3.青い鳥
しばらくすると、ルルは泣き止んでいた。
必死に目を擦り、笑みを見せていたが、その目は赤く腫れており、鳴いていたことが一目瞭然だった。
「良いところを持って行かれたわね」
「そんなことないよ。ラーレがいてくれたから何とかなったんだよ」
「まぁ、いいわ。後のことは任せたわよ」
ラーレは手をひらひらと振ってくるとそのままクルシュたちの方へと向かって行った。
「ルルは……、ちょっと顔を洗った方が良いか?」
「う、うん、そうしたいかな……」
「わかった。あまり目立つのも嫌だろうから、俺の家へと来るか?」
その言葉を聞いたルルは一瞬顔を赤めていた。
「えっと、ち、違うぞ? そういう意味じゃない……」
「わ、わかっているよ……。うん、大丈夫……。ありがと……」
大人しくなったルルは素直に俺のあとをついてくる。
その間に俺は水晶でルルのことを見ていた。
【名前】 ルル
【年齢】 200
【職業】 魔女
【レベル】 25(0/4)
『筋力』 5(12/300)
『魔力』 65(684/3300)
『敏捷』 25(74/1300)
『体力』 5(4/300)
【スキル】『闇魔法』10(31/5500)『調合』8(125/4500)『罠作成』10(45/5,500)『青い鳥』--
あれっ? 別にルルに不幸なんてスキルはないけど……?
それにレベルがないスキルが一つある。
さすがにこういったものは見たことがないので、不思議に思ってしまう。
だからこそ、そのスキルをより詳細に調べてみる。
『青い鳥』
不幸を乗り越えたものに幸運を与える。
このスキル分を読んでいる限りだと、別に悪いスキルのようには思えない。
ただ、その不幸の度合いに夜かもしれない。
あと、このステータスが表示できたと言うことはルルもここの領民になってくれることを承諾してくれたって事で良いだろう。
俺の家へとやってくると、ルルを風呂に案内していた。
そして、俺は自分の部屋へと戻ると、疲れが出たのかそのまま眠りについていた。
そして、翌朝。
騒々しくて目が覚めた俺は眠気眼のまま窓から外を眺めていた。
「あっ、ソーマ様、ちょうどお呼びしにいこうと思ったんですよ」
アルバンが慌てた様子でやってくる。
「どうかしたのか?」
「それが……、突然この領地に大量の魔物が襲いかかってきまして……。今、対策を講じているところにございます」
「ま、魔物が!?」
今までなら領地レベルを上げたときくらいしかこの領地を魔物が襲ってこなかった。
それがどうしていきなり襲ってきたのだろうか?
疑問に思ってしまうが、とにかく今はその対策を講じる方が先だった。
「わかった。すぐに準備をする。アルバンはそのまま迎撃の準備をしておいてくれ!」
「はっ、かしこまりました」
「あと、エーファやブルックはどこにいる?」
「おそらくこの時間はまだ寝てると思います。今朝方まで騒いでいましたから――」
「くっ、なんて間が悪いんだ……」
魔物からしたらこれ以上ないタイミングだ。
なにせ昨日騒いでいたおかげで、まともに戦える人がほとんどいないのだから……。
「アルバン、一応ラーレも探し出して、一緒に行ってくれ。より状況がわかると思う」
「かしこまりました。では、私はこれで失礼します!」
アルバンは一礼すると、すぐに駆け出していった。
「――まさか、領地レベルアップのクエストが勝手に始まっていないよな?」
今の状況で思い当たる節はそのくらいだった。
だからこそ俺は水晶の杖を取り出して、この領地レベルを調べていた。
【領地レベル】 4(32/32)[村レベル]
『戦力』 21(63/120)[人口](24/31)
『農業』 10(8/55)[畑](8/10)
『商業』 13(1/70)[商店](6/10)
『工業』 16(2/85)[鍛冶場](1/1)
「やっぱりそうか。いつのまにか数値を満たしているのか。でも、どうしてクエストが始まっている? いつもなら俺が始めないと始まらないのに……」
もしかして自動で始まる強制イベントとかがあるのだろうか?
確かに数字としても次で領地レベルが5。
5の倍数ごとに強制イベントが発生する……、と考えるとこのタイミングで起こることも頷ける。 しかし、昨晩俺の家に泊まっていったルルはそうは思わなかったようで、青白い顔をしていた。
「る、ルルのせいで……。ど、どうしよう……」
「あぁ、この程度のトラブルなら日常茶飯事だ。気にするな」
俺が微笑みかけるが、ルルの表情には陰りが見えたままだった。
「私のせいで迷惑が――」
「いや、これはチャンスだ。せっかくランクの高い魔物が向こうから来てくれてるんだからな。高ランクの素材をゲットできる」
「で、でも……」
ルルの不安ももっともだ。
でも、個々の戦力を考えるとそうそう困る問題は出てくるはずもない。
「安心するといい。あとのことは俺たちに任せて――」
ルルの頭を撫でようとした瞬間に今度はクルシュがやってくる。
「こ、ここにいらっしゃいましたか……」
少し息が上がっているクルシュ。
その様子からおそらく襲ってきた魔物のことだと理解できる。
「どうした?」
「は、はい……。それがその……。襲ってきた魔物がわかりました」
「そうか……。それで相手は一体誰だ?」
「相手はドラゴン。黒龍王です!」
そのことを聞いて、俺は思わず口を噛みしめてしまう。
かつてのエーファをも圧倒したドラゴン。
それほどの相手がなぜ、こんな小さい領地を襲いにくるのか……。
「エーファもブルックもいるからか……」
「ど、ど、どうしましょう……」
「慌てるな、まだ襲ってきてないなら対処はいくらでもできるはずだ!」
「し、しかしどうやって――」
「とりあえず、クルシュはすぐにエーファとブルックを呼んできてくれ。俺もすぐに出る準備をする!」
「は、はい、わかりました。すぐに呼んできます!」
クルシュは大慌てで走って行った。
そして、後に残されたのは俺とルルだけ……。
彼女はますます泣きそうな表情を見せていた。
「や、やっぱりルルがここにいたら迷惑が――」
「そんなことはない!!」
ルルが再びネガティブなモードに入っていたので、俺はすぐに否定していた。
「で、でも……」
「この領地にエーファがいる以上、黒龍王はいつか戦わないと行けない相手だったんだ。そのタイミングが早まっただけのこと。特段気にすることもないだろう?」
「で、ですが、相手は私が苦戦したブルックさんよりも強い相手なんですよね? しかも今度はまともに戦わないと行けない……。たったこれだけの人数だと、全滅してしまわないですか?」
確かに全盛期のエーファが板ならまだどうにかなったかもしれないが、今のエーファだとどうすることもできない。
そもそも黒龍王の情報がすぐなすぎて対策が取れない。
だから、エーファが持っている情報が頼りだった。
「とにかく見てると良い。この程度の不幸なんて跳ね返して、ルルが不幸の魔女じゃないって事を証明してやるからな!」
「う、うん……」
ルルは一瞬驚いたもののすぐに大きく頷いていた。




