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旧作・駄作・ほぼ没

覚え書き・ポール・ヴァレリーと現代

作者: 住友




「我々が生きる現代世界は

自然エネルギーをより有効に、

より広範囲に利用することにしのぎを削っている。

絶えざる生活の必要を満足させるために、

自然エネルギーを探索し、

消費するばかりではなく浪費をする。

浪費することに夢中になって、

新たな使い道を創造し

かつて存在しなかった新しい欲求を満足させる

手段を考え出す。

何か新しい物質(あるいは技術)を発明すると

その物質の特性を念頭に

その物質で癒せる渇き、痛み、苦しみを発明する

というような具合に事が進行する。」


「我々は産業の繁栄のために

本来の生理的欲求とは無関係な、

意図的に外側から押し付けられる

心的、感覚的刺激に由来する

様々な趣味や欲望を吹き込まれる。

現代人は浪費に酔う。

過剰な速度、過剰な照明、

強壮剤・麻薬・興奮剤の濫用、

物事を印象づけるための

繰り返しの濫用、

多様性の濫用、共鳴の濫用、

安易さや驚異の濫用、

子どものごとき人間の指一本でも

途方もない事を引き起こせる

『スイッチ』の濫用……」


「ロンサールの時代の学者たちは

蝋燭のつましい光で問題なく読み書きをしていた。

今日、目は蝋燭の二十倍、

五十倍、百倍の光を要求する。

耳は管弦楽団の大音響を要求し

不協和音も許容し

トラックの出す轟音、

機械の出すピイピイ、

ギシギシ、ゴウゴウいう音にも慣れている。

時にはそういう音が

コンサートの音楽に登場することを望む。」


「かつては馬の速度で十分だったのに

今日では特急列車でも遅すぎ、

電信でも待ち遠しい。

そして出来事自体も日々の糧として毎日、

ますます刺激的な味のものが要求される。

朝、世の中に、

何か大きな不幸が起きてないと

我々は物足りなく感じる。

「今日は新聞に何もない!」と言う。

これはまさに我々の正体を

如実に表している。」


「我々は皆中毒にかかっている。」

(ポール・ヴァレリー『知性の決算書』)


長い引用になりましたが、

以上は詩人で評論家の

ポール・ヴァレリー(1871~1945)が

戦前に行った講演の一部です。

その内容はほとんど現代の状況そのままを

報告するものとして通用する。

21世紀の今日もなおヴァレリーの時代です。


『現代社会の病理』と言う時、

それはある特殊な政治状況や

特異な思想信条の存在を

指しているのではありません。

この時代の一人一人の住人の

生の基盤である

習慣が、常識が、論理が、感情が、本能が、

認知能力や生理現象までもが

異様な形に変容していることを意味するのです。


現代人が判断力の髄まで病理に

侵し尽くされている

ということを理解すれば

個々の事柄を個別に

問題視することがいかに

的外れなものの見方であるかが分かります。

現代人の危機は

根元的な危機であるからこそ

健全な政治、健全な外交、

健全な労働、健全な教育、

健全な人付き合い、

健全な思考や健全な信仰、

それらを為しうる健全な人間となる機会が

縁遠いものになってしまっている。


そして

病的な人間を満足させるために

約束され与えられる

途方もない権利や権限や権力、

それら欺瞞であり偽善であるものが

今、この社会、世界を覆い尽くしています。

こうした病に立ち向かう行為、

それが読書の本質であると私は考えております。


2018年4月24日、一部訂正。

「長い引用になりましたが、

以上は詩人で評論家の

ポール・ヴァレリー(1871~1945)が

戦前に行った講演の一部ですが~」

の最後の「が」を削除。

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