5話
会話中!の後に全角スペースがなかった箇所の修正をしました。
2021/6/14 内容を修正しました。
魔界。
「……ここも相変わらずだな。嫌いじゃないが」
禍々しさと優美さが混ぜ合わさったような雰囲気の城内を歩いていた。
進む先には、魔界に住む者であったとしても、そう易々立ち入ることの許されない "王の間" がある。
巨大な扉を、躊躇いなく開ける。
まるで血のように鮮明な赤色をした豪華な絨毯の先には、玉座が。王の間だというのに護衛の姿は見えない。
「よぉ。今日も一人なんだな」
「……」
俺の言葉に返事はなかった。
玉座に座る王は、その瞳を閉じたまま、静かに佇んでいるだけだ。しばしの静寂が辺りを包む。
「……お目覚めかな?」
ようやく、魔界の頂点にして、魔の物を統べる王…… "魔王" は、閉じていた目を開けると、その鋭い眼光をこちらへと向けたのだった。
魔界エリア。
生息する魔物が非常に強く、エリア難易度でいえば初級、中級、上級と続くその更に上の "超上級" エリア。
難易度の目安はプレイヤーが、というか、自身の管理する "攻略サイト" から定着したものだったりするが。
攻略サイトについては、いずれどこかで紹介することもあるだろう。
魔界は "魔族" という種族NPCが統治していて、トップに君臨しているのが魔王である。
魔王の住まう "魔王城" は、魔界エリアの中でも、最も難易度の高いエリアとなっていて、DGO内で数える程しか存在しない "絶級" のエリアに指定される。
この絶級というのは、魔王城自体の攻略難易度ということではなく "魔王単体の力" によるものが大きい。
魔王についても少し話しておこう。
魔王は魔物ではなく "NPC" である。種族は魔族。
NPCには種族があり、NPC同士が種族関係で敵対、対立していることもある。例えばエルフ族とドワーフ族は敵対といかないまでも仲があまり良くない。
ここにプレイヤーも種族として含まれていて、NPCとプレイヤーも関係が悪化することがある。
魔族は意外かもしれないが、他種族と敵対関係にはなく、どちらかと言えば中立な存在であった。
それでも以前、プレイヤーと魔族は敵対関係となったことがあり、かなり大規模な戦争状態へと発展したことがある。
きっかけは "一部のプレイヤーが原因" だった。
この話の前に、まず魔物とNPCの違いを知ってもらわないといけない。
魔物は死亡すると素材をドロップする。
NPCは死亡するとその存在が "完全に消滅" する。プレイヤーのように生き返ることもない。素材もドロップしない。
気分がいい話じゃないけど、これはプレイヤーにより検証された事実になる。
NPCを進んで倒したり、敵対したところでDGO内で活動がしにくくなるだけでメリットがない。これは常識だった。
だが、ある日を境に状況が変わる。
NPCの中には特殊なNPCがいることが判明したのだ。この "特殊NPC" は通常のNPCよりも強力な力や、特殊なスキルを持っていたりする。
しかも、死亡しても、ある程度の時が経てば復活するし、倒すと素材とは違う "専用のアイテム" を落とすことが判明した。
専用のアイテムを落とす、倒しても復活するNPC。
ここで、この特殊NPCを独占しようと特殊NPC狩り、通称 "NPK" を行うプレイヤーが一定数現れることになる。
当時は、この特殊NPCを探す為に普通のNPCにもかなりの被害が出た。
そして、NPCの種族の中でも、強い力をもつNPCの多かった魔族がNPK被害にあう。
結果、魔族とプレイヤーの大規模な戦争に発展する。
いくらプレイヤーは全員が死んでも復活するとはいえ、魔王含む、魔族側のNPC、特殊NPC達は強かった。
両者一進一退で、長引くかと思われたこの戦争状態は、最終的に傍観していた一部プレイヤーギルドの介入によって停戦、そして和解となった。
この介入したギルドに白夜も含まれるわけだが……と、話がだいぶ長くなってしまった。待たせている魔王にも悪いので、詳しい話はまた今度にしよう。
最後に一つだけ。
白夜では基本的に "NPCを攻撃することは禁止" している。
相手が特殊NPCの場合は両者復活するということあって "両者同意の上での決闘" であれば問題ないとしていた。決闘といっても死んだらデスペナの対象だ。決闘は完全に自己責任となるが。
