5.建築
結局俺たちは二日続けてパーティーをすることとなっていた。
黒龍王の死骸はさすがに爆発された結果、ほとんど残っていなかったが、飛び散った肉片からかろうじて一人分くらいのステーキは作れそうだった。
だからこそ、シロの分には黒龍王のステーキが付いている。
「わぁ……、これが夢にまで見たドラゴンステーキ……」
シロは涎を流しながらうれしそうにドラゴンステーキを一口、頬張っていた。
そして、首を傾げていた。
「……あんまりおいしくない」
「だろうね……」
どちらかと言えば呪いを司っているドラゴンだったのだから、普通に考えておいしそうには見えなかった。
それでもあっという間に平らげてしまったシロ。
しかし、それだけでは足りないようで他の料理を食べ始めていた。
そして、俺は一人ポツンといたルルの側に近づいていった。
「どうしたんだ? もっとみんなのところへ行っても良いんじゃないか?」
「そうなんだけどね……。でも、こんなに簡単に不幸が解消されるんだって事を思い知らされてね……」
「ははっ、この領地の特徴でもあるけどな。ほらっ、ここは色んなタイプの人間がいるだろう? 普通の人は少ないかも」
「そうだね。確かに聖女がいたりドラゴンがいたり、おっさんがいたり……」
「おっさんというと普通の人になるけどな……」
「変わり者の領主がいたり、お節介な猫ちゃんがいたり……」
「誰が猫よ!?」
俺たち二人だけかと思ったら、ラーレも心配してくれたようで、建物の影からその姿を現していた。
全く気配を感じなかったのはさすがラーレと言ったところだろう。
「ラーレも心配してくれたんだな」
「まぁね。私も似たような経験をしたことあるから、放っておけなくてね」
「そっか……」
俺たちの領地に来る前の話をしているのだろう。
金を稼ぐためならなんでもしようとしていた昔の自分を――。
「でも、あんたがついてくれてるのならもう安心ね。ソーマはお人好しだから安心して頼ると良いわよ」
「まぁ、俺は俺で打算を持って力になっているのだけどな……」
「あははっ」
ラーレに笑われてしまう。
「あんたにそんな打算とかは似合わないわよ。もっと素直に行動する方があんたらしいわよ」
「はははっ、違いないな」
俺たちが笑っているとルルも小さく笑っていた。
「うん、本当にありがとう……」
◇
黒龍王を討伐し終えた翌日、俺たちは盛大に寝坊をしていた。
それもそのはずで二日続けてのパーティー。
しかも、そのどちらも朝まで続いていたことを考えると寝坊をしてもおかしくない。
むしろ起きていられる方がおかしかった。
「ふわぁぁぁ……、よく寝たな……」
すっかり日が昇りきった後に起きた俺は大きなあくびをして、ベッドから起き上がっていた。
あれだけ色々なことが起こった後なのに、何事も変わらない平穏な日常。
その幸せを噛み締めないといけないかもしれない。
服を着替えた後、いつものように食堂へと移動すると、クルシュが慌てふためいていた。
「あっ、そ、ソーマさん……。も、申し訳ありません。まだ朝食の用意ができてなくて……」
「いや、気にするな。ゆっくり準備してくれたらいいからな」
「そ、そういうわけにはいきません。ソーマさんのメイドとして、寝坊なんてあるまじき行い……」
あたふたと慌てているせいで、いつも以上に派手にやらかしている。
床には割れた皿が散らばっているし、そもそもクルシュの格好がめちゃくちゃだ。
髪はボサボサだし、寝巻きの上からいつもの服を着ている。
そんな状態だから、俺は一度ため息を吐く。
「そんなに気にしなくていい。それより、今の自分の格好を見たらどうだ?」
「はっ!? し、失礼します……」
顔を真っ赤にして大慌てで出て行った。
しばらくするとクルシュが戻ってくる。
その格好はようやくいつもの格好だった。
「お騒がせしました……」
「いや、気にするな。クルシュも疲れてるんだろう? ここ数日、色んなことがあったからな」
「いえ、それでも私はソーマさんのメイドですからしっかりしないと!」
グッと両手を握りしめるクルシュ。
その様を見ていた俺は、ため息を吐きながら告げる。
「今日、クルシュは一日休みな。好きなことをして、体を休めるといい」
「はいっ! って、えぇぇぇぇ……!?」
休みを告げた瞬間にクルシュの大声が部屋をこだました。
◇
結局クルシュ一人だと、休みに何をしたらいいかわからない、ということなので、俺と二人で領地内をぼんやり歩いていた。
これだといつもとしてることが変わらない気がするけど、俺の腕を掴んでいるクルシュは嬉しそうに微笑んでいた。
「本当にこんなことでよかったのか? やってることがいつもと変わらないけど?」
唯一違う点といえば、腕を掴まれていることだろうか?
