11.御使い様
次の日になると、俺の家に集まって朝食を取っていた。
「むしゃむしゃむしゃ……」
「あ、相変わらず朝からよく食べるわね」
目の前に大量に置かれた料理を見て、ラーレは苦笑を浮かべていた。
ただ、まだ寝起きのようで、ツッコミに切れがない。
眠たそうに瞼を擦っていた。
「朝はたくさん食べないと一日の元気が出ないからね。ほらっ、猫ちゃんもこれを食べて良いから」
「ありがと……。って、これは毒草じゃないの!?」
もらった草を咥えた瞬間に、大きく目を見開いてその草を床にたたき付けていた。
「もったいないよ? せっかくおいしい草なのに……」
「おいしくないわよ!? むしろ食べたらダメな奴よ!?」
だんだんと切れが戻っていく。
「朝から騒々しいな……」
「あ、あははっ……」
ラーレたちの様子を苦笑いで見ていた俺たち。
クルシュが作ってくれた朝食を食べながら、ぼんやりとしていた。
「それで今日にシロは帰るのか?」
一泊だけ泊めることしか約束はしていない。
でも、この様子だとしばらくこの領地に泊まっていきそうだったので、尋ねてみた。
「うん、そのつもりだよ? たくさんご馳走してくれてありがとうね。朝もたくさんのサラダを食べちゃったよ」
「あ、あはははっ……、き、気にするな……」
思わず引き攣った笑みを浮かべてしまう。
それもそのはずで、シロは畑にある野菜をいつの間にか全部食べてしまっていた。
しかも、それをサラダと言い張る始末で……。
明日には生えてくるものなので、今日のところは貯めてある在庫で賄うしかないようだ。
「それよりも王都まで一人で帰れるのか?」
「大丈夫だよ。一人抜け出して……、ううん、お忍びできたから。でも、しばらくはおいしいご飯とお別れだね……」
どこか残念そうな表情を浮かべるシロ。
どこまで行ってもご飯基準のようだ。
勝手に抜け出したのなら、今頃王都では騒ぎになっていそうだ……。
「それよりもクルシュちゃん、いつでも戻ってきてくれていいからね? それなりの役職に就けるように取り計らうよ?」
「いえ、私はソーマさんと一緒に頑張っていくと決めたので……。だから、いくら聖女様の頼みであっても……」
「――それは残念だよ。でも、クルシュちゃんが幸せならそれでいいよね。あれっ? そこにおいてあるのって、もしかして――」
シロは俺の家に飾ってあるピコハンが気になるようだった。
……飾っているというのは美化した言い方かもしれない。
適当にテーブルの上に放置していたピコハンにシロが反応していた。
見た目はただのピコハンだが、これでも立派な神聖武器だ。
未だに信じられないが……。
アルバンがこの領地へきたのも、あのピコハンが理由だったりするほどのもの。
だから、シロが気になっても仕方ないだろう。
「別に触ってくれてもいいぞ? 一応俺のものだけど、大したものじゃないからな」
「た、大したものですよ!?」
クルシュが驚いた様子を見せていた。
俺からしたらどっちでもいいものだけど、他のみんなからしたらとても大切なものだった。
神より授けられし、神聖武器。
攻撃力もまともになく、何もスキルを持たない勲章タイプの武器なので、飾る以外に使い道がないものだったが……。
ただ、聖女様であるシロがそれを無碍に扱うとは思えないので、安心して渡すことができた。
「やっぱりそうだよね。もしかして、これって神聖武器? この辺りに現れたってお告げを出したもんね……」
シロの目が光ったような気がする。
もしかして、これを探すためにここへ来たのだろうか?
「そうだぞ? 武器として使えないものだけどな」
「それはまだ真の力を発揮していないだけだよね? 神がこれを授けたってことは、いつかこの武器を使う時が来るということだよね? そして、これを授けられたお兄ちゃんは神によって、何かの使命を与えないし存在……。うん、なるほど……、わかったよ!」
シロは何か納得したように大きく頷いていた。
それを見たのでは何だか嫌な予感がする。
「えっと……、何がわかったんだ?」
「もちろんお兄ちゃんが神の御使い様ということだよ。つまり、お兄ちゃんを助けることが聖女の役目なの!!」
そこから後の言葉は聞きたくなかった。
思わず耳を塞ぎたくなる。
「あーっ、それよりもあんまり遅くなると日が暮れてきてしまう。ほらっ、町の外まで案内するから行こうか」
「ううん、私はここでやることができたよ。この領地に住む!!」
やっぱりこうなってしまうのか……。
さすがに聖女が定住してしまうと、国に目をつけられてしまう。
もう目をつけられているかもしれないが……。
それでも、これ以上大事にはしたくなかった。
「あー……、その申し出はありがたいが――」
「私の家はどこにしようかな? どこが空いてるの?」
「あっ、それなら私が案内しましょうか?」
クルシュが好意から申し出てくれる。
その表情は晴れやかで、聖女まで俺の領地に住んでくれることに素直に喜んでくれているようだった。
ただ、クルシュ、違うんだ……。
これ以上、トラブルの種は抱えたくないだけなんだ……。
しかし、そんな思いとは裏腹に、クルシュ達は笑顔で家探しに入ってしまった。
仕方ない。アルバンが戻ってきたら、教会に口を聞いてもらおう。
諦めにも似た表情を浮かべると、俺も一緒になって家探しを手伝うのだった。




