扱いされていたけどな……。
「せっかくだからルルも一緒に来るか? 大したことはいないけどな。本当に散歩してまわるようなものだけど……」
「うむ、せっかくじゃ。妾も一緒について行くのじゃ」




