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リビングデッドにキスをして  作者: 神川 宙
22/62

這いずる蛇

第二十話。

「あの、戻ってください! やっぱり置き去りには―――」

 声を上げた七絆に男性はバックミラー越しに小さく「静かに」と言った。よくよく彼を見てみれば端末を持った右手を耳に当てていた。どうやら電話をしているようだ。

「ええ、はい。―――どうぞよろしくお願いいたしますね」

 彼はそうとだけ言うと端末を切った。それを見た彼女はこれ幸いとばかりに口を開こうとしたが、バックミラーに映る男性と視線が合うと口を噤んだ。

 獲物を見定めているかのような、蛇のようにまとわりつく視線だった。ぞわりと背筋に悪寒が走り、七絆は慌てて視線を膝の上の両拳に落とす。

 降りるとも何も言えないまま七絆は冷や汗を流しながら彫刻のように俯き続けた。この間にも車は遠く遠く、恐らく七絆の家からは遠ざかって行っている。窓を走る風景がどんどんと知らないものに変わっていく。

「今、『タカ』に通報しておきました。これであの少年も大丈夫でしょう。……まぁ、彼ならどうとでもするでしょうけれど」

 男はにこりと笑ってそう言い、七絆はその言葉に心の中で胸を撫で下ろした。あの時少年は七絆にペースを合わせているように思えた。そのお荷物がいなくなったのなら、思うがままに逃げれるだろう。そう考えれば、少年が逃げ果せるのは簡単そうだ。その姿を自身の目で確認するまでは完全に安心はできないけれど。

 『タカ』を呼んだということは、もうあの町は安全なはずだ。間もなく“ゾンビ”も駆除されるだろう。ならば、この車はどこへ向かっているのだろう。七絆の胸にそんな疑問が首を擡げた。

 唐突にくつくつと低い笑い声が静かな車内に響く。その声に七絆は身を固くする。

「おやおや、別に取って食ったりはいたしませんよ。だから、そんなに捨てられた子猫のように震えないでください」

 びくりと肩を震わせた七絆に男性は穏やかそうにそう言った。車はゆるゆるとスピードを落としていく。間もなく完全に停車し、そこから見える外の景色は緑で覆われていた。完全に見知らぬ土地で密室状態のこの状況を打開すべく七絆は頭を回転させていたが、あまりに突然に色々な出来事が舞い込んできたせいで頭がついていかない。

 男はシートベルトを取ると、後部座席に座る七絆に身体ごと向き合う。七絆がぎょっとしたように視線を逸らしていれば、彼はずずいと彼女の方へ身体を近づけてきた。細いフレームの奥で黒い瞳が笑みの形に細められると同時に仰々しく両手を広げる。


「やあやあ、ご機嫌麗しゅう、我が主! いつもながら貴女様はお美しくあられますねぇ、クイーン!」


―――ヤバい人の車に乗ってしまった!


 けたたましく男の口から飛び出た言葉に七絆はぴしりと固まった。頭の中に浮かんだ言葉はそれだけだったが、それだけで十分なほどの威力を持っている。そんな七絆の様子に気がつくと、彼は嘆かわしいと言わんばかりに大げさに額を押さえた。

「おやおや。おやおやおや、その様子でいらっしゃるということは憶えていらっしゃらない! まぁ、こんな愚かで下賤な男を憶えていないというのは一向に構いません! いえ、一向に構わないわけではないのですが。私とて人の子、傷つかないと言えば嘘になります! はっ! クイーンは嘘がお嫌いでしたね! ならば、ここは胸が張り裂けそうなほどの深い悲しみが私を襲っていると表現した方が適切でございますね」

 早く逃げよう。ここがどこだかわからないが適当に歩いていれば民家くらいは見つけられるだろう。そう思って七絆は無言でそろりと扉の鍵に手をかけたが、こちらからは開けられないようにロックが掛けられているようでびくともしない。その事実に七絆は冷や汗が背筋に伝うのを感じた。

