6.僕は進むけど、
少年視点だけです。
⌘⌘⌘⌘⌘
いつも通りに太陽が出る前に起きる。
今日も早く庭に行こう。そう考えて、軽装に着替えていると、ふと昨日見た光景を思い出した。
(トルロ将軍と……何を話していたのだろう)
昼に近い時間、少年は自分の部屋で書類の整理をしていた時ふと窓から庭へ目線を移すと、庭のそばにある廊下で将軍と少女を見つけた。
将軍は終始笑顔で彼女に話しかけていて、少女もそれに返していた。
二人は先日、先の戦で良い成績を残したことで国から英雄賞を授与されている。
そこから、二人は戦があった一年間はほとんど一緒にいたのだろうかと想像すると、少年の心がモヤっとした。
庭に行き、少ししたら少女がやってきた。
「おはよ」
「……おはよう」
昨日のことを思い出して、その後の言葉がスッと繋げられない。
「…………そ、そういえば、今は休暇をもらったるんだって?」
「うん。……はい、これ」
少女は慣れない左手から袋を少年に出す。
何だろうと袋を開けると、小さな銀色の筒状の物が入っていた。
「厄除けのお守りなの。このネックレスのお礼として……昨日買ってきたんだ」
受け取ってくれる? そう少女は首を横にコテンと傾げる。もちろん少年は頷いた。
「ありがとう。大事にするね」
ほんわり、少女は微笑んだ。
それを見た瞬間、さっきまであった少年のモヤモヤは静かに消え、何か弾むような感覚が広がる。
いつもの時間になって彼女が庭から消えると、少年はさきほどのお守りを大事に胸ポケットにしまう。そして、その上に右手を置いて、そこにある感触に満足した。
「…………おいっ」
ふと、小声で呼びかけられ二の腕を突かれる。ハッと気がつくと、いつの間にか朝議の話は進んでいた。
(しまった。お守りが嬉しくて、今朝のことに思いふけってしまった……)
隣に座る第一王子が小さく溜息ついく。
「もう成人なんだからシャキッとしろ。それに今の話は反論しなくていいのか?」
「……え?」
今は何を大臣と王は話し合っているのか、急いで耳をすませる。「第二王子は」という単語が聴こえたので少年は前に乗り出した。
「……では、エンゼイル王国の第一王女かハル皇国の皇帝の妹君、またはラザーク王国の第三王女がよろしいのでは」
(全員、同盟国の高貴な女性たちだ)
黙って聴いていると、国王がこちらを向いた。
「……どの国も第二王子のことは好印象だという。あとで王子の部屋にそれぞれの姿絵を送ろう。どの姫君と婚約したいか選ぶと良い」
「………………………はっ、はい、承知しました」
まさかそんな話だなんて驚いた。第一王子はそんな弟の背中をトンっと軽く叩く。
「お前が長生きしないだろうと思われた時は、誰も婚約させようとは考えなかったからな。……ま、ずっと城にいたし、恋はまだだろうからそう苦にならんだろう」
その言葉に、少年の頭にはあの少女がよぎった。
(彼女は僕の婚約のことを知ったらどう思うのだろうか……)
喜んでくれたらと思うと、何故か心 痛い。
そう考えると、自然に手が左胸を触った。
ちょうどお守りが当たる。
(……っ)
瞬間、お守りを渡した時に微笑だ少女の顔が思い浮かんだ。それから急に心がキューっとなる。
彼は自覚した。
(…………もっと……力がほしい)
そして、今の立場では自分の思いを叶えることができないということも自覚した。
次が最後になります。