02話 策謀
今回は主人公、出番なしです。
ー豪勢な部屋。隅々まで贅が凝らされ、権力の一極集中が顕著に見られる。
その部屋の主は、静かに壁から侵入してきた者に声をかける。
「誰が入って来いと言った?ラクスマン。」
「申し訳ございません、〝魔王〟ガルア様。ただ、ご報告がございまして…」
「なんだ、申せ。」
「はい。どうやら、アポロン平原に〝勇者〟の存在が確認されたようです。」
「なんだと?冗談はよせ。我が1200年前に封印し、消滅したであろう?」
「その通りでございます。…ですが、今回確認した気配は、およそ前回の3倍。つまりは…別の〝勇者〟という考えで間違いないかと…」
ラクスマンは、申し訳なさそうにそう告げる。
「えぇい、黙れ!!〝勇者〟などと…忌々しい。我の片翼を切り落とした恨み、忘れてはおらぬぞ!」
ー今から1200年前、全世界を巻き込み勃発した〝聖魔大戦〟は、〝聖なる者〟である勇者と〝魔を司る者〟である魔王との最終決戦で終結した。その大戦で、〝魔王〟であるガルアの片翼は、〝聖なる者〟勇者によって切り落とされたのだ。
「そのお気持ち、十分に理解致しております。そこで、私からガルア様に、一つご提案がございます。」
「なんだ…」
ラクスマンの申し出に、最初から期待していないかのようにガルアは返事を返す。
「前回出現した〝勇者〟であっても、我らにとって十分な脅威となりました。しかし今回は、前回の3倍の力。こんな事を申し上げるのは大変失礼なのですが……今のガルア様では、ほぼ100%、その〝勇者〟を倒すことは不可能と言えるでしょう。」
〝不可能〟…その言葉が、ガルアの脳内で反響し、精神を苦しめる。
鷹人族の絶対的王者として、君臨し続けてきたガルアにとって、それは思ってもみなかった言葉であり、ガルアの正常な判断力を失わせる。
そうなる事を見抜いて発言した、鷹人族の副官であるラクスマンは、こう思案していた。
ーガルアを落とせば、自らが〝魔王〟にも、鷹人族の王にもなれる。ー
それがどんな手であろうと、無情なラクスマンは、罪悪感など抱かないのだ。
ーただ、既に怒りの感情に敗北し、我を失っているガルアが、それに気づくことはなかった。
「…それで、どうすればいいんだ?」
怒りを必死に抑え、ガルアは質問する。
「お焦りになられているようですが、心配ございません。しょせんは〝勇者の卵〟です。成長しきる前に潰すのであれば、我らでも十分に処分可能かと…」
「では、今すぐに出陣しろ、という事だな?」
「その通りです。」
ーそんな訳がないだろう。いくら〝勇者の卵〟とはいえ、一応は勇者族。魔王の中でも最弱のガルアには、到底勝てる筈もないのだ。
…まぁ、この馬鹿は気づいていないだろう。
「よし分かった。2か月後に、全兵力を引き連れ出陣する。すぐに家臣を集めろ!」
「承知いたしました、ガルア様。」
ー自分の策にまんまと引っかかった獲物を嘲笑うように、ラクスマンはほくそ笑む。
報告を終えたラクスマンは、部屋を退出し、呟く。
「…これで、私が王となる日も近くなった。クククク……」
ー不敵な笑みを浮かべ、ラクスマンは闇に消えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中世ヨーロッパを思わせる、巨大な城。その一室で、背中から蝙蝠のような羽の生えた少女が、ニヤリと口を歪ませ、呟く。
「〝勇者〟かぁ…、すごく久しぶりね。ガルアは動くって?…そうね、馬鹿は馬鹿らしく死ぬのがお似合いだわ。キャハハハ!」
悪魔の囁きのような声でそう言うと、窓を突き破り、羽をはためかせ、どこかへと飛び去って行った。
Q.最後の人は誰ですか?
A.僕にも分かりません。(なぜ)