これから俺は、魔王に決闘の申し込みをするつもりだ。 "魔王も特殊NPC" だからな。
魔族とプレイヤーの戦争からは時間も経っているし、俺と魔王の仲だ、問題もない。
目の前には、弱者であれば泣き出してしまいそうなプレッシャーを放つ魔王の姿。かなり待たせてしまったせいか、少々機嫌が悪そうに見えるが。
それを特に気にすることもなく、友人にかけるような気軽さで、魔王へと声をかけた。
「久しぶりだな、魔王。今からちょっと相手してもらえるか?」
「貴様……断る!」
「だがしかし! それを断る!!」
「……」
魔王は眉間に皺を寄せると、しばしの沈黙の後、ゆっくりと玉座から立ち上がった。
「……よかろう。 "今度こそ" 貴様の息の根を止めてくれる!」
「よし……じゃあ、早速いくぞ?」
魔王の返答に、俺の広角は吊り上がる。
ギルドメンバーがこのやり取りを見ていたら、マスターがまた邪悪な笑みを浮かべてる!や、どっちが魔王か分からないわね。みたいなことを言われそうではあるが。
魔王はなんだかんだで、いつも決闘を断ることがない心の広い奴なんだ。それでは尋常に決闘を始めるとしよう。
俺は、鞘に収まった刀の刀身を抜くと構える。
同時に、魔王は手の平をこちらに向けていた。その手には濃密な闇の魔力が集まっている。
「ジェノサイドフレアか」
魔王の十八番。特殊NPC専用 "ユニークスキル" 闇魔法SRジェノサイドフレア。
魔王が使用するスキルは一つ一つが強大な力を秘めているが、その中でも、最も攻撃力が高く、回避することが難しいのがこのジェノサイドフレア。
まともに受ければただではすまない。それでも、慌てることはない。
ジェノサイドフレアは確かに強力で、その威力、速度、範囲どれを見ても隙がない。初見だとまず対応の難しい初見殺しのスキルといえるだろう。
対策としては、ジェノサイドフレアは発動までに "僅かな溜め" が必要になる。この間に準備を整えること。
この時に攻撃を行うのはやめた方が良い。
魔王は、この手を向けている動作中、同時に "リベンジ" というカウンタースキルを発動していて、リベンジ中の相手に攻撃を仕掛けると、次の相手の攻撃力を上げてしまうことになる。
一撃で倒せるなら話は別だが、魔王を一撃で倒すことは至難の業だろう。
とあるパニッシャーの姿が頭に浮かんだが。俺の選択肢はといえば、
「やりようはあるさ。フォームチェンジ=ゲートガーディアン=! 更に鉄壁、リベンジ!」
ユニークスキル フォームチェンジ アクティブ
倒したことのある特殊な存在の特徴を得ると同時に、ステ ータスを変化させる。
=ゲートガーディアン=
魔法を大幅に軽減する巨大な盾と鎧を装備。魔法防 御力の増加。代償に攻撃ができなくなる。
スキル 鉄壁A アクティブ
10秒間受けるダメージを大幅に軽減
ランクにより効果時間増加
スキル リベンジR アクティブ
対象から受けた攻撃を次の攻撃に上乗せする
ランクにより効果増加
ジェノサイドフレアが放たれる前に、防御面を強化するスキルを2つ使用する。更に、魔王と同じリベンジのカウンタースキルも発動。
一度攻撃を凌いでから、勝負だ。
フォームチェンジの効果で "今回は" ゲートガーディアンの特徴とステータスに "俺の状態が変化" する。
ステータスは魔法耐性の増加。特徴も魔法耐性だ。巨大な盾を持つ、重厚な騎士のような姿へと変わっていた。
ここで魔王のスキル発動の準備が整った。対象を焼き尽くさんとする漆黒の炎がこちらに襲い掛かる。
俺はひるむことなく、巨大な盾を構えると、漆黒の炎が俺の体を包み込んだ。
「……流石は魔王様。HPが "10%も" 減ったぞ」
一撃で屠り去るつもりで放ったスキルで俺を倒せなかったことに、魔王は苦虫を噛み潰したような表情になると、更なるスキルの発動を試みる、が
「クッ! ならば――」
「悪いな、これで終わりだ! フォームチェンジ解除!」
再び魔王がスキルを発動させる前に、分かっていたと言わんばかりに転移で距離を一気に詰める。
フォームチェンジを解除すると、元の姿に戻った俺は、刀を鞘に納めると居合斬りの構え。鞘が光り輝いている。
「出し惜しみはなしだ! 解放……一閃=極=!!」
ユニークスキル 開放 パッシブ
魔力は強制的に開放され、開放された魔力は武器へと蓄積さ れる。代償に常時魔力を消費し続ける。
