2話
2021/6/13 内容を少し修正しました。
2年前。
自宅のPCで作業をしていた俺は、作業がひと段落すると伸びを入れた。
「ん~……ん? やけに外が騒がしいな」
集中していて気付かなったが、何やら外が騒がしかった。それでも、少し眠気を感じていた俺は、外の様子をそれ以上気にすることなく、仮眠を取ることにする。
ヘッドホンを耳につけると、ベッドで横になった。密閉型のヘッドホンは耳栓代わりとなって、外部の音を綺麗にシャットアウトする。
ほどなくして、意識は夢の中へと落ちていく。不思議と、この時に見た夢の内容は鮮明に覚えていた。
ここからはその時に見た夢の話になる。
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世界には突如 "神" が舞い降りていた。
この存在が神がどうかは定かではない。神が自己紹介をするわけもなく、問答が交されるようなこともなかったから。
神を実際に見たことがある者はいないだろう。神とは一般的に、宗教的存在、空想的な存在だから。それでも、何か強制的な力によって、人々はあれが神だということを認識させられていた。
町を行き交う人々は、その足を止めている。ポカンとした様子で、一様に空を見上げていた。
上空に、当然のように存在している月や太陽のように、地球上のどこにいても見えるほどの巨大さで、神は佇んでいた。
そして、神はおもむろに語り掛ける。
「……」
内容は、簡単に説明すれば意味不明であり、理解不能だった。
それが音であったのかすら認識できない。神の発した言葉は、この地球上には存在しない言葉だったから。
「…………」
誰にも伝わることのない言葉を、しばらく話し続けた神は、唐突にその姿を消した。
これだけの話であれば、ただの冗談のような話で終わっていたはずだったが、そうはならず。この日から "世界は変わった" 。
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誰しもが最初に気付いた変化。神が姿を消したのとほぼ同時に、各々の手元には、謎の "免許証サイズのカード" が。
夢から覚めた俺の手元にも、当然のようにこのカードが存在していた。
「おいおい、何だこれ……夢、じゃないよな?」
頬をつねると、普通に痛かった。どうやら夢ではなさそうだ。
となると、世間は軽いパニック状態だろうと、TVをつけてみる。案の定、緊急の特番が放送されていた。
画面に市街の様子が映し出される。映像を見る限り、町中はまさにパニックといった様子だった。そして、これからこのカードについて何やら説明がされるらしい。
「もう何か分かったっていうのか?」
そんな日本人の仕事の早さに関心しつつ、謎のカードについての説明が始まる。
カードの名称は "スキルカード" 。カードには順番に、カード所有者の氏名、所持スキル、所持ゴッド額なるものが順に記載されているとのこと。
自身のスキルカードを確認する。
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氏名 〇〇 〇〇 /スキル 運UR /G 100万
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確かに、氏名の部分には俺の名がはっきりと記載されていた。俺の所持スキルというのは、この "運UR" になるらしい。
まさかの非戦闘系スキルであった。
そんなことをのんきに考えていると、放送ではスキルの説明がされる中、実際に "着火F" というスキルを所持する男性が、緊張した面持ちで、手の平から自身のスキル "着火F" を発動させてみせた。
その火が、予想以上にしょぼいものであったのだ。
火力はライターと同程度だろうか。おそらく、この低火力は、着火Fというスキルのランクが低かったのが原因だろう。
どうやら当たりのようで、スキルにはランクがあり "F~A" といった順に効果が強くなるらしい。こういった情報は "鑑定A" というスキルを持つ関係者が調べたと説明された。
「鑑定Aか。Aってことは最高ランクじゃないか。すごいな……でも、そうなると」
説明ではスキルのランクはF~Aまで。
しかし、俺の持つ運のスキルには "UR" と記載されている。これは一体どういうことなのか?
「鑑定AだからAまでのランクしか調べられなかったってことか? URだから、普通に考えたら "ウルトラレア" なんだろうけど」
非戦闘系スキルだったとしても、希少なスキルであるならば幸いだ。まだ詳しいことは分からないが。
そして、このスキルというものは、どうやらランダムに与えられたわけではなく、自身の持つ "適正" が反映された結果になるようだった。
運というスキルを与えられた俺は、確かに、昔から運が良い方だという自覚はある。であれば、あの着火を持つアナウンサーは着火に適正があったということか……何それ怖い。
この突如現れたスキルという未知の力に驚いたであろう視聴者は、その後の "ゴッド額" の説明に、更に驚かされることになった。
"ゴッド額" とは、簡単に言うと、従来のお金と同じ扱いが出来る "電子マネーのようなモノ" らしい。
これは神によって "強制的に" 既に世の中で使えるものとなっていて、ゴッドは全ての売買に使え、日本でいえば1ゴッドが1円と同等の価値を持つことになるそうだ。
ここで、TVと同時にネットも確認すると、同番組を見ていた視聴者の書き込みだろうか、ゴッドについての詳細が書き込まれると、すぐさまネット上は大いに賑わうこととなった
「当然の反応だな。日本人なら、100万ゴッド=100万円をタダでもらったのと同じことだし」
盛り上がらないわけがない。
ここからも重要な話が。ゴッドでの支払いを拒否した場合、所持している財産が消滅するらしい。
「滅茶苦茶だな……本当に神が作ったシステムなら、財産を隠したりもまず出来ないだろうし」
消費者側にはあまり気にしなくて良い話かもしれないが、企業側にこれは大問題だろう。何せ信用できるか怪しい謎の通貨での支払いを、今後一切拒否できなくなったわけだからな。
このゴッドを優先して使わせる理由、目的や意図はさっぱり見えてこない。もしかしたら、意味などないのかもしれないが。
もう少し詳しい情報を集めたいところだけど、放送はここでスキルやゴッドの出現による、今後の経済や犯罪への影響について話が進んでいく。
「それを今話して何になるんだか……」
どうでもいい話をする放送をしばらく聞き流していると、画面に慌てた様子の女性アナウンサーが映し出される。手には何やらファイルを持っていた。これからスキルカードについての、更なる追加情報の説明がされるようだ。
女性アサウンサーは、慌てつつも追加情報の説明を始めた。
『ゴッドという新たな通貨のチャージ方法が判明致しました! その方法は……え? ゴホン、失礼しました。方法は、カ、カードから "ログイン" をした "異世界" でのみ可能。そして、ゴッドは "スキルガチャチケット" と交換可能……? これは一体どういうことなのでしょうか!?』
困惑しつつも、若干興奮した様子のアナウンサーの言葉を受け、聞きなれない単語に理解が追い付かない者は頭に?を浮かべたことだろう。
しかし、逆にこれを理解した猛者達は、盛大に歓喜した瞬間であり、当然のように俺もガッツポーズをとっていた。
3話は21日投稿予定です。