15.シロの過去
昼過ぎまでシロの治療は続いていた。
そして、シロの 腹の音が鳴ると解散となると、すぐにクルシュの元へと近づいてくる。
そして、クルシュが持っていたサンドイッチを大喜びで食べていた。
「クルシュちゃんは食べないの?」
「私はもう頂きましたよ」
「それにしても懐かしいね。昔、聖女見習いだったときもこうやってご飯を食べていたよね?」
「私が聖女見習いじゃなくなってからは別々になりましたからね。それにシロちゃんは今は聖女様ですからね」
「私が聖女になっても、クルシュちゃんはクルシュちゃんだよ! 私に色々と教えてくれた……。そして、私を助けてくれたかけがえのない先輩だよ……」
「そうですね、懐かしいですね……。私一緒に聖女見習いとして働いていた時のこと……」
「どうしてあの時助けてくれたの? 私のことを――。あれがなかったら、クルシュ先輩が 聖女になっていたかもしれないのに?」
「そんなことないですよ。私は魔法の才能がありませんでしたから……」
そう言いながら、クルシュは懐かしい過去の事を思い出していた。
◆
あれはまだ、クルシュが六歳になった頃だった。
クルシュは貧困街で貧しい暮らしをしていた。
その時、たまたま聖魔法の才能を持っていることを教会の人間が気づいたことをきっかけで、聖女見習いとして働くことになっていた。
どうやら新しい聖女を探しているらしく、聖魔法の才能を持っている子供を集めているようだったのだ。
貧しい生活から解放される、とクルシュは大喜びで教会へと向かった。
教会では慎ましやかな生活を送っていた。
しかし、それでも貧困街の暮らしより何倍もいいものなので、クルシュは満足げだった。
朝は教会の掃除から始まり、神への祈り、聖魔法の特訓、教養を身につけるための勉強、などなど、といった本来ならお金を支払わないとできない学習を無料でしてもらうことができた。
正直、あまり成績は良くなかったものの、それでも日々充実していた。
そんなクルシュの隣で、あまり乗り気ではなさそうな表情をしていた少女が、現聖女のシロだった。
「あぁ……、お腹空いたなー……」
勉学が始まって開口一番、彼女はそんなことを口にしていた。
「大丈夫? もうすぐお昼ご飯だけど……」
もしかすると、何か事情があってまともにご飯を食べてないかもしれない……、とクルシュは心配して声を掛ける。
すると、シロは両手を挙げて喜び、クルシュの手を掴んでいた。
「お昼!! ヤッター!! ほら一緒に食べに行こう」
「ま、まだだよ!? お昼の前にまず瞑想があるから……」
勉学が終わると次は魔法の力を高める瞑想の授業があった。
その後に昼食の時間となるのだが、そんなことはお構いなしにシロはクルシュのことを引っ張っていく。
「瞑想でお腹はふくれないんだよ!?」
「それはそうだけど……」
「ほら、今すぐ行こう!」
これがシロとの初めての会話だった。
もちろん、まだ昼食の時間ではないということもあり、食堂へ行っても何も料理を出してもらえなかった。それどころか瞑想サボったということで二人して怒られてしまったのだった。
ただ、そのときにお腹がすいた彼女のためにクルシュが手料理を振る舞い、そのことで仲が進展し、教会で一番の友達となっていた。
クルシュたちが昼に抜け出した説教から解放されたのは夜だった。
笑い声を上げるシロに対して、クルシュは落ち込んでいた。
「あはははっ、怒られちゃったね」
「だ、誰のせいですか!?」
「クルシュ先輩のせいじゃないの?」
「私は関係ないですよね!? 今のはどう見てもシロちゃんのせいです!」
勝手に罪をなすりつけようとしてくるシロに、クルシュは顔を赤くして反論をする。
「私はただご飯を食べようとしただけだよ!? 何も悪いことじゃないよね?」
「まだご飯の時間じゃなかったからですよ!?」
「ご飯の準備が遅れた方が悪いんだよ!」
「遅れてないよ、早いぐらいだよ!?」
ご飯第一に動いているシロに思わずツッコミを入れてしまう。
しかし、シロは気にすることなく自分のお腹を押さえていた。
「それにしてもお腹すいたね……」
「そうですね……、って、そんなことないですよ!? むしろ、お腹いっぱいで何も食べれないですよ!?」
「クルシュちゃんって、わりと小食なんだね?」
クルシュとしては普通に食べていたつもりだけど、確かにシロの食べっぷりを考えると、そこまで食べていない方なのかもしれない。
しかし、どこか納得はできなかった。
「私は普通に食べていると思うけどな……」
「一食で三食は食べないと人間生きていけないと思うんだよね?」
「……単位がおかしいよ?」
「あはははっ、こんなんだから私は聖女になれないって言われるんだよね」
シロは全く気にすることなく、笑ってみせる。
「そんなことないと思うけど……。私よりシロちゃんの方が魔力が強いし……」
「ほかの項目だとクルシュちゃんの方が遥かに上をいってるよね? 座学も品行方正も……」
「でも、聖女様だからね? 一番大切なのは聖魔法だよ」
「そんなことないかな。聖女様には見た目も必要だよ。だから、クルシュちゃんみたいなかわいい子の方がずっといいよ!」
シロはそう言いながらクルシュの身体に抱きついてくる。
そして、体をくすぐってくる。
「あははっ、くすぐったい。くすぐったいよ、シロちゃん」
結局、二人の笑い声は夜まで続き、再び怒られてしまうのだった。
でも、シロと知り合ってからはとても楽しい日々が続いていた。
こんな日がいつまでも続いていくと思っていた。
しかし、そんな日々が破綻するのはまもなくのことだった。




