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やりこみ好きによる領地経営~俺だけ見える『開拓度』を上げて最強領地に~  作者: 空野進
2.3.魔女ルルの呪い

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6.ワギュー

 今度はシロのいる畑へとやってきた。

 すると、そこにはなぜかブルックもいた。

 小柄なドラゴンサイズになってシロの側を飛び回っているようだった。


「シロ様、シロ様。本当に昨日の魔法、凄かったですね」

「えー、そんなことないよ。あのくらい、クルシュちゃんにもできるからね」

「ほ、本当なのですか!? とてもそうは見えなかったんですけど……。つ、つまり、そんなクルシュ様が付き従っているソーマ様は――」

「もっと強いんだろうね。きっと……」

「や、やっぱりそうなのですね……。さすがエーファ様が付き従っているお方だ……」


 なんかとんでもないことを話しているように思える。


「まてまて、勝手に人を最強みたいに言うな。俺の能力はクルシュにも劣るぞ?」

「……ふぇっ!? そ、そんなことありませんよ!? ソーマさんは私なんかよりもっともっと立派で強くてその……」

「あぁ、褒めてくれるのはありがたいが数字的にはここは変えられないんだ……。もっと俺自身が鍛えないと……」


 そう思いながら、最初の時以来の自身の鑑定を行う。


【名前】 ソーマ

【年齢】 24

【職業】 辺境領主

【レベル】 1(0/4)

『筋力』 1(86/100)

『魔力』 1(0/100)

『敏捷』 1(24/100)

『体力』 1(87/100)

【スキル】『鼓舞』1(684/1,000)『激昂』1(4/1,000)


 ようやく次へあがりそうな雰囲気はあるけど、相変わらずの数値だ。

 まだ体力が2になっているクルシュの方が強いわけだ。

 まぁ、この数値はあくまでも数値化した本人の能力……と言うだけでしかない。

 俺みたいにスキルで味方にバフをしていくタイプや、クルシュみたいに後方支援するタイプは、正直パラメーターが小さくてもどうにかできる。

 しかし、ブルックはそうは思っていないようだった。


「そ、そんなことありませんよ!? 先ほどの素晴らしいシロ様の魔法を見ましたよね? ソーマ様ならそれ以上の力を発揮できるのですよね?」

「もちろん無理だぞ?」

「へっ?」


 ブルックは一瞬固まっていた。


「そ、そんなことありませんよね!? だ、だって、ソーマ様はあの白龍王エーファ様がお認めになったお方……。とんでもない力をお持ちのはずです!!」

「俺の力はあくまでも自身の領地や領民を鍛えることだけだ。まぁ、昨日のシロの魔法も俺のバフが乗っていたからいつも以上の力を発揮していた……とも言えるが」

「や、やっぱりそうですよね!? シロ様のお力の源はソーマ様なんですね」


 ブルックが納得していた。変な方向で……。

 まぁ、本人がそれでいいなら俺が口出しすることでもないか……。


「ところで、こんなところで何をして――。いつもの食事か」


 シロが畑にいる……と考えるとやることは一つしかなかった。

 そこまで深く考えても仕方ないな。


「お兄ちゃんもキャベツ食べる?」


 シロが少し悩んだ後、一番小さいキャベツを差し出してくる。

 もちろん、俺はキャベツを一玉、丸々食べる趣味はないのでそのままシロに返していた。


「それはシロが食べてくれ」

「えっ、いいの!? 食べたら返せないよ?」

「もちろん良いに決まってるだろう? 遠慮なく食うと良い。どうせまた明日には元通りに戻っているからな」


 シロはうれしそうに野菜を食べ始めていた。


「ここの野菜、おいしいけど、毎日だと飽きてくるね。野菜以外のものは生えてこないの?」

「はははっ……、ここは畑だからさすがに生えてこないな」


 なんでも生えてくる万能畑とかそういったものならまた変わったのかもしれないけど、さすがにそういった物ではない。

 だから、野菜しか生えないのは仕方ないことだった。


「それなら、私目が今度ワギューという魔物を捉えて参りましょうか? その肉は至高の一品と言われており、一度食べたらもう二度と忘れられないと有名なものにございますよ?」


