曲の意味
そこからアタシの態度は変わった。
指揮の練習だけでなく、寮の掃除とか雑用もこなすようになった。
ノダメにいいように使われてるんじゃねーか? と疑う時もあったが、それでも元の世界に帰るよりマシだ。
朝はノダメの指揮の見学、終わってからは食堂で皿洗い、それが終わったら部屋で課題曲のCDの聞き込み。
こんなのめり込んだのはギターをやり始めた時以来かも知れねー。
次第に曲の意味が分かるような気がしてきた。
よくよく聞くと、悲しい感じの旋律が多い。
そして終盤に行くにつれて、増幅される負のメロディー。
この曲が言いたいのって……
アタシはチアキの所に向かった。
「チアキ!いるか?」
部屋の前に来て扉をノックする。
すると、チアキが扉の隙間から顔を出した。
「こんな遅くに、何かよう?」
「ちょっと聞きてーことがあんだよ」
アタシは部屋に押し入ってCDをかけた。
メロディーがスタートする。
「ベントーヴェン、悲剣……か」
「なあ、チアキ。この曲ってどういう曲か分かるか?」
「エルフ界の大作曲家、ベントーヴェンが最後に発表した曲だね。この曲は孤独、そして絶望を表す」
「……!」
やっぱりか……
何か懐かしいような、そんな気がした。
アタシが孤児院にいた時の心ん中の気持ちに似ていやがると思った。
「ベントーヴェンの初期は明るい曲もあったんだが、中期以降は物悲しい曲が増えた。それは、ベントーヴェンが離婚し、孤独になったのが原因とされている。そして、この曲を書いた直後に自殺した」
アタシにも分かる。
一人でいると押しつぶされそうになんだ。
この作曲家は、そんなうさを曲を書いて晴らしてたに違いない。
アタシがギターで作曲してたのと同じみたいに……
そして、年をとっていよいよ希望が見つからなくなったんだ。
闇の中に取り残されたんだ。
「ファング? どうしたの?」
「はっ!」
やべ、浸っちまってた。
「ああ、わりいわりい。ありがとよ!」
アタシが部屋から出てこうとすると、チアキが引き止めてきた。
「ファング、ちょっと提案があるんだけど」
「ん?」
「今度、マナー講習を受けないか? 僕はどうも君の言葉使いが苦手で…… 他のエルフも同じことを思ってるんじゃないかな」
「が、ガサツで悪かったなっ! アタシはこういう性格なんだよっ!」
しかし、翌日ノダメからも、指揮をとる者として最低限のマナーや言葉使いは知っておいた方がいいと、無理矢理マナー講座を受けることになってしまった。