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4.私は戦の女神を続け、僕は成長する。

⌘⌘⌘⌘⌘



 王と兵士達が戦場へ出発してもう一年。

 その間、国の政治は第一王子が担うが、徐々に元気になった少年も兄の手伝いをすることになった。主に環境と勉学についてを任された。



「王子、最近は食べる量も多くなりましたね」

「道路整備や流行病などで地方に偵察で行くことが多くなったからな。運動量が増えれば自然なことだ」


 もう少年公認のかかりつけ医になった医者は、少年がだんだん健康になる様に目をウルウルさせながら微笑んだ。

 一年前は痩せていて背が小さくて、目には輝きがなかった。しかし、あれから体重が増えてきて、背は標準くらいに大きくなった。目には希望がみえる。


 医者が検診を終え退室すると、次にメイドがやってきて服を着せられた。それと同時に、従者が今日のスケジュールを確認する。


「今日はフランデール地方に生息する白大鹿の数が減少傾向問題についての議会と視察、そしてノスタ地方の学校建設についての話し合いがございます」

「わかった」


 このスケジュールだと半分が馬車での移動だろう。馬車での移動はガタンガタンと揺れて落ち着かないので、少年はあまり好きではなかった。

 しかし、それは我慢だ。


「続いて戦況報告ですが、昨日未明、我が軍は敵国の中心地まで進んだ模様。今日が山場だと思います」


 今回の領地拡大も上手くいきそうだ。

 おそらく戦の女神も頑張っているんだろうと思うと、少年も今与えられた役目をちゃんと果たそうと頑張れる。


 今日も彼は心身ともに成長していく。



⌘⌘⌘⌘⌘



 我が軍はもうすぐ目的地までたどり着く。緊張とともに恐怖、そして今回も勝てるという興奮が軍全体を覆う。


(ようやく……終わる!)


 少女は騒ぎ立つ心情を抑え、冷静に余裕ある姿勢を貫く。ただただ、明日の夜明けから突入する城を、テントを張った丘の上から真っ直ぐに見つめた。

 月明かりもあり、夜でも輝く黒髪と月のような瞳は、周りにいる兵士達からは幻想的に目に映る。


 しばらくすると、一人の兵士が近くまで寄ってきた。


「めっ、女神、トルロ将軍が明日について確認したいと仰っています。将軍のテントまでご案内致します」

「……もう遅いから明日じゃダメなの?」


 男だらけの軍の中で働いていても、少女は17歳の乙女だ。ここですぐに「はい」とも「すん」とも言えない。

 兵士は眉を下げた。


「で、では、私と女性騎士も同席します」

「…………わかった。それなら行くわ」


 それなら万が一の事も起きづらいのではと思い、少女は彼の後へ続いた。



 途中で数少ない女性騎士を捕まえて、将軍が待つテントの入り口をくぐった。

 将軍は明日落とす城の模型を眺めていたが、少女が現れるとそこから視線を外した。


「待っていたよ、女神。……他のものは退出してくれ」

「いえ、その必要は無いと思いますが。明日の作戦についてなら、彼らが知ることに問題はなく、むしろ良い方向に事が進むのではないですか?」

「……それもそうだね。そこにいることを許可しよう」


 彼は少し憂いの含んだ微笑みで、少女に模型の前に置いてある椅子へ座るよう促した。


 去年から将軍として働く彼はトルロ侯爵の嫡子で御年二十四歳。若くして上位職に就くほど、実力は英雄並みだ。そんな彼は、城下町で彼の姿絵や人形が作られるほどファンが多い。


 ちなみに少女と将軍は五年前からの付き合いがある。


 少女が椅子に腰を下ろすと、将軍は向かいの椅子へ座った。


「今日も女神はお美しいですね」

「ありがとうございます……ですが、将軍には敵いません。ところで、明日のことですが……」


 もう早く済ませて明日に備えよう。そう思うと、淡々と説明していった。ところどころ質問があったが、素早く返答をする。


「……こんな感じで、明日はよろしくお願いします」

「よく分かったよ」

「では……おやすみなさい」


 スッと立ち上がる。すると、「待って」と反対側から手を掴まれた。

 驚いて少女は将軍の目を見た。将軍もこちらを見ていて、なんだか嫌な感じがする。


「まだ質問があるんだけど」

「な……んでしょうか」


 目をそらす。

 手は掴んだまま。


「ねぇ、女神は誰かと結婚するのかい?」

「……戦関係ではなければ、また後日では駄目でしょうか?」

「……もし、まだ決めていなかったら俺はどうだい?」

「この話は後日で」

「覚えておいてね」


 ようやく手が離れた。兵士達が開けてくれた入り口に急ぎ足で向かう。

 後ろから「おやすみ」と聞こえたが、もう聞こえないフリだ。

 