こんな小さな領地内だと道に迷うことはないと思うが、念には念を入れているのだろう。
「はいっ。私はこうやってソーマさんと一緒にいられるだけで幸せですから……」
「まぁ、それならいいんだけどな……」
苦笑を浮かべながら領内を見て回るとちょうどバルクの店の隣でアルバンたちの姿を発見する。
昨日あれだけ騒いでいたにも拘わらず、今日にはもう仕事をしてくれている。
本当に底なしの体力だな。
今ではなくてはならない存在となっているので、この領地にいてくれるだけありがたい。
「アルバン、精が出るな」
「これはこれはソーマ様。おはようございます」
「別にわざわざ手を止めなくて良いぞ? それよりもこれって……」
アルバンが建築している場所はバルクの商店の隣。
つまり――。
「うん、早速ボクの料理屋を作ってくれてるんだ。本当にありがたいね」
やはり、ユリさんの料理屋を作ってくれているようだった。
これも必要な物だからな。
それにやっぱりアルバンがいると建物の建築が捗ってくれる。
「何か手伝うことがあったら言ってくれ」
「いえ、ソーマ様のお手を煩わせるようなことではありませんので。どこぞのトカゲにでも頼んでおきます」
「だれがトカゲですか!?」
アルバンの体を思いっきり蹴ってくるエーファ。
しかし、ステータスの差が大きすぎる故にアルバンには全くダメージは通らない。
「はははっ、それじゃあ私たちは建築の続きを始めていきたいと思います。ユリ殿にはどこに何を置くか、指示をお願いしたい」
「うん、任せて!」
「――っす」
バルクも一緒にユリとついて行く。
その感も相変わらずアルバンとエーファは喧嘩をし会っていたので、俺は苦笑しか浮かばない。
「相変わらずの二人だな」
「仲が良いことは良いことですから……」
「それにしても、エーファはあっさりしていたな」
「……どういうことですか?」
「ほらっ、だって自分に呪いを掛けた因縁の相手があっさりシロに倒されていただろう? それなのにあまり何も言わないんだなって……」
「あぁ、そういうことですか。結構思うところはあると思いますよ。だって、さっきのアルバンさんに対するツッコミ、いつにも増して威力が低いですよね? きっと思うところがあって、力が入ってないんですよ」
「確かになんだかあまり効いていなさそうだったよな。ステータスに差があるからだと思っていたけど」
「それでも、エーファちゃんは経験豊富ですからね。相手にダメージを与える方法はいくらでもあるはずですよ」
確かにいつものアルバンはもう少し痛がっている。
そのことを考えるとエーファにも思うところがあったのだろう。
「一応少し気に掛けておくか……」
「それがいいですね」
遠目でアルバンたちのことを眺めていると、確かにアルバン自身もさり気なく気を遣っているようだった。
いつもほど切れの良いツッコミをせずに、さり気なく構っている、に留まっているようだ。
よく見ると建築資材はほとんどアルバンが持っているし、実際の建築もアルバンがしている。
エーファはただ側にいるだけなのだ。
いつもならエーファが邪魔をしたり、アルバンが無理やり働かせたり……とうはしているのだが――。
まぁ、すぐに元の関係に戻るだろうけど……。
そんなことを思いながら俺たちは次の場所へ移動するのだった。




