2.深淵の森
俺の領地から歩くこと二日。
ようやく深淵の森へとたどり着く。
本当ならもっと早く着く予定だったのだが、どうしても騒ぎを起こすメンバーと共に行動すると、その移動移動に時間がかかってしまい、想定よりも多くの時間がかかってしまった。
ただ、この道中に危険は全くなかった。
それもそのはずで俺たちの中にいるのは白龍王たるエーファ。
いくら、幼女の姿になっているとはいえ、彼女を見た瞬間に魔物たちは怯えて、逃げ去っていた。
たとえそれが見たこともない高ランクの魔物であっても……。
「なんだか暇ですね。やっぱりこんな森、焼き払った方が捜し物が見つかるんじゃないですか?」
「いやいや、一緒に燃えるからな?」
エーファが口から炎を吐こうとするので、それを止める。
「それにしても不気味なところですね」
クルシュが不安げな声を上げてくる。
いつの間にか俺の袖を掴んでいる事に気づいていない。
でも、不安に思う気持ちは良くわかる。
ただでさえ、日の光も入らない薄暗い森の中。
しかも、地面は湿っており、所々ぬかるんでいる。
物音は俺たちの音しか聞こえない。
エーファのおかげで魔物が出てこないが、それが逆に静かすぎて不安を感じてしまう。
「ラーレ、一応警戒を高めておいてくれ」
「もちろんよ。既にやってるわ」
「一応ソーマ様は私の後ろへ」
アルバンの後ろに待機する。
ただ、なぜかエーファが静かなのが気になった。
「エーファ、何かあったのか?」
「……主様。あれはなにかな?」
エーファが指差したところには、すっかり白骨化した遺体が転がっていた。
「ひっ!」
クルシュが小さな悲鳴を上げる。
「人の死体かしら?」
「やっぱり危険なところのようですね。ソーマ様はこのアルバンが身を挺してお守りさせていただきます」
「うーん、人ではないみたいだね。何かの動物かな?」
シロが実際に骨を触って調べていた。
「し、シロちゃん!? な、何をしてるの!?
「えっ? 骨を調べてるんだよ? おかしいことかな?」
「お、おかしいですよ!? どうしてそんな怪しいものを気軽に触れるのですか!?」
「別に骨が動くわけじゃないからね」
「そ、それはそうだけど……」
「あっ、でも、死霊系の魔法だと動かせるみたいだね。この骨も動くかも――」
「ひっ!?
クルシュが俺の後ろに隠れる。
その表情はすっかり涙目になっており、さすがにかわいそうに思えてくる。
「シロもその辺にしてやってくれ」
クルシュの頭を撫で、宥めながら言う。
「あははっ、仕方ないね。これ以上、この骨については言及しないね」
「それにしても、どうしてこんなところにあるンだろうな? もしかして、噂の信憑性を与えるため? もしかすると、ここに噂を流した人物がいるのかも……」
それが一体誰なのか?
いや、考えるまでもないな。
ここに住む魔女がそれを仕掛けたと考えるべきだろう。
噂の真偽はわからないが、魔女が住んでいることだけはたしかのようだ。
つまり、どんな危険があってもおかしくないわけだ。
「これから警戒していくぞ? これから先にどんな罠があるかわからないからな」
一応わかっているとは思うがメンバーに注意を促す。
しかし、すでに手遅れだったようだ。
「主様ぁ……、助けて下さい……」
エーファが罠にかかり、ロープに雁字搦めになっていた。
「はぁ……、アルバン、頼む」
「はっ! これをチャンスにドラゴンステーキを作りましょう」
「ドラゴンステーキ!? 私は大盛りで!!」
「え、エーファは食材じゃないよー!!」
「あのあの……、ソーマさんが言いたいのはそういうわけじゃなくて……」
「あぁ、そうだ。助けてやってくれって事だ。エーファのことを食べるはずがないだろう?」
「主様ぁ……、エーファは信じておりました……」
結局クルシュがエーファを助けていた。
「森の奥に確か魔女がいるんだったよな?」
ここの住人なレアな素材がどこにあるのか分かるかもしれない。
確かに危険なアイテムかもしれないけれども、噂はあくまでも噂。
実際に会ってみるとそうでもないかもしれない。
そう考えた俺はさらに森の奥深くへと進んでいく。




