1.ゲーム世界に転生した
「やはり、仕事の疲れを癒やすのはこれだよな」
平凡な会社員である俺、相馬卓也は明日、明後日の二日間休みなのを良いことにパソコンモニターの前に座り、ゲームパッドを握りしめて笑みを浮かべていた。
『今まで見たことのない最高の自由度を!』
そんな謳い文句のオープンワールド型のロールプレイングゲーム。
国の王になって国政を行うのもよし。兵士になって外敵と戦うのもよし。冒険者になって自由を謳歌するのもよし。それこそ暗殺者になって要人の命を狙うのもよし。
と、何でもありの本ゲームが発売するのを今か今かと待ち望んでいた。
そして、ついに発売になった初めての休み。
当然ながら休みの全てを使ってトコトンやり込むつもりだった。
出かけなくてすむように食料の調達も済ませてあるし、寝落ちしないようにコーヒーの準備もできている。
あとは実際にプレイしていくだけだった。
ダウンロード中……、の文字を見ているとどうにも落ち着かない。
早く始まらないか、と思わず足を動かしてしまう。
無意味にマウスを動かしたり、ソフトケースを見たりしてしまう。
最初の職業は何を選ぶか? やっぱり無難に冒険者か? いや、どうせならもっと難易度の高いやり込み要素がある職の方が良いな。
説明を眺めながら、数多ある職業の中から一つに絞ろうとするが、中々決まらずにその間にダウンロードが終わってしまう。
「まぁ、ここに載っていない職業もあるみたいだからな。どれにするかはキャラを決めながら考えるか」
モニターには『キャラクターの名前を入力してください』と表示されていた。
そこで、表示される順番に入力していく。
【名前】 ソーマ
【年齢】 24
「あれっ、年齢も必要なのか? もしかして、課金もある……とか?」
課金があるなら、まずは無課金で徹底的にクリアした後に、今度は廃課金をして再度クリア。
一度で二度美味しいわけだ。
『職業を選んでください』
ついに職業選択の画面になる。
あとは無数の職業の中から一つ選ぶだけだな。
出来るだけやり込み要素の多い職業がいいな。おっ、これが良いな。
目に止まったのは【辺境領主】だった。
【辺境領主】
誰も領民が住んでいない、荒れた地の領主。
いつ魔物が襲ってくるともわからない危険な地なので、自身の能力を鍛える必要もあり、領地の開拓も必要になる。
なるほど。全ての要素が必要な職業か。
かなり難易度は高そうだけど、その方が燃えるからな。
よし、職業はこれに決めよう。
あと、選ぶものは……、能力値とスキルか。
でも、辺境領主は能力値は全て一か。
本来なら戦闘職じゃないわけだし、この能力は仕方ないか。
スキルは……、領民のやる気を上げる【鼓舞】と領民のステータスを上げる【激昂】か。
どちらも領民がいないと始まらないわけだ。
そう考えるとまずは人を増やすところからだな。
ゲームの進め方を考えていると、更に画面に言葉が表示される。
『このボタンを押すとあなたはもう戻ってこられません。ボタンを押しますか?』
なかなか雰囲気があるし、やっぱり期待の新作だな。
迷わずにボタンを押すと、その瞬間に意識が遠のいていった。
目の前に広がるのは、見たこともない木々とろくに手入れされていない小さな畑と小屋。遠くの方を眺めると川が流れているのも見える。
俺がしていたのはVRゲームではないはずだが――。
軽く頬をつねってみるとしっかり痛みを感じた。
どうやらここは夢ではないようだ。
それなら一体どういうことだろうか?
周りをじっくり調べていく。
近くに誰かがいるような気配もない。
人里離れた片田舎……といったところだろうか?
とにかく今の自分の状況を確認するために色々と調べてみよう。
まずはあの小屋の中か?
すぐ側にあるボロボロの木の小屋。
ちょっとした衝撃でも壊れてきそうなところだけど、この場所について何かわかるかもしれない。
そんな期待を胸に小屋へ向かう。
ただ、その途中で手のひらサイズの水晶が転がっていた。
「なんだ、これ?」
透き通った青色の水晶を手に取る。
すると、順番に文字が浮かび上がってくる。
【名前】 ソーマ
【年齢】 24
【職業】 辺境領主
【レベル】 1(0/4)
『筋力』 1(0/100)
『魔力』 1(0/100)
『敏捷』 1(0/100)
『体力』 1(0/100)
【スキル】『鼓舞』1(1/1,000)『激昂』1(1/1,000)
【領地称号】 弱小領地
【領地レベル】 1(0/4)[庭レベル]
『戦力』 1(0/10)
『農業』 1(0/10)
『商業』 1(0/10)
『工業』 1(0/10)
水晶には俺のステータス画面が表示されていた。
その画面は先ほどパソコンで選択したものだった。
「やはりゲームの世界に転生してしまったのか? どうして――」
理由を考えるが、特に何も思いつかなかった。
唯一可能性があるとしたら最後に出てきたメッセージ。
ゲームを盛り上げるためだと思っていた一文は実はこの世界へ招いても良いかの最終確認だったのかも知れない。
「ははっ……、そんなことあるはずないだろう。もしかすると超リアルなゲーム、というだけかもしれない」
とにかくこれがゲームのままの設定ならまずすべきことがある。
今いる庭みたいな場所。
これが俺の領地で、周りは危険に囲まれている……ということだ。
なるべく早く領地を開拓して、危険を減らさないといけない。
俺は早速小屋の中に入っていった。
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