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リビングデッドにキスをして  作者: 神川 宙
27/62

空色のきみへ

第二十五話。グロテスクな表現があるので、ご注意ください。

 七絆は川岸にしゃがみ込んだまま、猛烈に後悔していた。

「やぁやぁ、ホントにごめんね? 自販機で水買ってきたから口濯いだ方がいいよ、ほら」

 差し出されたミネラルウォーターのペットボトルを受け取って、七絆がキャップを回すと既に開けられていた。七絆にかかっていた影が動き、それを目で追えば彼は七絆の隣にしゃがみ込んでいた。はらりと明るい色の髪が揺れる。真っ黒なスーツには銀色が一つ輝いていた。

 そう、七絆の横にしゃがみ込んでにこにこ笑っているのは生方叴人だった。少し離れて生田四代が立っている。叴人を胡散臭そうに横目で見てから、七絆は口に含んだ水を吐き出すのだ。

 なぜ、七絆が胡蝶に再三注意しろと言われている二人組と共にいるかと言えば、それは少し前に遡る。



 少し前。七絆は菫たちに捕まる前にとホームルームの終わりとともに学校を飛び出していた。いつもより早く学校を出れたことと、近くの手芸専門店で布の安売りが始まっていたこともあり、七絆は電車に揺られて隣町まで来ていたのだ。

 安く布を仕入れられてほくほくしていたところまでは良かった。そこからがいけなかった。ついでとばかりに足を伸ばして安くて品物のいいスーパーに行こうと鼻歌混じりに土手を歩いていたところ―――

 頭上から何かが降ってきたのだ。文字通り宙を舞い七絆の目の前にべしゃりと音を立てて落ちてきたそれは、人の頭部であった。もはや人の頭部というよりはただの肉塊であった。飛び出した眼球がころころと転がって七絆の靴にぶつかった時にようやく状況を理解する。頬に飛んだ血が生温く輪郭を撫でていく。

 呆然としたように潰れた頭部から視線を上げれば、頭を失った体が首から大量に血を吹き出して倒れていくところだった。重いものが倒れる音がして、そこに大きな血だまりを作っていく。

 そして、遮蔽物がなくなった七絆の視線の先、銀髪の男がこちらに銃口を向けたまま立っていた。立ち竦む七絆を見ても、男は真白の銃を降ろさない。白色の穴が七絆を見つめ続けている。

 七絆は動かなかった。否、動けなかった。地面に足が縫い付けられたかのようにその場を動けなかった。七絆の視線は珍しい真っ白な銃口に向けられている。それを見ていると頭の奥底がちりちりと痛むのだ。知っているようで、知らないようなもどかしい気分だった。

 不思議と恐怖は感じない。その銃で己が死ぬことはないとわかっているからだろうか。

 いや、それよりも、もっと―――。


「よーよちゃん。俺がちょーっと目を離した隙になぁに一般人に銃向けてんの? 一般人を意図的に撃った場合、規則42条に則ってよよちゃんを処罰しなくちゃいけなくなるんだけど。あーあ、俺、お前の分まで始末書書かされんの嫌だなー。いっつも俺が代わりに書いてあげてるのになー」


 妙に明るい声がこの不可思議な状況下に響く。その言葉に銃を構えていた男は舌打ちをすると、純白の銃を腰のホルスターへと仕舞った。

 その後ろから肩口までの髪の男がそれを覗き込むが、舌打ちされたのを聞くとじろりとホルスターの男を見る。

「え、ちょい待ち。今、俺舌打ちされたの?」

「チッ」

「うーん、丁寧にもう一度してくれるなんて、さすがよよちゃん! ……じゃなくてね、お前、なんで『ソッチ』の銃持ってきてんの? 所持承認降ろした憶えないんだけど。え、ヤダ、よよちゃんってば、また始末書?」

