1.魔女
アルバンたちが帰ってきてくれたおかげで、戦力が整った。
今日こそはSランク毒草を見つけよう。
この辺境の珍しい素材が生えやすい土地、クルシュの採取スキル、俺の鼓舞スキル。
このすべてを使えば、 高ランク毒草も見つかってくれるはず。
ただ問題はやはり森の中を歩くので、どうしても魔物と遭遇するということだった。
俺やクルシュ、ラーレだとどうしても行ける場所に限界がある。
でも、今はアルバンやエーファ、更にシロもいると考えたら、行ける幅が広がってくれる。
「ラーレ、この辺りであまり人が入らないような場所はないか?」
「そうね……、少し遠くなるけど、いつもの森を抜けた先に深淵の森と呼ばれている場所があるわよ。人が行かない場所ならそこかしら?」
深淵の森?
俺が首をかしげると、クルシュが更に詳細に説明をしてくれる。
「深淵の森はこの領地のずっと北にある誰も踏み入れない森のことですね。強い魔物がたくさんいる上に、森の奥には怪しげな魔女も生息していると聞きます。その魔女に出会って生きて帰ってきた者はいないらしいですよ」
どうやら曰く付きの場所のようだった。
「魔女か……」
魔女と言えば、やはりイメージは怪しげな老婆か。
もしかすると、既にSランク万能薬を作っているかもしれないな。
ただ、それはあくまでもイメージで、実際は若い人間かもしれない。
魔女なのに男……、という可能性も考えられる。
さすがに会う前から、その人の評価を下すわけにはいかない。
「とりあえず、これだけの戦力がいればいきなり襲われても大丈夫か。今日はその深淵の森へ行ってみるか」
一応ではみんなに確認をする。
「私はソーマさんが行かれるところでしたらどこへでも……」
「ダメだと行っても行くんでしょ? なら私はできることをするだけよ」
「ソーマ様は領地で休んでいてください。ここは私目にお任せ下されば、最高の結果をお持ち帰りします」
「アルバンなんかにまかせられないよ。主様の頼みを一番かなえられるのはこのエーファだよ?」
「なら、勝負するか?」
「負けて泣いても知らないよ? 深淵の森を燃やし尽くせば良いんでしょ?」
「燃やしたらダメでしょ!?」
「はぁ……、話を聞いてなかったんだな。今回の目標は素材採取だ。魔物を倒しに行くわけでも、森を燃やしに行くわけでもないぞ?」
「えっ!? 違うの? 私は爆破させるつもりでいたよ?」
まさかのシロはエーファに同意していた。
「爆破もダメですよ!? もう、シロちゃんは聖女なんだからもっとお淑やかにしないといけないですよ?」
「好きで聖女になった訳じゃないからね。大体魔力の高さだけで決めるのはおかしいと思うんだ。もっと聖女らしい聖女が良いなら、それこそクルシュちゃんで良いと思うんだよね?」
「わ、私はダメですよ……。ソーマさんのお手伝いをするほうがいいですから」
「そっか……。うん、残念だね。でも、お兄ちゃんと一緒に暮らすなら仕方ないよね?」
「そ、ソーマさんと暮らす!? そ、そ、そんなこと、誰も言ってないですよ!? 言ってないですからね!?」
ただ、確認をしただけなのだが、騒々しくなるのは仕方ないのだろうか?
でも、一つだけわかったことがある。
誰も反対をしていないと言うことだった。
「えっと、また一緒の部屋に住むのか? たくさん建物ができたから、別の建物に移ったけど、部屋は空いたままだからな」
「わわっ!? だ、大丈夫ですよ!? し、シロちゃんの戯れ言ですからね!?」
「良いじゃん、クルシュちゃん。これからまた一緒にソーマさんと暮らせば。前にも住んでたのなら大丈夫だよね?」
「それはそうですけど、でも……」
「まぁ、気が向いたら一緒に住んでくれてもいいよ」
「あっ……、はい……。ありがとうございます」
クルシュは少し恥ずかしそうに小さく頷いていた。
「それより、深淵の森に行くのにこれだけの戦力がいたら大丈夫かな?」
「確かに危険な場所ですもんね。どうでしょうか?」
クルシュが不安そうに聞いてくる。
「主様はこのエーファがお守りいたします!」
「ソーマ様はこのアルバンがお守りいたします!」
またも政府が被ってしまう。
そのことで二人はお互いにらみ合っていた。
その様子を見てため息を吐かずにはいられなかった。
「筋肉ダルマには任せていられない!」
「何よこのトカゲ風情が!」
「はぁ……、お前たち、いい加減にしてくれ。喧嘩ばかりしているなら置いていくぞ?」
「……」
「……」
置いていかれるのがよほど嫌なのか、二人とも一瞬で黙っていた。
その様子を見て、「子供か!?」と言いたくなるのをグッと堪える。
「ドラゴンステーキ……」
シロが涎を流しながらぽつりと呟く。
行くのは問題ないけど、本当に大丈夫なのか不安になってくるメンバーだな……。