 そっと男を伺い見れば、よよよと泣く振りをしており七絆の行動に気がついていないようだ。下手に逆上させない方がいいと判断し、七絆は男の隙をついてこの密室から脱げだそうと決意した。

「ああ、そうです。クイーンに万が一がないよう、扉はこちらでロックさせていただいておりますから。あまり危険なことを考えていると、私は心配で心配で心配でさらに過保護になってしまいそうです」

 ばっちりバレていた。じろりとこちらを覗く瞳と視線が絡む。視線を外そうにもそうさせない強い力があるようで、七絆は伸ばした手をゆっくりと戻す。男は満足そうににこりと笑った。

「は、あの、私の知り合い、ですか? それなら、私―――」

「いえ、みなまで言わずともわかっておりますよ、クイーン。知っておりますとも、クイーン。あの何とも恐ろしい事件以前の記憶がないことを! なぁに、私めは以前の“嘉翅七絆”の知り合いではございません」

「え、じゃあ、なんで……。というか、今更なんですけど、どちら様ですか?」

「嗚呼! まだご挨拶をしていなかったとは! この愚かしい男を詰ってください! さあ、どうぞ! 叱ってください! 罵ってください!」

「へ、変態だ!! この人、変態だ!」

 心の中で思っていた言葉が丸のまま飛び出した。慌てて七絆は両手で口を押さえるが、目の前の男は自身を掻き抱いていて悶えている。その恍惚とした表情を見て、七絆はどん引いた。

「嗚呼、あのクイーンが私めを罵ってくださっている! こんなに喜ばしいことはありませんよ、クイーン! それでこそ貴女様であるという証左です!」

「ひいぃぃぃ! この人、本当に変態だ! お、おお、お帰りください! というか、私をお帰しください! 歩いて帰るので!」

「そんな、殺生な! 嗚呼、しかし、やはり貴女様はクイーンであられる! いつもいつも私のことを塵のように、奴隷に扱き使っていらっしゃいましたからね! いえいえ、そんなとんでもない。それだ嫌だなんてことは一度たりとも思ったことはございませんよ?」

「そ、そんなことどうでもいいし、そんなことした憶えもないし、それにさっき知り合いじゃないって言ったし! それより、誰なんですか、きみは!」

 握られていた手を振りほどいて、七絆は男にびしりと指を突きつけた。黒々とした両目がその人差し指へ向けられると、彼はまた芝居がかった仕草で天を仰ぐ。

「嗚呼、嗚呼、また話が逸れてしまいました。これだからお前は駄目なのだとよくお叱りを受けたものです。どうにも私めはお喋り好きなようで。クイーンには何度か口を縫いかけられたことです。ええ、ええ、そうでしたね。私め、の名前でございますか。わざわざクイーンの優秀な頭脳に僅かなりともこの下等な存在を刻んでしまうというのは、いやはや、壮絶なまでの背徳感でございますね。それでは、それでは、僭越ながら名乗らせていただきましょう。―――私、吊木つりぎ胡蝶こちょうと申します。今生でまた貴女様と共に在れることを誇りに思います」

「は、はあ……。吊木さ―――」

「おっと、いけない、クイーン! こんな襤褸雑巾に敬語など! それにクイーンの口から吊木さんと呼ばれるのもなかなか、こう、クるものがありますが、やはりクイーンにそう呼ばれると背筋に悪寒が走りますね! 昔のように胡蝶と、そうお呼びくださいませ。私はいつでも貴女様の忠実な僕でありますが故」