 カツカツと呆れたようにホルスターを叩くが、男はどこ吹く風だ。

「……お疲れ様っす、キュート先輩」

「こんな時だけ後輩面するとかヤダヤダ~。俺、もう一週間は家に帰れてないんですけど~。誰かさんが単独行動及び問題行動を起こすので~」

「アンタが一人でふらふらしてるからだろ。それにこうやって“ゾンビ”を殺せた」

「ウソ、もしかして『Schisma<シスマ>』使ったの?」

「ああ。このぶっ飛び方みればわかんだろ」

「使用申請もらってなくない? というか、そもそも所持申請も俺のとこきてないって、つまりはそういうことだよね?」

「非常事態だったんで」

「あぁぁぁぁぁ! 始末書増えたー! もう俺代筆しないからね!」

「そしたらもっと増えることになるな」

「うっわ、最低だよコイツ……。上司に向かって仕事しない宣言しやがった。……まぁ、それはおいおい話し合うとして、『カラス』呼んだ?」

「アンタの仕事だろ、それ」

「叴人先輩は今から違う仕事があるんですぅ。というか、そろそろ他部とも連絡取れるようになりなよ。ほら、とっとと呼べ」

 銀髪の男はまたもや舌打ちすると、端末を取り出して背を向けた。それを見送ると茶髪の男は棒立ちになっている七絆の元へ歩み寄ってくる。

「そんでもって、お嬢さんだいじょ―――あれ、いつぞやの葉っぱの子じゃん」

 ぽんと肩を叩くと、彼―――生方叴人は目を丸くして七絆を見た。

 七絆はそれに答えようとぼんやりとしていた視界の焦点を合わせる、途中で叴人の奥で血だまりに沈む頭部を失った男性の死体を見てしまった。

 彼女はそっと肩に置かれた叴人の手を外し、ゆっくりと土手下にくだる。叴人は状況を判断しかねるように不思議そうに七絆の行動を見ていた。

「おろろろろろろろろろろろろろ……」

「あっ、やっべ。あの子、リバースしてるわ」

 川べりで蹲る七絆の背後でやけに冷静な叴人の声が聞こえてきた。



「いやー、大丈夫? 吐いてすっきりした?」

「……生方さんってデリカシーないって言われません?」

「あっはっはっはっ! どうだろう、大体よよちゃんと一緒にいるからね。デリカシーのなさで言ったらよよちゃんには負けるし。それに巻き込んじゃった手前、体調を気にするのはできる男の嗜みじゃない?」

「できる男はもっと言葉回しを気を付ける気がしますが……」

 そうして現在、七絆は半分ほど減ったミネラルウォーターのペットボトルをぶら下げながら、叴人の横に座っていた。わはははと笑う叴人の傍ら、七絆は早くこの場から離れたくて仕方がなかった。

 この間まではただの『タカ』だと思っていたが、胡蝶からの情報を見た後だとこの隣に座る男の見方が変わる。何せ叴人はゾンビ殺しのエキスパートが揃う頂点に立つ男だ。一見するとその中性的な容姿と線の細さも相まって、そんな人物には到底思えないが、わざわざ誤情報をあのデータベースに載せるはずがない。体格だけで言ったら銀髪の―――生田四代の方が強そうに見えるのであるが、そう簡単にわかるものではないだろう。そもそも七絆は殴り合いの喧嘩なぞしたこともないし、ご承知の通り運動神経も悪い。『タカ』の基準でしか測れない強さ等もあるのかもしれない。

 だが、とりあえずのところは第一に七絆がすべきはこの場を脱することだ。何が悲しくて、今人生で一番会いたくない人間と共にいなくてはならないのか。こんなことなら隣町までふらふらと出歩くんじゃなかったと思っても、時既に遅し。後悔先に立たずである。

「えぇっと、その、私買い物に行かなきゃいけなくて……」

「ん? ああ、もう少し待った方がいいよ。オソウジがまだ終わってないから、結局葉っぱちゃんこっちに戻ってくることになるぜ。よよちゃんが連絡してるから、そうかからないとは思うけど」

 そう言って叴人は土手を見上げるが、そこでは端末に向かって怒鳴っている四代の姿が見えた。

「……まぁ、もう少しかかるかもしれないね」

 叴人は肩を竦めてため息を吐いた。別にオソウジとやらが終わっていなかったとしても、七絆はこの川縁を歩いてここから抜け出すことはできる。早急にこの場を去りたい七絆としてはその方法を取るのが一番だろう。けれど、下手に動いて叴人の不信感を煽るのは得策ではない。ここではただの善良の人間でいるべきだ。

