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最後の練習

その日アタシは2回目の指揮を担当することになった。

曲の復習もしたし、アタシなりにイメージはできてるつもりだ。

みんなが集まるよりも早く、アタシはホールに到着した。

今日は絶対に成功させる。

続々とオケのメンバーが集まってくる。

アタシはホールの入り口に立って、みんなに挨拶をしていく。


「おざっす!今日はよろしくお願いしまっす!」


「頑張ってね!」


「頑張れよ!」


結構やさしい声をかけてくれるエルフが多い気がした。

少しはやる気が認められたってことか……


オケが各自で音を合わせていく。

そして、頃合いを見計らってアタシは台の上に立った。

前よりはるかに緊張している。

足がガクガク震えやがる……

くそ、頑張れ!


「前回はすいませんでした…… 今日は、頑張ります!」


みんながこっちを見ている。

まずは……


「オーボエの方、適当な音、出してもらえます?」


確か最初はチューニングだ。

ノダメはオーボエを基準に、他の楽器の音を合わせていた。

まあ、どの音で、とかはアタシには分からないから、プロの方々に任せるとしよう。


「じゃあ、課題曲のベントーベン、悲剣。おねがいしゃっす!」


アタシはタクトを振りかざした。


旋律がスタートする。


最初は悲し気なフルートの旋律からだ。

ここはしょっぱな、突っ込みすぎないで後のヴァイオリンが来るまで待つ。

ここまではいい。

このフルートはアタシが孤児院にいた時の心情だ。

アタシの思い描く光景はこうだ。


アタシは孤児院にいる。

友達もできず、窓から他の人たちの楽し気な姿を覗く。

うらやましくなって、その輪に入りたいけど勇気がでない。


ここでフルートの旋律が変わる。


そんな日が続いたある時、アタシは都会に繰り出そうと思い、切符を買って街に出ようとした。

そこにいけば、何かが見つかるかもしれない。

アタシを誰かが見つけ出してくれるに違いない。

しかし、抜け出そうとしたら孤児院のやつらにバレて捕まってしまう。


アタシはみんなが寝静まった夜中に孤児院を抜け出し、体一つで街に出た。

そこで見たのは、さらなる孤独だ。

幸せそうな家族連れや、楽しそうな人たち。

だけど、アタシと関わってくれる人はいない。

そんな人を見るたびに心が荒んでいく。

結局、一人だった。


アタシは無意識にオケに指示を出していた。


「オーボエ!音程下げて!」


「ビオラ!テンポ遅れてる!」


汗だくだ。

どれくらいたった?

立っているのがやっとだった。

そして……





「はっ!」


アタシはベッドの上で目が覚めた。

横にはノダメがいた。


「目が覚めましたか?」


「ぶっ倒れたのか……」


そうだ、最後の方はほんとに汗だくで、周りの景色さえ見えてなかった。

完全に入り込んでいた。


「見事でしたよ。ベントーベンの孤独を見事に表現できていた。惜しかったですね」


もうちょっとだった。

もうちょっとで、最後の一瞬を迎えることができたんだ!


「くそっ」


アタシは拳を膝の上に打ち付けた。

野菜ばっか食べてたから体力が落ちてたのか?

もっと肉を食わねーと……


「ノダメ、一旦元の世界に帰っていいか?曲のイメージは出来上がってんだ。あとは最後まで指揮を振る体力だろ?必要なのは」


「どうするつもりですか?」


「肉を食って、走り込みをしてくる。音楽祭まではあとどれくらいいあるんだ?」


ノダメが言うには、あと10日後とのことだった。

余裕じゃねーか。

後は何回か練習すれば、本番を迎えられるはずだ。


「分かった!3日前には戻ってくっから、ちょっと待っててくれ」





アタシは元の世界に戻り、早速焼き肉屋に向かった。

久しぶりの肉に、アタシはありえない量の肉を注文し、一人で平らげた。


「くあーっ、うめえええっ」


しめに抹茶アイスとラーメンを食べ、アパートに帰って寝た。

そんな生活が一週間も続いてしまい、もう十分かとエルフの世界に戻ることにした。

が、想定外のことが起きた。


栄琉不神社に到着し、体を突っ込んだが、どんだけあがいても体が入って行かないのである。


「う、嘘だろ……」


太りすぎたのか……

や、やべえ……


頭だけエルフの世界で、抜け出そうとあがいているとオケの一人がたまたま通りがかった。

あれは確かオーボエの……


「ラッシー!こっちだ!」


「うえっ、ファング何してんの?」


アタシはラッシーにノダメを呼んできてもらうよう頼んだ。

それから20分後。


「……これは」


「ノダメ!まずいことになった!」


事情を説明すると、ノダメは一つため息をついて、アタシに他の方法があることを教えてくれた。


満月の夜に、街の公園にある池に飛び込めば、こちらの世界に来れるらしい。

池に月が映し出され、そこがエルフの世界への入り口になると。

しかし、絶対にこちらの世界でその入り口を見つかってはならないとクギを刺された。

もしその出入り口が見つかれば、エルフだけでなく、魔族を人間世界に連れてきてしまう問題があるとのことだった。


分かったと返事をし、アタシはその日まで待つことにした。

満月の夜。

それは、音楽祭の当日であった。


マナー講習編は蛇足になるのでカットします。


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