「え、えぇ……。いや、そうは言われても……。それに、そもそも私と知り合いじゃないって―――」

「それはそれで事実でございます。この吊木胡蝶、貴女様には嘘は言いません。私は決して、行方不明になる前の“嘉翅七絆”とはお知り合いではございませんよ」

「つまりは知り合いではないということでは……。ん? というか、どうして私が行方不明になったって知って―――」

「それは当たり前でございます。クイーンに関して、私めが知らぬことなどひとつもありません。貴女様のことは貴女様以上に知っておりますよ」

 にこりと蛇の目が歪む。まさしく蛇に睨まれた蛙の如く、七絆はその場から動けなかった。

 七絆の知らないことを、七絆以上に知っている。恐らくその言葉は本当だろう。先ほど、胡蝶は“嘘は言わない”と言っていることからも。

 七絆にとって彼は完全に得体の知れない変態である。しかし、なぜか奇妙な既視感を覚えるのだ。まるで零と出会った時のような胸のざわつき。既視感と呼ぶには七絆は圧倒的に思い出が不足している。以前の七絆の知り合いでもないというのに、まるで旧知の仲であるかのように胡蝶は語る。けれど、彼の口から語られる“クイーン”という人物は周囲の人たちが口々に言葉にする以前の七絆とは全くもって乖離していた。

 もしかしたら、これは彼女自身の根源に触れるチャンスなのかもしれない。ここのところ頻繁に起こっている不調についてわかる可能性が高い。突然襲い来る吐き気や異物を縫い付けたかのような首元。その原因がもしかしたらわかるかもしれない。

 吊木胡蝶は不気味な男だ。道化を演じているが、あの瞳は七絆の心の内を透かして見ている。まるで品定めをしているようだ。ぐっと両手を握って、七絆は生唾を呑み込む。ならば、七絆はステージに上がるべきだろう。失うものもなく得ることなどありはしないのだから。

「吊木さ――ごほん、胡蝶…さんはその、私といつから知り合いなんですか?」

「むう、敬称もいらないのですが。……まぁ仕方ありませんね。そうでした。クイーンとはいつから知り合いであるか、ですか。ふむ、言葉にするとすれば、それはそれはずっと前から。貴女様が思い出せない、貴女様の時代から。クイーンがクイーンであったその時から。ええ、ええ、そうですね。ロマンチックに言えば、前世、とでも言えばよろしいでしょうか?」

―――前言撤回。やはりヤバい人だ。

 七絆は頭の中でそう思った。その思いが視線にも出ていたのか、胡蝶は「嗚呼、その眼差し! まさにクイーン!」と身を捩じらせていた。七絆はもう心が折れそうだった。無性に零の天然発言が恋しい。胡蝶のような話の通じないタイプよりかは、零の方が百億倍ましだった。

「ぜ、前世とか、本当に本気で言ってるんですか?」

「敬語はいりませんのに、クイーン。貴女様は私を虐げて続けてよろしいのですから。……ふむ、前世、というのは少し言葉を間違えましたか。しかし、今のクイーンに説明するのならばこれほどに適した言葉はないかと思いますが……。いえ、そうでした。貴女様は昔からまだるっこしいことを好まない。ならば単刀直入に申し上げるのが適当というものですね。―――さて、クイーン。貴女様は自身の過去というものに興味はおありでしょうか?」

「……っ! わ、私の、過去……」

「ええ、ええ。貴女様の過去。私めは申し上げました。“貴女様のことは貴女様以上に知っていると”!」

 胡蝶はにたりと笑いながら七絆を見る。またあの七絆の心を覗き込むような目だ。

 どうしてだろうか。その言葉に安心感を感じるとともに、どうしようもなく逃げたくなる気分になる。頭はクリアなはずなのに、身体が自分のものではないかのように怯えているのだ。

「ええ、ええ、そうです。貴女様の過去を紐解こうというわけでございます!さながら、パンドラの匣を開くかのように! しかして、そこに希望があるのかは私めでもわかりませんが。どこまでも遠く暗い深淵がこちらを呑み込んでしまうかもしれません。ですが、望むなら望むように、生きたいように生きろというのがクイーンの御言葉でございましたから。私めも望むがままに、望まれるがままに演じるというものであります」