「というか、俺の名前憶えていてくれたんだ? オニイサン、嬉しいなぁ。それなら電話かけてくれてもよかったのに」

 やけに明るく放たれた叴人の言葉に七絆はぎくりと身体を強張らせた。

 確かに普通の人間はたった一回会っただけの人間の名前なぞ覚えていないだろう。ましてや叴人の名字はさほど珍しいものじゃない。名刺をもらったとしていても、だ。

 叴人はにやにやしていてその真意は読めないが、七絆が彼の名前を憶えていたということをどう捉えているかが重要だ。ただ七絆サイドが一方的にその存在を気にしているわけで、叴人にとってはただの一般人である。

「人の顔と名前を覚えるの、得意なんです。特に生方さんは初めて見た『タカ』の人でしたし」

 ならば、適当にそれっぽく答えればいい。何もかもを勘ぐっては自滅するだけだ。

 七絆は頭の中で「私は一般人、私は一般人……」と自己暗示をかけながら、叴人を窺えば彼は相変わらずチェシャ猫のように瞳を歪ませている。

「ふぅん。そう言うことにしておこっか」

 その言葉に表情には出ないように気を付けながら、七絆は心の中で冷や汗を流す。そんな彼女を見透かしたように笑いながら叴人は首を傾げた。さらりと染料で染められた茶色の髪が動きに合わせて流れる。

「そういえば、葉っぱちゃん制服だけど、こんな時間に出歩いてるなんてサボりかい?」

「いえ、受験生なので授業は四限までなんです」

「じゃあ、お家帰って勉強しなきゃじゃん。それとも推薦狙い? あ、もしかして勉強に超自信あるとか?」

「あはは……。どうでしょう……」

「その制服、隣の花園高校のでしょ? あそこ進学校だから勉強できるクチだな?」

「あ、あははは……。というか、葉っぱちゃんって……」

「会った時に葉っぱつけてたから、葉っぱちゃん。ホラ、いつまでもお嬢ちゃんとかさ、他人行儀な気がしない? これも何かの縁としてさ」

「そ、そうですか……」

「ちなみ葉っぱちゃんはどの科目が得意? いやー、もう俺くらいの歳になるとそういう記憶がなくてさぁ」

―――思った以上にぐいぐいくるな、この人……。

 七絆は曖昧に笑いながら叴人の質問を躱すが、そんな彼女を気にも留めずに叴人は質問を重ねていく。ちらりと腕時計を見れば、この町に来て二時間が経とうとしていた。

「あの、私そろそろ―――」

「そういえば、葉っぱちゃん。落とし物してない?」

「えっ」

 ぱっとスカートのポケットを押さえてみるが、ちゃんとそこに胡蝶からもらった端末は入っていた。カバンを覗いてみて、横ポケットに手を這わせて、ようやく失せ物に気がついて「あっ」と声を上げた。

