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戸籍変更

アタシたち二人は、市役所に向かった。


「あれが市役所です」


ノダメが指さしたのは、レンガ造りの格式高そうな建物だ。

中に入ると、正面に長いカウンターがあり、窓口も何個かある。


「身分証を用意しておいてください。それを提出しなければ戸籍を変更できませんので」


「身分証……原付の免許か、マイナンバーだな」


「原付の免許よりは、マイナンバーの方がよろしいでしょう」


そう言われ、財布からマイナンバーのカードを取り出し、ノダメに渡した。

ノダメは受付で用紙を受け取り、何やら項目を記入し始めた。


「何書いてんだ?」


「見てはだめです」


さっと用紙を隠される。

何だよ、隠すことねーだろ。

さては借金の連帯保証人にするつもりじゃ……

と、アタシが勘ぐり始めたところで、突然ノダメに質問された。


「ところで、ファングとケルベロスだったら、どちらが好みですかな?」


ファングとケルベロス?

どっちもかわいくねえけど、あえて選ぶならファングか?


「一体何の項目だよ。とりあえず、ファングにしとくけど」


「変更はできませんよ」


そう言って、また項目の記入に戻った。


しばらくすると、記入が終わったらしく、拇印を求められた。

朱肉を親指につけ、同意します、と書かれたところに押す。

押しちまったけど、大丈夫だろうな?

ノダメはその書類を提出し、新しい身分証を発行するために、しばらく待つこととなった。


10分ほど待っていると、もらった控えの番号を読み上げる声がしたので、再び受付に向かう。


「身分証の確認をお願いします」


そう言われ、受け取る。

それを見てアタシは叫んだ。


「っておい!なんかいろいろおかしくねえ!?」


アタシの種族がエルフになっている。

そして、な、名前が……


「何でアタシの名前がファングになってんだよ!」


「倉闇牙、では覚えにくいでしょうから、変更させてもらいました。種族の方もこちらの方がいろいろと都合がいいので、これからはエルフ、ということで宜しくお願いします」


「て、てめえ……」


アタシはフルフルと拳を震わした。

しかし、エルフのコンサートに参加する以上、人間のままでは都合が悪いのか。

仕方なく受け入れることにした。


「帰る時、絶対もとに戻せよな!」


てか危うくケルベロスって名前にされるとこだったのかよ……

そこまで獰猛じゃねえぞ。






市役所を出て、オーケストラの楽団に向かう前に腹ごしらえをすることにした。

通り沿いの、適当なレストランに入る。


「2名様ですね、ではこちらへ」


ウェイトレスに通され、丸テーブルに向かい合って座る。


「ノダメのおごりでいいんだよな?金持ってないし」


「好きなものを選んでください、と言っても、こちらの言葉は分からないでしょう。私がメニューを読み上げていきましょう」


「おお、頼むわ」


そう言って、ノダメはメニューを読み上げていった。


「旬の野菜サラダ、フルーツとサラダの盛り合わせ、じゃがいものサラダ、玉ねぎのサラダ、スープ」


……は?


「おいおい、サラダしか言ってないじゃんか。肉はないのかよ」


「エルフはサラダしか食べませんので」


アタシは固まってしまった。

はっきり言って、エルフの世界の料理を少し楽しみにしていたのだ。

それが、サラダだけ?

最悪だ……

どうりで太ってるやつがいないわけだわ。


アタシは仕方なく玉ねぎのサラダを頼んだ。


「こちらが、玉ねぎのサラダです」


パリパリ玉ねぎをほおばる。

あー、ラーメン食べてー。


「どうですかな?」


「……まあ、まずくはねえよ」


玉ねぎは甘いし、確かにまずくはない。

しかし、菜食主義だなんて、ますますエルフってやつらは温厚そうで争いを好みそうにない。

アタシは一つの疑問を口にした。


「ところでさ、よくエルフは魔族ってやつらに滅ぼされなかったな。戦争してたんだろ?魔族なんていかにも強そうじゃねえか」


「もちろん、我々にも戦うすべはあります。楽器を用いて戦うのです」


「楽器?そんなんで勝てるのか?」


「エルフは楽器を用いて、イメージを具現化させて戦います。戦争では魔族もこちらもお互いが消耗したため、和平を結ぶ運びになりました。音楽祭は、ただの祝い事ではありません。エルフにも戦うすべがあるぞ、ということを暗に示してもいるのです」


しかし、やはり和平を壊したくはないらしい。

だから、今回人間の世界にまで足を運んで、アタシを呼んで来たってわけだ。


「それでも、最近は事情が少し変わってきているようですがね。では、サラダも食べ終わったことですし、そろそろ楽団に向かいましょう」


そう言って、会計を済ませて、アタシたちはレストランを出た。

最後の言葉は何か深い意味があったんだろうか……

だがそんな言葉もすぐに忘れた。


アタシたちは楽団に向かった。



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