「知りたい、と望めば、全てを教えてくれるんですか?」

「ええ、ええ、勿論。貴女様がそう望むのなら」

 きっとこのまま七絆が請えば胡蝶はその良く回る口からすらすらと過去のことを、“クイーン”という人物について教えてくれるだろう。この男はそう言う男だ。目を見ればわかる。熱狂的なまでに七絆というフィルターを通して見ている“クイーン”を信じている。それは狂信者とでも呼ぶべきだ。

 だが、与えられるままに与えられていいのだろうか。雛鳥が親鳥から餌を与えられが如く、口を開いて待っているだけで真実を知っていいのだろうか。そもそも、それは七絆にとっての“真実”になりえるのか。痛みを伴わないまま、困難を知らぬまま、知りえたものは七絆の血肉になるのか。七絆にはわからない。だから、頷けない。疑問を抱いたまま、安易に手を伸ばすことは憚られた。

 そして、何より過去を知って変化した七絆は今までどおり零の“ナズナ”であれるかが恐かった。過去の己はとんでもない罪を重ねた人間かもしれない。そうであった場合、七絆は零を教え導く人間で在れるだろうか。人知れず湧いた恐怖は七絆の探求心を殺すのだ。

「望むことを望むように、信念を持った生き方をして死ね」

 突如、胡蝶が静かな声でそう言った。徐々に膝まで下がっていた視線を上げれば、胡蝶は七絆に微笑んだ。

「よくクイーンが仰っていた言葉です。私めはその言葉に救われました。きっと貴女様にはそのようなお考えはなかったのでしょう。……そういう方でしたから。されども、私めは確かにあの時、クイーンに救われたのでございます」

「……やっぱり人違いですよ。私、“クイーン”って人じゃありません。そんな言葉を吐けるほど、私には信念も情熱もない」

「貴女様はまだわかっていないだけなのですよ。それは信念でも情熱でもない、ただそうしたか、そうしなかっただけが横たわるだけです」

 少しだけ、冷たい低い声だった。胡蝶は握りしめられた七絆の手をそうっと取った。

「結局のところ、全て決めるのは己のみだけですよ。変わるも変わらないも、それもまた自身の在りようでございましょう。しかし、ええ、しかして、変化しない人間はおりませんよ、クイーン。世界は変化し続けるのです。そして、それに置いて行かれる人間もまた変わるのでございます。変わった世界にとっての、変わらないという異分子に。いいじゃあ、ありませんか。貴女様のような唯一はそこに在られるだけでよろしいのです。クイーンはクイーンのままで、それでいいのでしょう」

 その言葉がどうしてか、すとんと七絆の胸に落ちた。そうだ。そうだったはずだ。過去がどうであれ、ここにいる“ナズナ”は変わらない。変わったとしても、“ナズナ”である限り彼女は“ナズナ”なのである。

 過去を知ったところで、“ナズナ”は“ナズナ”のままである。零がそう呼んだ日から七絆は“ナズナ”になった。それはもう変わりえない事実だった。

 ならばそれでいいじゃないか。零と七絆。彼らがそれらを良しとしたのなら、それ以上のことは何もありやしない。途端に目の前の霧が晴れたような気分になった。周囲がどう言おうとも、二人がそれを良しとするのならば、世界はそれでよいのだ。

「―――胡蝶さん」

「はい、なんでございましょう」

「やっぱり、過去の話を教えてくれるっていうのは遠慮します。自分の根幹を揺るがすような重要なことなら自分で思い出さなければいけないと思います。それにそれを知らなかった所で別に支障はありませんから。今の私が“ナズナ”だと知っていれば、それだけで十分でした」

 七絆ははっきりと胡蝶の目を見てそう言った。視線を逸らさず、零とは違う黒い瞳に向かって宣言した。

「ええ、ええ……。―――ええ、そうでございます! その意気でございます、クイーン! 貴女様ならばそのように仰ると信じておりましたとも! それこそが貴女様の強さ! 障害物は薙ぎ倒していきましょう、邪魔する者は潰していきましょう! 私もその時はお供いたしますよ!」