「定期の入ったパスケース……」

「せいかーい。ま、正確に言えば、学生証も入っているんだけどね。嘉翅七絆ちゃん?」

「ッ……!」

 しまったと思った。ひらりと摘ままれたパスケースを見た瞬間、表情が強張った気がしたから。パスケースの向こう側では叴人の笑っていない瞳がこちらを見ていた。

 七絆の奥底を見透かすように、罠を張って獲物を待つ狩人のように、彼女の次のアクションを見ている。

 七絆は一呼吸おいて―――

「え、えへへへ! 助かりました、生方さん。学生証落としちゃうと発行にお金かかっちゃうんですよ。間もなく卒業なのにそんなことでお金使うの馬鹿らしいですもんね」

 にっこりと笑った。そして、叴人が持っているパスケースを努めて丁寧に取り返して、お礼を言いながらカバンに仕舞う。

「どういたしまして、七絆ちゃん」

 叴人はそれを見届けて、七絆と同じようににっこり笑った。裏に隠されたものまではわからないが、七絆は今のところ疑われるような大きな失敗はしていないはずだ。

「あっ! そういえば、お義母さんに三時までには帰ってくるように言われてたんだった! 早く帰らないと!」

 少々白々しかったかもしれないと思ったが、これ以上襤褸を出す前に強引にでも退散すべきだと判断した。さすがにこれは引き留められないだろうと、七絆は腰を浮かす。

 その時、つぅと右頬を何かが伝っていく感触がした。

「あ、」

 叴人が七絆の頬に手を伸ばした時には、赤色は頬を伝ってシャツの襟もとへと色を移していた。彼の手が頬を優しく撫でて離れていく。その手には血が付着していた。

「あー、こりゃあ帰ったら染み抜きしてもらわないとだめかも。髪についちゃってたのかな。悪いねぇ、巻き込んだ挙句その後の手間までかけちゃって」

 とりあえずと、叴人は取り出したハンカチで七絆の頬を拭う。七絆の顔を下から覗き込んでいる形になっていたからか、思いの外お互いの距離が近い。

 叴人が触れたあたりから黙りこくっている七絆を不思議に思い、頬に筋を残す赤色から彼女の瞳へと視線を移す。もしかしたら、異性との接触が苦手なのかもしれないと。

 七絆は至近距離にある叴人の瞳を見つめていた。否、見つめているというよりは凝視している。現に彼女は瞳孔を開いており、常ならぬ様子だった。

 まるで肉食動物が獲物を狙っているかのような視線だった。ぞくりと叴人の背筋が震えた。

「ッ、七絆ちゃん? どうかした、というか俺の顔に何かついてる?」

 名状しがたい深淵がこちらを覗いている気分だ。意図的に明るく声を出してみせるが、彼女の目は突き刺すように叴人の瞳だけを見つめている。


「瞳の奥に、あおいろが」


 譫言のように七絆が言った言葉に叴人は少しだけ顔を強張らせた。それに七絆が気がついたかは別だが、叴人は動揺を露わにしていた。

「ハカナシ……」

「はかなし?」

 鸚鵡返しのように叴人が返した言葉に、それまで茫洋としていた彼女は目を見開いた。そして、叴人の肩を押して互いの身体を引き離す。受け身を取れず、叴人はそのまま川縁に倒れ込んだ。その体勢のまま七絆を見上げるが、逆光となってその表情は見えない。

 次の瞬間、彼女の口からおよそ綺麗とは呼べない高音が飛び出した。

「ぎ、ぎぇああああ!! うわわわわ、すみません! お、思いの外顔が近くてびっくりしてしまい……。大丈夫ですか?」

 あの深く暗く淀んだままにこちらを覗く深淵の気配はそこにはなかった。彼女は本当に慌てたように叴人に手を差し伸べてくる。

「いや、俺も配慮が足んなかったし。ごめんね?」

「い、いえ、私の方こそ……」

 その手を借りて立ち上がるが、七絆は頑なに叴人と目を合わせようとしなかった。こちらを見ているように見えて、僅かに下を向いている。その疑問を口にする前に彼女は頭を下げた。

「ご、ごめんなさいっ! 私帰ります!!」

 七絆はそう告げると叴人の反応を待たずにカバンを持ち上げて、脱兎のごとく走り去っていった。みるみるうちに彼女の背中は小さくなり、ぽかんと口を開けて呆けている叴人だけが川縁に残される。



