3 肉マシマシ
「ねえ、ママが電源落とさないなんておかしくないかな?」
「うん、変」
チビガキどもが騒いでいる。
さすがにおかしいよな、ギルドの時計を見ると既に15時を過ぎていた。
俺とチョビンは1人暮らしだからログアウト出来ないけど、チビガキどもは親が電源落とすよな。
いまだにゲームの運営からメールが来ない、そんなのトラブってんのかよ!!
腹は減ってるが食ってもゲーム内だしな、その上露店のマズかったし。
「なあ、外に出てどっかの店で食うか?」
「「「・・・・・・」」」
ですよねー。
しょうがないので俺はメニューからインベントリの中のワイルドボアを押し、肉と素材に分けた。
そして肉をインベントリから取り出しキッチンで切り分ける。
次に香辛料をふって、それからショウガとニンニク、醬油と蜂蜜を袋に入れて肉を揉み込む。
肉は置いといて、キャベツとタマネギ、ピーマンを取り出し適当に切る。
フライパンに火を付けて肉と野菜をそれぞれ焼く。
皿にそれぞれ4人分盛ってテーブルに持って来た。
俺は自分の皿にマヨネーズを全体にかけて食べ始めた。
うん、俺流の生姜焼きだ、美味い。
ご飯を炊いとけばよかった、みそ汁もな。
何故か3人は食べずに俺を見ている。
「食えば、所詮VRだけど」
3人はおずおずと箸に手を付けている。
「美味い、ハゲマスの癖に・・」
「・・・」
「ハゲルドさん、料理するんですね、美味しいです」
「そりゃー長い間、1人暮らしだからな」
俺は美味しそうに食べてるみんなを見て喜んだ。
「ハゲマスはいい奥さんになる」
「おい、ミナオ、俺は男だ」
「・・・」
無視かい。
「白飯とみそ汁が欲しい」
「なら誰か作れよ、材料はあるぞ」
「「「・・・」」」
「お前ら作れないんかい」
3人とも視線を逸らす。
ある意味「ハゲ頭の脳筋」のメンバーだな。
食べ終わって俺はいつものようにコーヒーを淹れる。
どうせチビガキどもはやらないから人数分淹れる。
チョビンは自分で淹れるだろう。
俺はメニューを開いて確認する。
ギルドメンバーは相変わらずログイン状態だが、メールも連絡もない。
3人にはメールを送ってあるのに。
心配だな。
俺達は狩りに出る気もないが、ギルドスベースにいても暇なので外に出た。
朝と変わらずNPCが歩いている。
知り合いの鍛冶ギルドはプレイヤーなので行ってみる事にした。
「なあハゲマス、この状態だと相手わからんと違うか?」
「そうだな、アバターが消えてるんだっけ」
「そうそう、あたしらネナベにバレちゃうやん」
「だから、エセ関西弁やめろよ、マナトス」
「そうでっかー」
あームカつく。
「なら君らはギルドスベースに戻るか?特にチョビンは」
「そうですね、・・・一応マントを被ります」
チョビンは有名人だもんな、3年前まではお天気キャスター出てたしな。
「・・・高階さん、有名人?」
「あ、君ら外で本名で呼ぶなよ」
俺はチビガキどもを見る。
「そやな、わかったわ」
「・・・・・・」
ヘラヘラ笑う美少女、俺は殴りたいのを諦めた。
黙って鍛冶ギルドに向かう事にした。
知り合いの鍛冶ギルドに入ると、知ってるプレイヤーはいなかった。
というか、全員NPCだった。
プレイヤーの鍛冶ギルドにNPCがいるのがおかしい。
俺はみんなに待つ様に伝え、NPCのオッサンに聞いた。
「ちょっと聞いていいか」
オッサンは俺をジロジロ見ながら。
「なんかようか?」
と答える。
「ここの鍛冶屋は「飛び兎のシャーロット」だよな」
「そうだが」
「そこの店長はシルメスさんだよな」
「確かに俺だが」
俺は愕然とした、店長は 美人な女性 だったはずだ。
「あんたプレイヤーなのか」
「あ?何言ってんだ、プレイヤーってなんだ」
そうだよな、NPCだよな。
「悪い、忘れてくれ」
俺はフラフラと歩きながらメンバーのところに行った。
「店から出るぞ」
みんなを連れてすぐに外に出た。
歩きながらさっきの話を伝える。
「ハゲルドさん、私の知り合いのギルドに行きましょう」
チョビンがその事を聞いて、答えるが。