「……胡蝶さんって静かな時とのギャップが激しいんですね。まぁ、そんなところがクイーンっていう人が胡蝶さんを重宝した理由なのかもしれませんけど。気持ちが沈んだ時はうるさいくらいがちょうどいいって学びました。……やり場のない想いを何かに転化できるから」

 胡蝶はその言葉に一瞬だけ目を見開いたが、七絆がそれに気がつく前に表情を取り繕う。けれど、彼女を見るその目は大切なものでも見るようなものだった。

「しかし、もっとこの胡蝶を罵ってよろしいのですよ? クイーンはそれはそれは苛烈に私のことをいたぶってくださったものです! このままですと少々味気ない気も致しますし……」

「それは他所でやってくれませんかね……。私にそこまでのバイタリティを求められても困るんですけれど。それに私はクイーンじゃありませんって……」

「うふふ、奥ゆかしい貴女様も新鮮で素敵でございますよ。―――それで、本題に入らせていただいても?」

 その言葉に七絆は目を丸くした。彼女は偶々“ゾンビ”に襲われていたところを、偶々胡蝶の乗るこの車に乗せてもらったに過ぎない。本題も何も、七絆にはそれだけしかないのだ。それに本題というのならば、先の七絆の過去についての話ではないのだろうか。そもそも今回は七絆と接触するのが目的なのだと七絆は勝手に思っていた。

「おや、おやおやおや。まさかクイーンともあろう御方が? もしや本当に“ゾンビ”から匿われているだけだと? 貴女様と会うためだけにここに来たと? そう思っていらっしゃるのですか?」

 胡蝶の影が揺れて浮き彫りになった瞳が赤く光ったような気がした。吊り上がった口元から白い犬歯が覗いている。先ほどまでの和やかな雰囲気が掻き消されたのを七絆は肌で感じ取った。


 そうだ。何を呑気に談笑などしていたのだ。

 そもそも匿うだけならこんな山奥に来なくていい。それこそそこらの警察署などにでも届ければいいだけの話だ。こんな誘拐まがいのことをしなくてもそれで事足りる。

 話をするのだってそうだ。こんな遠くまで来なくてもいい。町の外れの駐車場で十分だ。

 本当に偶々、偶然七絆を助けのだろうか。それが偶然ではなかったとしたらどうする?

 ただの一般女子高生である七絆を“クイーン”と呼び、誰かを投影してみているような人間が『偶然』七絆を助ける場面に居合わせられるだろうか。そもそも括首町にはついこの間まで“ゾンビ”が出たことのない平和な町だった。そんな中で七絆が“ゾンビ”に襲われるのなんて百分の一以下の確立だ。

「いやぁ、本当に困りましたよ。きっとこのルートを通って逃げてくるだろうと思って待っていたのに、余計なものがついて来るところでしたから。まぁ、彼はわかってくれたようで、大変助かりましたが」

 治まっていた悪寒が背筋を駆ける。恐怖心、もしくは危機管理能力というものが欠如しているのかもしれないと思うほど最近の七絆は迂闊だった。逃げなければと思う時にはもう遅い。

 手を伸ばした先は内鍵ではなく、自身のカバンだ。そこから水筒を取り出すと、思い切り窓ガラスに叩きつけようとした。

「ええ、ええ。それはいけません」

 ずるりと蛇のように伸びてきた腕が七絆の腕を掴む。

「このガラスはそう簡単には割れやしませんけれど、クイーンがお怪我をされる場合がございますからね」

 ふっと耳に直接声が送り込まれてくる。七絆は振り返ることができなかった。振り返れば最後、あの赤く光る瞳がこちらを見ているに違いない。知らずに呼吸が浅くなる喉元を冷たい手が撫でる。

「お話があるのですよ、クイーン」

 謀をする忠臣のように。契約を求める悪魔のように。毒盃を掲げた哲学者のように。


「貴女様が匿っている“彼”のことでございます」


よ~やっと出せました、キーパーソン。やっぱり一人はいないと困るよね。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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