解放 アクティブ
武器に蓄積された全魔力を、次の攻撃と同時に解放する。
攻撃力増加極大。増加率は蓄積された魔法力に依存。
ユニークスキル 一閃 アクティブ
剣を鞘にしまった状態で使用可能。光速の剣技。
技の性質は練度に依存。
一閃=極= アクティブ
剣を鞘にしまった状態で使用可能。
全魔力を代償に放つ、高威力広範囲光速の剣技。
極めし剣技は、全てを断ち切る必殺の一撃。
解放された力の奔流は、鞘から抜かれた刀身にその力を移すと、威力を上乗せした一撃、一閃=極=が魔王の肉体を真っ二つに、文字通り一刀両断した。
「ぐあああああーーー!!」
魔王は断末魔をあげながら、存在を消滅させると、その場には、どこかで見たことのある人形が一つ置かれていた。
刀を鞘に納めると、地面に落ちた魔王フィギュアを拾いあげる。
ユニークアイテム 魔王様フィギュアSR 所有者〇〇
魔界の頂点たる魔王の人形。
一部のコレクターに絶大な人気がある。
これが特殊NPCである魔王を倒すと貰えるユニークアイテム。驚くことに、売れば最低でも1億ゴッドにはなる代物である。
そこは魔王、売却額も特別何だろう、ということにしておく。
魔王はあっさり倒したように見えたかもしれないが、普通に強敵だ。俺の場合、所持スキルの相性や戦闘スタイルでのかみ合わせが良かっただけの話。
一閃=極=によって、全魔力を消耗してしまっている俺は、少しふらつきながら、目を閉じるとスキルが発動した。
スキル 瞑想B パッシブ
目を閉じている間、体力と魔力を徐々に回復する。
ランクにより効果増加。
瞑想の効果によって、目を閉じている間は、体力と魔力が徐々に回復していく。ある程度動けるようになるまでは、このまま大人しくしておく。
ちょうど良いから、スキルについて説明しようか。
スキルにはアクティブとパッシという2種類がある。
簡単に言えば、アクティブは使用時に魔力が必要になるもの。パッシブは常時発動していて "基本的に" 魔力を必要としないもの。
基本的にというのは、例外もあるからだ。
特殊な効果があるようなスキルだと、説明文に "代償" と書かれていることがある。
特殊な効果の代償として、何かデメリットを背負う形になるのだ。
「俺の "開放" がそれだな。オンオフのような機能もないから、このスキルは所持しているだけで、今も魔力が消費されっぱなしだ」
そう言って鞘を見れば、開放によって魔力が開放され、武器へと蓄積されているらしく、鞘は淡く光っていた。
こういう特殊なスキル、DGOには世界で1人しか所有者のいない "ユニークスキル" というものがある。
ユニークスキルはガチャチケットからは入手できず、DGO内で何か "偉業" を成しえたり、特殊な条件をクリアした際に入手できることがある。
レア度で言えば "激レア" だ。何せ一点モノだから。
「そろそろ動ける程度には回復してきたな」
この辺りで、今回のD,G,O説明ツアーは終わりとしよう。
まだまだ色々な場所やNPCもたくさんいるが、大体どんな世界かが伝わっていれば幸いだ。
帰ろうと転移しようとすると、玉座が一瞬光った後、その場に魔王が復活したのだった。
「き、貴様ああああああ!!」
特殊NPCはある程度の時間経過で復活するが、魔王は特別復活が早い方だった。
魔王がドロップしたフィギュアのような特殊NPCのアイテムは、一度入手したプレイヤーだと1週間ほど時間が経過し
なければ再度ドロップすることはない。だから今もう一度魔王を倒してもあまり意味はない。
友好目的で勝負を挑むのはアリだが。
「あぁ、おかえり。いつもフィギュアありがとう。できれば、もう少しフィギュアの在庫を増やしてくれると助かるんだけどな。で、ギルド白夜への勧誘の件だけど……」
「断る!!!」
即答された。実は以前から魔王を白夜へと誘っていたりする。
魔王とは付き合いも長いし、個人的にこいつのことは嫌いじゃない。
決して魔族とプレイヤーの溝を埋める為だとか、そんなことはない。そんなことはないぞ。
NPCでも本人が望めば、ギルドメンバーに加えることが可能だ。これは特殊NPCも変わらない。
「そうか。気が変わったら言ってくれ。歓迎するから。じゃあ、また1週間後に」
「ふざけr――」
俺は白夜城へと転移した。
またまた少し長くなってしまいました。次の投稿は明日23日を予定してます。