「チョビンはバレてもいい知り合いか?」
「あっ・・・」
やはりダメか。
「んじゃ、あたしが行くわ」
「マナトスは大丈夫か?」
「うん、あっちもネナベだし」
多いのかネナベって。
「じゃあ、頼むわ」
マナトスはスタスタと歩いて、一軒の花屋に入って行った。
しばらく経つと出て来たが、不思議そうな顔をしている。
「さっき聞いた内容と一緒、知り合いの名前とNPCが合っている。それにプレイヤーは1人もいなかったよ」
俺達は呆然とした、何が起こっているのかわからなかった。
「冒険者ギルドに行くか、そこには必ず運営関係のバイトとかいるはずだ」
「言われてみればそうですね」
みんな頷いている。
「いや、プレイヤーが騒いでいると面倒だから行かなかったんだ」
システムトラブル以外も騒ぐプレイヤーはいるからなるべく行きたくないんだよね。
そのバイトも深夜は疲れてるし、あまり対応しないしな。
俺達は冒険者ギルドに行くことにした。
冒険者ギルドに入ってみると、騒いでいなかった。
プレイヤーもバイトもいない。
いるのはNPCのみだった。
「ハゲマス、NPCじゃない」
ミナオが俺の裾を引っ張る。
「うん?プレイヤーは青だろ、そこにいるのは緑じゃないか」
「違う、NPCは黄緑、1ヵ月前に変わった」
見るとみんな頷いている。
「それって2月末に3日間システム改修した時?」
「そう、ハゲマスはギルドスペースと狩り以外はあまり見ない」
確かにそうだが、しかし毎回メニューで確認しないぞ。
「ハゲマスはギルドマスターなんだから見とかないと」
うっ。
「す、すいませんでした」
ミナオの突っ込みで心が痛い。
「そうすると、あの緑は?」
「それはわからない」
あれ?マナトスは?
マナトスは知らんぷりしている。
「マナトス、さっきの花屋NPCって言ったよな、あっちは黄緑だったのか」
「・・・・・・・」
「おい」
「あはははは、あたしもハゲマスと一緒かな」
俺は冒険者ギルドを出て、外でメニューを押す。
外にいる人は全員緑、プレイヤーは1人もおらず、NPCでもない。
振り返ってみんなを見ると、同じ様に確認していた。
ここは「アースフロンティア」というVRMMORPGではないのかもしれない。
では何なのか?
メニューを使えて、職種もある、スキルもある。
自分達のギルドスペースも使える。
ダメだ、わからない。
「ギルドスペースに戻ろう」
みんな答えはない。
しかし付いてくる。
しかし。
・・・
・・・
・・・
どうしよう?
俺達は黙ってギルドスペースで座っていた。
誰も喋らない。
時計を見ると、深夜3時を超えていた。
通常のシステムトラブルが24時間を超えていた。
しかしシステムダウンからの強制解除がされてなかった。
「これはもうゲームじゃないのかもしれない」
俺は呟いた。
「ハゲマスー、最近さー「異世界に転移~」とか小説やアニメが有名だよね」
マナトスが俺を見ながら笑ってる。
「お前、余裕あるな」
「ないよー、でもどうしようもないしー」
「そうだな」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
再び誰も話さない。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
ピーピーピーピー
みんなのメニューからピー音が出た。
急いでメニューを開いた、もしかして運営からのメールか。
開いて見ると、ギルドメンバーである「肉マシマシ」が黒くなっており、名前の脇に「死亡(自殺)」となっていた。
彼は強制解除でのログアウトが出来なく、死ねばログアウト出来ると思ったのか。
俺もその事は考えていた、通常モンスターに負けて死んだらデスペナルティ付きで復活するからな。
しかし、その前にメールや連絡してくれよ。
メニューを見ながら俺の頬に涙が落ちて来た。
多分俺は泣いているんだろう。
誰かが大きな声で泣いている。
俺達はそのまま暫く泣いていた。
何しろ他に出来る事もないからだ。