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8話

2021/7/8 内容の修正を行いました。

 用事を済ませると、今日は "もしかしたら面白いことが起きるかもしれない" と、少しの期待を持ちながら、俺はDGOへとログインした。






*************************






 周囲を滝が囲む幻想的な場所。ギルド白夜のホームエリアだ。エリアの中央には豪華な装飾のなされたギルドホーム "白夜城" 。



 ギルド "白夜" とは。



 数あるギルドの中でも、攻略速度、挙げた功績から "トップギルド" と呼ばれているプレイヤーの集まりである。


 ギルドでは、そのギルドを立ち上げた者が "ギルドマスター" と呼ばれ、このギルドマスターの決めた方針に賛同して集まった者が "ギルドメンバー" と呼ばれる。


 所属メンバー数に上限のようなものはないが、これは所有しているギルドホームの規模により左右する形だ。


 ギルドホームについては後で説明するが、大所帯を目指すとなると、なかなかに大変である。


 ギルドに所属することで、特典のようなものも存在する。


 メンバー同士の現在位置の確認、メンバー同士が離れていても会話ができる"メンバーコール" といったスキルが使用可能となる。


 メンバーコールに似たものは一般スキルにも存在しているが、こちらはランクにより距離に制限があったりする。


 その点メンバーコールは、ギルドメンバー同士限定とはいえ、ランクに関係なく距離は無制限だ。


 ギルドは簡単な手順で結成することが可能だが、ホームエリアは別。ホームエリアを持つには "特定の条件" をクリアする必要がある。


ホームエリアは簡単に言えば "土地" という認識で問題ない。条件とは、DGO内にいる "特定のNPCに認められること" 。


 認められると "そのNPCの住まう場所をギルドのホームエリアにすることができる" ようになる。


 何を要求されるかはNPCごとに多種多様であり、簡単にはクリアできない。


 他のNPCに認められればホームエリアは後からの変更も可能だ。所謂 "引越" のようなもの。


 白夜のホームエリアは、ここ "古龍の住処" と呼ばれる場所になる。


 ここは本来 "特殊NPCである龍" が守護していた場所で、この特殊NPCに認められたことにより、白夜は古龍の住処をホームエリアとしていた。


 ホームエリアには、ギルド専用の居住スペース "ギルドホーム" なるものを作ることが可能で、このギルドホームがギルドの活動拠点ということになる。


 白夜のギルドホームは白夜城。ギルドホームは "家" という認識で問題ない。


 ホームエリアに元から居住スペースがある場合には、これをそのままギルドホームにすることも可能だが、居住スペースがない場合は、 "プレイヤー自身でギルドホームを作成" する必要がある。所謂 "建築" と呼ばれるもの。


 この建築物の規模により、ギルドに加えることのできる "最大プレイヤー人数" が変わってくる。だから大所帯を目指すのは大変というわけだ。


 古龍の住処は、周囲を滝に囲まれる広い空間ではあるが、居住スペースのようなもがなく、何もなかったここに、建築でギルドホーム "白夜城を建てた" 形になる。


 ホームエリア、ギルドホームへは、ギルドマスターや権限を持つプレイヤーの許可なく立ち入ることはできない。許可を出せばギルドメンバー以外でも入ることが可能だ。


 だから "特殊なイベント" でも起きない限りは、ホームエリア、ギルドホームはDGO内で最も安全な場所といえるだろう。


 ギルドホームを持つと、ギルドホームへと瞬時に帰還することが可能な "帰還石" といったアイテムも使用可能だ。消耗品と違って、何度でも使えるので便利である。


 移動系スキルを持たない者も多く、この広いDGOの世界で過ごす上で、このアイテムはかなり重宝されていた。


 白夜城に入るとロビーにはメンバーの姿があった。




「ナイスタイミングで我らが大将のご登場だ」


「やぁやぁマスター!」


「こんにちは」


「マスターもこれから "例のイベント" ですか?」




 声をかけてきたのは白夜のメンバー4人。上から――




 "ジェイク" 。頭にバンダナを巻いた動きやすい軽装備に身を包む気さくな中年男性。尚怒ると結構怖い。彼は俺のことを大将と呼ぶ。



 "アルコッテ" と "エルコッテ" 。この二人は双子の姉妹で小学生よりも小さい身長のアバターが特徴だ。元気な方が姉のアルコッテ。大人しい方が妹のエルコッテ。ちなみに二人とも成人だな。