 それを聞いた瞬間にシロの涎が滝のように流れていた。


「ちょ、ちょっと、シロちゃん!? さ、さすがにはしたないですよ!?」


 驚いたクルシュが慌ててハンカチをシロの口に当てていた。


「ありがとう……」


 クルシュはサッと口を拭いた後、冷静になった素振りを見せながらブルックに聞く。


「そのワギューという魔物は簡単に取れるものなの?」

「かなり希少種ですね。そう簡単には見つからないとは思いますけど、シロ様のためなら――」


 すっかりブルックはシロの信者になっているな。

 エーファに対してもこうだったのだろうな。

 自分の身を犠牲にしてまで、エーファのことを探していたわけだもんな。


「んっ? 和牛?」


 その魔物名、どこかで聞いたことがあるなと思ったら……。


「ちょっと発音が違いますね。和牛ではなくて、ワギューです。最後が下がるんですよ」


 ブルックが詳細に教えてくれる。

 でも、おそらく、俺以外にこの世界へやってきた人がいて、その人が名付けたのだろう、ということが容易に想像できる名前だった。

 もしかすると、今も俺以外にいるのか?

 そもそも、俺一人だけ転移した……ということは考えにくいよな。


「もしかして、その魔物はこの領地で放し飼いにして育てることとかできるんじゃないか?」

「……さすがに相手は魔物ですから危険だと思いますよ? 魔物使いがいないと……」


 ブルックが難色を示していた。


「この領地に魔物使いは……いないか」


 そもそもの人が少ないのだから仕方ないだろう。

 しかし、ブルックはポカンと口を開けていた。


「そうだった。私が魔物を操ることもできるのでした……」


 えっ? そうなのか?

 でも、ブルックのスキルに魔物を操る系のものはなかったはず……。

 いったいどういうことだろう?

 俺が首を傾げているとブルックが言ってくる。


「それなら実際にワギューを捕まえてきますね。見ていてください。私も役に立つところをお見せしますので」


 それからブルックは飛び去ってしまい、あとには俺たちだけが残されていた。


「えっと、ブルックはあのまま放っておいて良いのか?」

「私のご飯を取ってきてくれるっていってたから大丈夫だと思うよ?」

「えっと、シロちゃんはこのあと、どうするつもりですか? 良かったら私たちと一緒に領地を見て回りませんか? 色々と教えてあげますよ?」


 確かにシロもこの領地に来てからまだ間もないんだよな。

 あまりにも馴染んでいるのでそうは思わないけど……。


「うーん、魅力的な提案だけど、今日は遠慮するね」

「そう……ですか。用事があるのですね……」

「私にはないけど、クルシュちゃんにはあるみたいだからね」


 小声で呟いたその呟きはクルシュの耳には入らなかったようだ。


「それよりもお兄ちゃん!?」

「んっ、なんだ?」

「クルシュちゃんに手を出さなかったら許さないからね!」

「あ、当たり前だろう!? そ、そんな手を出すだなんて……。あれっ?」


 してやったりのシロと顔を真っ赤に染めるクルシュ。

 今のシロの言葉、なんだかおかしくなかったか?

