1.ルルの悩み
一歩後ろに引いて、今にも泣きそうな表情をしているルル。
その顔を見てしまった俺は、彼女に近づいて尋ねていた。
「どうしたんだ? なんだか悲しそうな表情をしていたが?」
「そ、そんな表情してないのじゃ!? お主の勘違いなのじゃ!?」
「そうか? それならいいが……。それより、このあと俺の領地で仲間が増えたパーティーをするんだが、ルルもくるか?」
「わ、妾が行くと主たちに迷惑が……」
「今更水くさいですよ!? ルルちゃん一人増えたくらいじゃ困らないですから……」
クルシュが俺に同意をしてくれる。
確かにここには大飯ぐらいがたくさんいる。
小柄なルル一人くらい、誤差の範疇だろう。
「そ、そういうわけじゃない――」
「あれっ? ルルちゃんはご飯いらないの? それなら私が代わりにもらってあげるね!」
シロがうれしそうにしていた。
しかし、すぐにクルシュが怒った表情をシロに向けていた。
「もう、シロちゃん!! ちゃんとシロちゃんの分も用意しますから人の分まで取ったらダメですよ!」
「で、でも、食べないならもったいないよ?」
「た、食べないとは言ってないのじゃ!? ただ、妾は――」
「あっ、食べるんですね。それじゃあ、早速向かいましょう……」
クルシュはシロの手を掴むと、俺たちの前を歩き始める。
「ほらっ、嫌がる奴はいないからな。一食くらい食っていけ」
「い、一食だけじゃからな! それが終わったらすぐに帰るからな!!」
「あぁ、わかってるよ。それじゃあ、行くか!」
俺たちは先を歩いているクルシュたちに追いつくべく、足早に向かって行く。
◇
領地へと帰ってくると、早速シロは畑の方へと向かって行った。
まぁ、それはいつものことなので放置しておこう。
「よし、それじゃあ、おれたちもパーティの準備をするか。クルシュとラーレは食材を集めてくれ。シロに全て食い尽くされる前にな」
「わかりました」
「全く、シロがいるせいで慌ただしいわね!」
クルシュとラーレは軽く目配らせをすると、お互い違う方向へと進んでいった。
この辺りは長いこと一緒に暮らしてきただけはある。
言葉に出さずとも、雰囲気で何を取りにいくかわかりあっているようだ。
「アルバンはユリさんを呼んできてくれ。パーティーだと言えば全て察してくれるはずだ」
「かしこまりました!」
アルバンは軽く頭を下げた後、ゆっくりバルクの商店へと向かって行った。
「主様、エーファは?」
「エーファはブルックの相手をしていてくれ。今日の主役の一人だからな。丁重にもてなしてくれ」
「むぅぅ……、チビのブルックにはもったいないですよ……」
「そういうな。これから一緒の領地に暮らすんだからな。大切な仲間だ」
「……仲間と家族ってどっちが上だろう?」
しょうもないことを真剣に考え出すエーファ。
その頭の上には小型化したブルックが乗っていた。
「相変わらず騒がしいメンバーじゃな」
「でも、やっぱり一緒にいると楽しいぞ?」
「それはあるかもしれんな。じゃが、妾は――」
「どうしてそこまで複数でいようとするのを拒むんだ?」
なんだが、ルルが敢えて俺たちを離そうとしているように思えたので、思わず尋ねてしまった。
「ど、どういうことじゃ?」
「俺にはルルが一人でいたいと思っているようには思えないんだ。でも、わざわざ一人でいようとしている。そこには何か理由があるんじゃないのか?」
「そ、そんなものないのじゃ。べ、別に理由があるわけじゃないからな!」
やはり何か事情があるようだった。
でも、それを教えて貰えるほどまだ親しいわけじゃないと言うことか……。
ルルを仲間にするイベントはまだ進行途中なのだろう。
ドラゴンのブルックをいなくさせるだけじゃ、たりないようだった。
「そうか……。まぁ、話したくないのなら無理に話さなくてもいいぞ。そのうち話したくなったらそのときは話くらい聞くからな」
「――すまん。助かる……」
それ以上ルルから口を開くことはなかった。
そして、俺たち二人の時間もクルシュたちによって遮られることになった。
「ソーマさんー! 食材揃いましたよー!」
「ふんっ、これじゃ絶対にたりないからバルクに大量注文しておいたわよ? それで良かったのよね?」
「あぁ、助かった。それじゃあ、今日のところは大量に飯を食っていってくれ。瑠璃さんの料理はうまいからな!」
俺がにっこり微笑んで手を差し出すと、今度はルルがその手を取ってくれていた。
そして、小声で「こやつらなら妾の呪いもどうにかしてくれるかもしれないのじゃ……」と呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。