 "アオイ・ヤシマ" 。長い黒髪をポニーテールに束ね、和装に身を包んだ彼女は、その見た目より実年齢が随分若い。白夜では一番若い現役の高校生だ。若く見られないことを本人は結構気にしているらしいが。アバター名はジュン同様に本名とのこと。




 と、メンバー紹介はこんなところにしておこうか。今はアオイの言う "例のイベント" というのが気になる。


 今日はDGOが始まってからちょうど "2年目" の日である。


 これの意味するところは……俺は "2周年イベント" のようなものが起きるのではないかと予想していた。


 イベントには傾向があり、これはゲームで良く見かけるような内容のものや、行事関係であったりと様々。クリスマス時期であれば、DGO内でも似たようなイベントが発生したりもする。


 こういったイベントが発生し始めたのは、DGOへとログイン可能になってから "1年が経過した頃" からだった。


 一説にはDGOに慣れてきたプレイヤーに合わせて神がイベントを用意した。なんて噂も出てはいるが、真相は不明である。



「2年目はやるんだな。突然なのは相変わらず、か……早速で悪いが、状況はどうなっている?」



 1年目のこの時期には、特別変わったイベントが発生するようなことはなかった。案外、慣れてきたのはプレイヤーの方ではなく、地球について勉強熱心な神の方だったりするのかもしれない。


 世界共通の法律ワールドペナルティなんてものを作ったくらいだ。地球で普通に暮らす一般人よりは神の方が地球に詳しいってのはおかしな話だが。



「ふふ。安心してマスター。まだ "準備中" みたいよ? 各地にいるメンバーから連絡がきてるわ。今回は随分と "広範囲でのイベント" みたいね。現状で分かっているのは……」



 答えたの先程のメンバー4人ではなく、ジュンであった。彼女もログインしていたらしい。イベントに乗り遅れまいとする俺の様子に気づいたのか、その顔には笑みを浮かべている。


 イベントはゲームのように運営が事前に告知したりすることはなく、気付いた時には終わってました。ということも珍しい話ではない。


 ここは流石白夜である。相変わらずメンバーが優秀だ。イベントはまだ準備中の段階だというのに、既にそれなりに情報が集まっているようだった。


 ちなみに "パニッシャー" こと、前回の "掲示板事件" でお馴染みのアレクはまだログインしていないようだ。戦闘となればアレクがいれば百人力なんだが。


 案の定、ジュンの話を聞いていけば、今回のイベントは戦闘必須。


 イベント内容はというと、現在、DGO内の各所に無数の球体が出現していて、イベント開始と同時に球体から魔物が出現。これを撃退するという "タワーディフェンス" のような形式のイベントになるらしい。


 単純に考えると従来のイベントとそこまで変わらない気もするが、違う。今回はDGO内の "各所に" 現れている球体から魔物が出現するというのが問題だ。


 DGOとは "地球と同程度の広さを持つ世界" である。


 これは白夜のような戦闘メインの攻略ギルドとは別のベクトルで、DGOを開拓しているギルド、地球で学者なりをしているプレイヤーが多数在籍している "調査に特化したギルド" による調査結果によって確定していること。


 ジュンの言うように、かなりの広範囲なイベントだ。これは地球上の各地に出現する魔物を同時に撃退しろというのと同じことだからな。


 それに、こちらの世界にも当然、各地にはNPCの住まう町や村、コミュニティーが無数に存在していて、どうやら球体はそのコミュニティー付近にのみ出現しているようだ。



「出現した魔物の目的は町を襲うこと。で、俺達プレイヤーでそれを阻止する、か」



 俺の言葉にメンバーも頷いた。


 イベントと呼ばれるものは度々発生するが、ここまでの広範囲に渡る規模のイベントは今回が初めてとなる。


 やはり2周年イベントなのだろう。そうなると、当然 "クリア報酬" の方も気になるが、報酬というのは、イベントに貢献したプレイヤーに与えられるものであり、大抵はイベントが終わってみないと何が貰えるかは分からない。


 報酬が分からない故に多くのプレイヤーが参加する。そして、今回はいつも以上に多くのプレイヤーが参加することが予想された。規模的には、全プレイヤーが総出にならないと厳しそうだが。


