16.シロの決意
それはいつもと変わらないある日のことだった。
普段と同じようにシロは厨房へ忍び込み、食材を漁っていた。
これも日常になりすぎて、もう咎める人はいなくなっていた。
それだけなら大丈夫だったが、今日に限っては保管されている食材がほとんどなかった。
シロが想像以上に食べるので、新たに買い出しに行っているところだった。
しかし、そんなことは知らないシロ。
どこかに食べるものはないのか、と食料庫の他に近くの棚なども探し始める。
すると、棚の中から、瓶に入った蜂蜜を発見する。
嗜好品であるとても甘い蜂蜜。
教会では催し物や記念日以外では食べることはなかった。
「あれっ? 今日がその日だったかな?」
そんな疑問が浮かびながらもついついシロはそれを食べてしまった。
挙句の果てには、その瓶を盛大に割ってしまう。
しかし、これは教会の長が突然の来客用に補完していた貴重な蜂蜜。
しかも、今日に限ってその来客が来てしまい、大騒動が起こっていた。
教会の長は大変な恥をかいてしまい、犯人捜しに躍起になった。
これだけの騒動を起こしてしまっては教会にいることはできない。
犯人探しが始まった時に、シロはここから出ていく決意もした。
しかし、そんなシロを守ったのは他ならぬクルシュだった。
日頃からどんくさいところもあったクルシュ。
彼女がはちみつを割ってしまったとしても、疑わない者はいなかった。
ただ一人、全てを知っているシロを除いて――。
そして、クルシュは聖女見習いをやめることになったのだ。
彼女は最後まで自分がどんくさかったせいだと言い張って――。
◆
「あれから、いつかクルシュちゃんに恩を返したいと思っていたんですよ。その気持ちは聖女になった今も変わってないよ」
「昔の話ですよ。今はソーマさんの下で楽しく暮らしていますから安心してください」
クルシュは頬を紅くしながらにっこりと微笑む。
すると、シロは何かピンと来ているようだった。
「わかったよ、それなら後のことは私に任せて! 何とかしてお兄ちゃんとクルシュちゃんの仲を取り持ってあげるね」
「えっ!?」
クルシュの顔が真っ赤に染まる。
そして、しばらく動きが固まっていたが、突然動き出す。
「ダメダメダメ!! そ、そんなことをしたらダメですよ!?」
クルシュが大慌てで全力否定していた。
「でも、クルシュちゃんってお兄ちゃんに気があるんだよね? 私、お手伝いするよ?」
「そ、そんなことない……こともないけど、でもでも、そんなことをしたら、ソーマさんに迷惑がかかってしまいますから……」
「そんなこともないと思うけどね……」
シロはどこか納得していない様子だった。
「分かったよ、それなら様子を見てこっそりサポートするね」
結局シロは 最後まで諦めてくれなかった。
それがクルシュの助けになると思っているんだろう……。
だから、クルシュも強くは言えなかった。
◇
それから数日が過ぎた。
特に何事もなく平穏な日々を送っていた俺たちだが、ついに騒がしい日常が帰って来る時が来てしまった。
「ソーマ様! アルバン、無事に任務を終えて帰省いたしました」
「主様、あなたのエーファがミッションを終えて帰って参りました! 褒めてください!」
「くっ、大事なところで……。このトカゲめ……」
「むぅぅ……、主様に報告するのはこのエーファの仕事ですよ……」
言葉がかぶってしまったことで、 アルバンとエーファが睨み合っていた。
「はいはい、 喧嘩はほどほどにしてくれ。それより王都に行って何かあったか?」
二人の間に割って入り、手を叩いて話を止める。
「それが、 聞いてください主様! この筋肉ダルマがまともに食事もさせてくれなかったんですよ!?」
「何を言うか! あれが神聖騎士の食事というものだ!」
「草と水しかもらえなかったんですよ!?」
「栄養のことをたっぷり考えた七草粥だぞ!? 一応ソーマ様のペットであるお前を死なせるわけにはいかないから、仕方なく豪勢にしてやったのに……」
人なら栄養も取れて十分かもしれないが、エーファはドラゴン。
確かにそれだけだと物足りなさを感じるかもしれない。




