10.少なめの料理(当社比)
目標である高ランクの毒草はなかなか見つからなかった。
今回見つかったものはB ランクの毒草が一本。
そして、それを見つけたのは、まさかのシロだった。
もしかして、本当にシロも採取スキルを持っているのかもしれない。
ただ、この毒草を拾ったのがクルシュだったなら、俺のバフ能力と合わさって、A ランク毒草になっていたのだろうか?
その場合ならSランク万能薬まで、一歩前進していたのに。少し残念だな……。
まぁ、ここで焦っても仕方ないか。
ここにランクの高い毒草があるとわかっただけでも一歩前進だろう。
「さて領地に帰るか」
「そうですね」
クルシュが俺の言葉に同意してくれる。
すると、シロが両手を挙げて喜んでいた。
「わーい、ご飯だご飯」
「さっきまでずっと食べてたわよね!? キノコだけでも大変だったのに」
ラーレが呆れた表情を見せていた。
「腹が減っては戦はできぬって言うもんね」
両手を合わせてうれしそうに目を細めてくるシロ。
すると、すぐさまラーレが反論をする。
「戦なんてないわよ!?」
その言葉に俺たちも同意する。
「ここ最近は戦なんてないですね」
「平和な領地だからな……」
俺とクルシュが頷いていた。
「ところで、シロを本当に連れてきて良かったのか?」
相手は聖女……。一応料理をご馳走することになっているが、勝手に連れてきて、誘拐したとでも思われたらどうしよう?
そんな不安が脳裏を過ぎる。
「大丈夫でしょ。あっちが勝手に付いてきてるんだから」
「あははっ……、まぁ、そうですね。ご飯を食べたら、大人しくなって帰ってくれると思いますよ」
確かに一宿はする予定らしいけど、そこまでしか言われてない。
それなら気にせずに、むしろ盛大にもてなして心地よく帰ってもらった方が、この領地にとってプラスになりそうだった。
「わかった。それならできる限りのもてなしをさせてもらおうか。ユリさんに料理を作ってもらえるか聞いてみよう」
「わかりました。領地へ戻ったら聞いてみますね」
◇
それから、まっすぐに領地へと戻ってくると、クルシュはユリさんを呼びに行ってくれた。
その間に俺たちでできることをしておこう。
「……野菜は取ってきた方がいいか?」
「あっ、私が取ってこようか?」
「うん、お願いできるか?」
「分かったわ。仕方ないわね」
ラーレが畑の方に向かって走っていく。
そして俺はシロと 二人きりになった。
「泊まる場所だけど、この領地には普通の家しかないんだ。どこかの空き家を使う形でいいか?」
「寝れたらどこでもいいですよ。後はおいしいご飯があれば――」
「はははっ、ぶれないな。任せておけ、この領地一番の料理人を連れてくるからな」
「それは楽しみですね」
それからクルシュが戻ってくるのを待った。
クルシュが戻ってくるとその横には、エプロン姿のユリさんがいた。
「ユリさん、いきなり呼び出したりして悪かったな」
「気にしなくていいよ。料理を作るのは好きだし、それに大切なお客様なんだよね?」
「まぁ、無碍にすると厄介なお客さんだな。だから助かるよ。その、ちょっとよく食べる人だから、料理は大量にいるかもしれないけど……」
「好きなだけ作って下さい。きっと足りないので……」
先ほどまでの食べっぷりを見ていた俺とクルシュは苦笑しながら伝える。
すると、ユリさんは腕まくりをして、気合いを入れていた。
「分かったよ。腕によりをかけて作るね」
「それで材料の方だけど、ラーレが野菜を取りに行ってくれてるから。もうすぐ帰ってくると思うけど……」
ちょうどそのタイミングでラーレが戻ってくる。
ただ、その手には想像よりも大量の野菜を持ってきた。
「これで足りるかしら?」
すると、シロはにっこり微笑みながら言う。
「そうだね。夜は少なめの方がいいって言うもんね」
「……少なめ?」
優に十人ぐらいは食べられそうなほどの量があるのだけれども……。
ただ、これがシロという人物だった。
「これは腕がなるわね」
ユリさんが嬉しそうにしていた。
そして、しばらくすると、目の前に大量の料理が置かれていた。
「これでいいかな?」
「そうだな。かなりの量だな……。バルクさんたちも連れて来るか? 一緒に食べよう」
「うん!! すぐに呼んでくるね」
ユリが大急ぎでバルクを呼びに行く。
ポツポツと人が集まってきて、いつしか領地内でパーティーが始まっていた。
皆が思い思いに騒ぎ、持ち寄ったたくさんの料理が並び、シロが手に持ち切れないほどの料理を持った上で、口の中にもたくさん入れていた。
そして、その騒ぎは日が変わるまで続いていた。