 プレイヤー側は報酬もあり、イベントを楽しみとする者も多い。だが、NPC達は別だ。


 強敵の現れるようなイベントであれば、プレイヤーと違って死亡後に復活することのできないNPCには死活問題だからな。



「だから "オルゲイン" の奴も出張ってるのか?」



 白夜メンバー "オルゲイン・ドラグネイル" 。


 ホームエリアである "古龍の住処の以前の持ち主" でもあり "特殊NPC" である彼が、珍しく白夜城にいなかったのだ。


 普段オルゲインは白夜城の自室からあまり出てこない。


 詳細は不明だが、彼はここ古龍の住処を守護していた特殊NPCである。継続して白夜城も守護してくれているのだろうと、皆も特別気にはしていなかったが。


 ちなみにオルゲインの部屋は龍の部屋といっても普通の部屋だ。オルゲインはいつでも "人型になれる" からな。



「そうだマスター! オルゲインからの伝言だよ! ……主よ。此度のイベントは "特殊" なものである。油断はするな。我は同胞を守護しに向かう」



 アルコッテがオルゲインの口調を真似ながら、顔も真似ているつもりなのか、所謂 "変顔" というやつで伝言を伝えてくる。



「ふふ。アルちゃん、それオルゲインの真似かしら?」


「アル姉、上手」


「そうだなエルコッテ。でもまだ甘い。オルゲインの顔はもっと、こう……」


「ジェイクさん、全然似てないです」



 ジュンが笑い、妹のエルコッテは拍手をし、ジェイクは両手で自身の顔を潰すように挟み更なる変顔を見せ、それにアオイが真顔で冷静なツッコミを入れていた。


 当のオルゲインといえば、年齢こそ老人となるが、見た目は普通に美青年といえる整った顔をしている。おそらくジェイクが真似したのは龍状態でのオルゲインの顔なのだろう、うんうん。もちろん冗談だが。



「このままオルゲインの顔真似大会も面白そうだが、話を戻すぞ? オルゲインが出張るくらいだ。今回のイベントの敵はかなり手ごわいんだろうな」



 オルゲインは別名 "龍神" とも呼ばれている特殊NPCだ。龍族を束ねる "龍王" よりもその立場は上であり、立場だけではなく、実力も相当なもの。


 そのオルゲインから油断するなとの忠告。これだけで今回のイベントは "なかなかの難易度" だということが分かる。


 イベントは内容、難易度も様々なものがあるが、難易度は以前紹介したDGOツアーで訪れた地域ごとの初級~上級といった難易度に見合ったものが、そのエリアで発生する。


 極稀に、エリア難易度より遥かに強力な魔物が出現することもあり、この場合、魔物とはカテゴライズしにくい "異質な存在" が登場することがある。ゲームでいうところの "レイド" や "ネームド" といったものだ。プレイヤー多人数による協力が必須になる。


 当然、これをクリアできれば報酬には期待できるが、問題はその難易度。


 例を挙げれば、以前に "地球の有名な山の形をした魔物" が複数体現れたイベントが発生したことがあった。流石に大きさまで同じというわけではなかったが、ビルよりは巨大であったし、強さといえば規格外だったといえるだろう。


 使用された噴火というスキルは、並みのプレイヤーでは回避不可能であり、高ランクの防御スキルを使用しなければ、被弾と同時にほぼ即死という広範囲に高火力。それが連発されるのだ。


 一部のプレイヤーからしたら地獄であっただろう。おまけに、並みのプレイヤーではダメージすら与えられないほどの高耐久も有していた。


 あの時は攻撃対象が無差別であり、ここにNPCも含まれていた為、俺は移動系スキルでNPCを守ることに集中せざるを得なく、後手に回る展開でかなり苦戦した。アレクがいなかったらどうなっていたことか。


 今回のイベントでは、それ以上の存在が出現することも十分に考えられる。



「まぁ、何が現れても、俺らのすることは変わらないな」


「そう。私達白夜は全てを攻略するギルド。今回も同じ」


「うん! エルの言う通り!」


「楽しみですね」


「みんな頑張ってね。私はここに残るけど、メンバーコールでサポートするから」



 そう言うのはジェイク、エルコッテ、アルコッテ、アオイ、最後にジュン。ジュンはイベントには参加せず白夜城に残るということ。


 特殊なイベントであれば、ここホームエリアまで敵が攻め込んでこないとも限らない。


 それに、今回はメンバーが各地に散らばることになるだろう。一度戦闘が開始してしまえば、細かい情報のやり取りや、各地の戦況の把握は難しい。今回のジュンの役割は、そういったものをまとめる司令塔といったところだろうか。


 ちなみにジュンは戦闘が不得意だから残るということではない。白夜に戦闘が不得意な者は "存在しない" からな。


 そうして、俺達は間もなく開始されるイベントへ向け、各々が準備を始めたのだった。

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