 帰り際、立ち合ってくれた二人に礼を言って、彼女は自分のテントに入った。


 ベッドに腰掛けて、ふと思う。

 

 

(私に、結婚などの自由はあるのだろうか……)



 少女はこの国のために生かされている。

 いずれ好きな人ができ、結婚して、幸せを掴む。そんなことは許されるのだろうか。

 一瞬、我が国の城に待つ少年を思い出す。


 少し、いや心が動かされるほど、胸がチクりとした。


 

⌘⌘⌘⌘⌘



 夜明けが来た。


 丘の上でシェルベール王国の旗を持つ少女は、隣に立つトルロ将軍そしてやる気を見せる我が軍を見下ろした。

 彼らの睡眠時間は平均一時間あるかないか。昨日の夜、戦争の不安、またはやっと終わるこの状況に気分が高揚して眠れなかった兵士が多い。


 少女も睡眠時間は一時間程度である。少女の場合、違うことをもんとんと考えていたからであるが。


「……我が軍よ」


 さぁ、本当の幕が上がる。


「我らは女神の加護のもと、我らは正義だ」


 奮い立て。


「……行くぞ。我に! そして各将軍に続け!!」


 少女は愛馬に蹴りを入れる。すると黒馬は丘を下り、真っ直ぐ見える城まで一気に駆けた。


 敵兵が少女に気づき、止めようと体当たりしてくる。それを容赦なく切り捨てた。

 今は肉を切る感覚なんてない。

 狙うは敵国の王。


 ふと、右肩に痛みを感じた。

 近くを走っていた俊足の兵士が驚きの表情をする。


「……!! 女神! 肩に出血が!!」

「気にするな! 今は目の前の戦況だけ気にしていろ!」


(肩に撃たれていたのか……)

 気にしだすと、途端に痛みが増した。

(耐えて、私! ここは余裕あるように見せかけないと、軍の中の士気が下がってしまうし、敵にチャンスを与えてしまう!!)


 出来るだけ自然に口角を上げる。今の状況を楽しむことにする。


「このくらいの怪我! 無い物に等しい! みんな、続け続けーっ!!」



 しばらくして、敵国が降伏してきた。

 一年と少し、ようやく一つの戦争が終わった。


 帰り道、軍医に怒られながら手当てされたが、少女は始終余裕ある顔を見せた。



⌘⌘⌘⌘⌘



 我が国に、戦争に勝ったと伝わって数日後。

 今日は出ていった軍が凱旋する予定日だ。そんな日だから、少年の衣装は白と金を合わせた豪華なつくりをしていた。


「王子、今日の予定は、我が勇敢なる軍の出迎え……が主です」

「ああ、わかった」


 いつ帰ってくるか分からないため、朝早くから夜まで軍一行を待つ。


 支度が済み、城で最も外から目立つ城壁の上に行くと、すでに第一王子がいた。

 彼は亜麻色の髪に似合う赤と金の豪華な衣装に包まれている。「おはようございます、兄上」と挨拶すると、あちらも挨拶を返す。


「……ようやく父上の分までの公務が終わるなぁ」

「そうですね。兄上には自分の公務もあったのに、父上の大半の公務まで引き継いで頂き……ありがとうこざいます、お疲れ様です」

「弟思いの兄なんで」


 第一王子は楽しそうに笑った。


「一年ぐらい前のお前が偽りと思うくらい元気になったな。よかったよかった」

「これでもっと兄上のお手伝いができます」


 少年も微笑む。

 第一王子は「頼むな」と少年の背中を強く叩いた。



 それから空がオレンジ色に染まる頃、軍一行が帰ってきた。

 先頭に一際目立つ白馬と黒馬がいることから、王と戦の女神が先頭にいることがわかった。


(おかえり……)


 城下町がお祭りのように騒いでいる中、彼は静かに思ったのであった。

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