 普通なら手を出したら怒る……だから、ついつい今回もそっちだと思い込んでしまった。

 しかし、よく思い返すと全くの逆。

 手を出さないと怒ると言っていた。


「し、し、シロちゃん!?!? な、なにを!?」

「あははっ…、それじゃあ、またねー!」


 とんでもない騒動だけ残して、シロは去って行った。

 ただ、後に残された俺たちは気まずい空気に包まれていた。


「そ、ソーマさん、さっきのシロちゃんのことは気にしないでください……。あ、あとで言い聞かせておきますから……」

「そ、そうだな……。き、気にしてないぞ……」


 クルシュの方を向くとちょうど目があってしまい、恥ずかしさのあまり顔を背けてしまう。

 ただ、これだと話が進まない……と、もう一度覚悟を決めてクルシュの方を見る。

 すると、彼女もちょうど覚悟を決めたようで、同じタイミングで振り向いてしまい、また目があってしまう。

 そして、再び俺たちは顔を背けてしまっていた。

 しかし、その光景があまりにも滑稽で、思わず笑ってしまう。


「あははっ……」

「ふふっ……」


 すると、俺の笑い声に釣られたのか、クルシュの方も笑みをこぼしていた。


「シロに踊らされすぎたな」

「そうですね」

「とりあえず、次はルルたちの様子を見に行くか」

「ラーレちゃんとも今日は会っていませんね? いつもならすぐに顔を出しに来るのに」


 確かに今の状況になったらからかってくるのがラーレだった。

 どおりで中々話が進まなかったわけだ。


「でも、どこにいるんだろうな?」

「ゆっくり探しましょう。まだまだ時間はありますので」


 そう言いながら再びクルシュは俺に向かって手を差しのばしてくる。

 その顔はさっき以上に真っ赤だった。


 ラーレは誰も住んでいない空き家の近くで発見した。

 どうやら部屋の中を探っているようだが、新しい家でも探しているのだろうか?


「ラーレ、こんなところでどうしたんだ?」

「あっ、ソーマ? クルシュも……。どうかしたの?」


 ラーレは不思議そうに聞いてくる。

 ただ、俺たちが手を繋いでいるところを見て概ね察してくれた。


「こんなところにいてていいの? 二人でデートをしてるんじゃないの?」

「で、で、デートだなんて、そ、そんなことないですよ!?」


 クルシュが顔を真っ赤にしながら必死に否定していた。


「そうだぞ。ただ、この領地内を見て回っているだけだ」

「まぁ、そういうことにしておいてあげるわ。それにいつまでも私と話していたら邪魔よね? さっさと二人でどこかへ行くと良いわ」


 ラーレはシッシッと手を振ってくる。

 それを見ていたクルシュが更に顔を真っ赤にしていた。


「わ、私はそんなこと別に言ってないですよ……」

「それより、ラーレ。ルルは見なかったか?」

「それより……ってどういうことですか? わ、私は――」

「ルルなら深淵の森にある家へ戻ったわよ」

「えっ!?」


 ど、どういうことだ?

 この町に住んでくれるっていっていなかったか?

 もしかして、昨日の騒ぎを見て嫌になったとか?

 頭の中がグルグルと回り、困惑してしまう。


「あぁ、違う違う。ほらっ、この領地に来るにしても荷物があるでしょ? それを取りにいったのよ」

「あぁ、そういうことなんだ……。びっくりしたぞ」


 どうやら俺の勘違いだったようだ。

 ちゃんとルルはこの領地へと来てくれるようだった。


「でも、もっとゆっくりしてから荷物運びをしてくれても良かったんだけどな」

「それが一刻も早くこの領地に来たいんだって……」

「それでも一言言ってくれたら荷物運びくらい手伝ったのにな――。アルバンが」


 この領地で荷物を運ぶのに役に立つのはアルバンくらいしか思いつかなかった。


「私もブルック当たりに頼んで、一気に運んだらどうって言ったわよ。でも、一旦一人で運びたいんだって。まぁ、あの家に思い出もあるでしょうし、ゆっくり待ってあげましょう」

「それもそうだな」


 確かにルルの場合だとかなり長い時間、あの家に住んできたわけだからな。

 別れを告げる時間とか欲しいのだろう。

 しばらくは戻れなくなるわけだから……。


「あの森まで領地を広げたらどうだろうか?」


 いったいどのくらいまでレベルを上げる必要があるのかはわからないけど、それでもルルのためにした方が良い気がする。

 そんなことをぼんやりと思っていた。


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新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『滅びの魔女の謀(はかりごと)』

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