おっさんニートとモグルトさん
ピンポン、ピンポン、ピンポン、ドンドンドンドンガンガンガン!
(うわっ! とうとう蹴りだした!!)
普通悪徳セールスや、宗教の勧誘だとしてもここまでするだろうか? もしかしたら事件かもしれない。仕方なく俺は、モニターで相手を確認してみる事にした。
(・・・何かくたびれた犬みたいなおっさんが居る)
モニターにはスーツを来た薄汚いチワワのような男性が写しだされた。無表情でひたすら扉を蹴っている。
ガンガンガンガンガンガン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ドンドンドンドンドンドン、ガンガンガンガンガンガンガンガンガン
オギャア、オギャア、オギャア、オギャア
「止めてください! 警察を呼びますよ!!」
俺は赤ん坊をあやしながらモニター越しで相手に怒鳴った。するとくたびれたチワワは扉を蹴るのを止めて、モニターに飲料のサンプルらしき物を突き出した。
「おはようございます! 毎度お馴染みモグルトです!!」
(モグルト? 聞いた事無い社名だが)
聞き間違いだろうか? でも先週、誰もが知っている大企業の○クルトさんなら、おばあちゃんがサンプルだけ貰って後はフジコって追い返してしまったはずだが?
「今回は私、犬上太郎がこの地区の担当になりましたのでご挨拶がてらサンプルをお持ちしました」
「結構です! あなた扉を蹴ってましたよね?」
「いえ・・・インターホンを鳴らしても中々お出にならなかったので、孤独死でもされたのかと思いましてね」
この男、やたらと目が泳いでいる。絶対に扉を開けてはいけない。
「ところで奥さん、便秘でお悩みじゃありませんか? このサンプルには、当社で独自開発している悪玉菌ピョロリ株が従来品の2倍配合されているのです」
(悪玉菌!? )
「悪玉菌ピョロリ株は、当社の創業者である穴野 金蔵の実家の井戸から発見され、近年その整腸作用からメディアや製薬会社でも注目されています」
「井戸!? それってピロリ菌じゃないんですか?」
「いえいえ奥さん。普通のピロリ菌と一緒にしないでいただきたい。このサンプルを飲めば上から下から溢れ出してスッキリ爽快、たちまち骨と皮だけになって理想のスタイルを手に入れられます」
「やっぱりピロリ菌じゃないですか!!」
「だから普通のピロリ菌ではありません」
「結構です! お引き取りください!!」
・・・・・・ドンドンドン♪ ガンガンガン♪ ドンドンガンガンドンガンガン♪ ドンドンドン♪ ガンガンガン♪ ドンドンガンガンドンガンガン♪
「止めて! 三三七拍子のリズムで叩かないで!!」
「私と奥さんとの仲じゃあありませんか。扉を開けてください」
「勘違いされるような事を言わないで!!」
「はあはあ奥さん、はあはあ奥さん・・・・・・」
(そう来たか!)
そう、これは悪徳セールスレベル50のセールスマンが良く使う【人妻の間男作戦】、この戦術を使われたら下手に通報してはいけない。対策を間違えたら近隣住民の噂話に花を咲かせてしまう事になる。
オギャア、オギャア、オギャア、オギャア
「いいから今回はお引き取りください! 今忙しいんです」
「はあ、はあ・・・もしやその子はあの時の愛の結晶」
「誰があなたみたいな、汚くて禿げててくたびれたチワワとなんかいたしますか! 早く保健所にお帰りなさい!!」
「・・・奥さん」
「ほらほら、ドリームボックスがあなたの帰りを待ってますよ」
「・・・・・・・・・」
(あれ? 言い過ぎたかな)
ガンガンガンガンガンガン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ドンドンドンドンドンドン、ガンガンガンガンガンガンガンガンガン、ドンドンドン♪ ガンガンガン♪ ドンドンガンガンドンガンガン♪ ドンドンドン♪ ガンガンガン♪ ドンドンガンガンドンガンガン♪ピンポン、ピンポン、ピンポン、ドドンガドン♪ ドドンガドン♪ バンバンドンドン、バンバンドン、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ワンワンワンワンワンワンワンワンワンワン・・・カクカクカクカクカクカクカクカク・・・・・・
(キレた――――――!! しかも扉にマウンティングしてる!)
ヤバイ、ヤバイ、こいつはヤバイ。プロの自宅警備員である俺も、バイオテロを目論むキチガイ相手には国家権力に頼る他無い。もう近隣住民の目など構ってはいられない。
「通報しましたからね!」
「・・・」
「本当ですよ!」
「・・・・・・そうですか・・・今日はこのくらいで勘弁してあげましょう。奥さんが私を忘れた頃に、また来ますね。フフフ・・・」
(怖っ!)
赤ん坊を連れた母親は、赤ん坊と二人きりになった途端に一瞬で社会的弱者となる。俺はこの1日で改めてその事を痛感した。