「未成年は犯罪だぜ?」

「……やーだ、よよちゃん。見てたわけ? シュミわるーい」

 揶揄いの含まれた声に振り返れば、端末を振りながら四代が近づいて来るところだった。多分に漏れずその顔には一種の嘲笑が張り付いている。

「ハンカチ持って行かれちゃったっけ。まぁ、予備に持ってるヤツだからいいけど」

「予備って、何に使うんだよ」

「女性の涙を拭うためかな」

「死ね」

 四代に冷めた声でそう言われるも叴人は気にした素振りもなく、大きく伸びをして「よよちゃん、『カラス』はひとりで呼べたかなー?」と聞いた。

「呼んだ。やっぱりあいつらはいけ好かねぇな。残骸の処理しかできねぇ落ちこぼれ共のくせにぎゃあぎゃあとうるせぇんだよ」

「こーら。仲間のことをそんな風に言うんじゃないよ。はぁー……。ホント昔は可愛かったのに。どこで育て方を間違えたかな」

「お前には育てられてねーし、今も昔も変わってねぇ」

「はいはい。その言葉遣いを直すように。俺上司、お前部下」

 はぁと一息ため息を吐くと、叴人は自分を指差してから四代を指してそう言った。四代はふいと横を向くだけだ。

「で、報告」

「報告? ああ、さっき処理したゾンビのことか。潜在型だ。俺の姿を見るなり逃げ出した」

「逃げ出したって……しっかり潜在型だって現場は抑えたんだろうな」

「報告書用に動画も残してある。それは後で確認しろ。クスリの取引現場だ」

「それにしても、お前よく追いつけたね。個体差はあれど、彼らは“ゾンビ”化することで身体能力の引き上げもあるのに。まぁ、螺子が緩んだってことだけど」

 そう叴人が告げると、四代は少し拗ねたように唇を突き出した。叴人はそんな彼の変化におやと思うと、その顔を覗き込んだ。四代は人でも殺せそうな目つきで叴人を睨みつけると、忌々しそうに口を開いた。

「いきなり立ち止まったんだよ」

「立ち止まった? “ゾンビ”が?」

「チッ。そうだよ。さっきアイツを殺した場所で、だ。何があったのかなんて俺が知るか。ただ殺せそうだと思ったから殺した。そしたら、その影にあのガキがいたんだよ」

「ガキって……。よよちゃん、そんなに年齢変わんないでしょ。まぁ、それはいいとして。いきなり立ち止まった、か。自分が今にも殺されそうになっているのにそんなことするか? うーん、わからないな」

 頭を掻きながら土手を上っていく叴人の背中に四代もついていく。ちょうど『カラス』が掃除中であり、叴人の存在に気がついた数名が小さく頭を下げる。彼はそれに鷹揚に手を振って応えていた。四代にはよくあの薄気味悪い黒づくめ連中と仲良くしようと思えるなと心の中で吐き捨てた。

 叴人の横顔は相変わらず笑顔が張り付いたままで、四代は相変わらずその態度に腹が立つ。自分の手では何もしないくせに、いつだって笑ったまま仲間を受け入れるその姿勢に苛立つのだ。幼少期の頃から変わらないあの顔が嫌いだった。

「―――四代。あの女の子、どう思う?」

「はっ?」

 突如問いかけられて間抜けな声を出してしまう。叴人はいつものようにそれを茶化したりせず、顎に手を添えて何か考えているようだった。

「何か感じたりとかしなかったか?」

「何かって……。そもそも俺はあいつと話なんかしてねぇぞ」

「でも、銃は向けてただろ。その時に何か、言葉にしづらいな。頭の奥で警鐘が鳴るみたいな、そんな感じは?」

「してねぇよ。そもそも惰性で銃向けてただけだ。まぁ、ちょっとばかし撃ってみてぇなくらいは思ったかもしれねぇけど」

「………」

 常の叴人ならば「それは問題だろ」とか呆れ顔で言ってくるものだが、考え込んでいるようでその軽口が聞けることはなかった。四代はいつもとは違う叴人に得体の知れなさを覚える。幼い頃から共に育った人間が見知らぬ人間のように思える、そんな感覚だった。

「……あいつに会った時からやけに突っかかるな。確かに初めて会った時、あんだけ泥だらけだったのはおかしいとは思うが、そこまで考え込むようなことでもないだろ。今のところ逃げ出した死体の足取りも追えてねぇし、何よりここのところ括首町を中心にゾンビが急増している。その辺りから当たってくべきじゃねぇの?」

「感覚というか本能というか、第六感みたいなものも時に役立つんだけどね。……ま、よよちゃんの言う通りか。なんとなーくの感覚を探ってても仕方ない。物証を上げてこそ、ってとこもあるし」

 叴人はそう言うと、頭の後ろで手を組むとのんびり歩き始めてしまう。相も変わらずよくわからない男だと思いつつも、四代はその背を追った。

「―――嘉翅、ねぇ……」

 小さく呟いた叴人の声は誰にも聞こえることなく風に攫われていく。青空を見上げる彼の瞳は澄んだ水色を映していた。


暑いのでクーラーつけてるんですけど、めちゃめちゃ足攣るんですよね。今も両足攣ってて為す術がない。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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