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最終楽章 後編

アタシは舞台の上に立ち、一度お辞儀をした。


何でこんな状況に自分がいるのか、全くわけが分からない。

最初はノダメにギターをやってほしいって言われただけだった。

それが、自分とは縁のなさそうなオーケストラの舞台の上で、しかも指揮をやることになるなんて……

どっかで話がおかしくなってる。

オーケストラも、指揮者も、アタシとは絶対関わることのない高級なもんだったはずだ。


そして極めつけはエルフの世界だ。

これまたアタシが踏み入れちゃいけないような世界だった。


ただ、ここに来て後悔しているかと言うと、違う。

アタシは今までの生活に退屈していた。

自作の曲は誰からも相手にされなかったし、どこかで行き詰ってやめちまうのも時間の問題だった。


仕事にやりがいを見つけるわけでもなかったし、自分から何か変えられるきっかけも掴めないでいた。

毎日感じるのは焦燥感ばかりだ。

いつも、何か変えないとと焦っていた。

多分、このまま行ってたら人生に行き詰ってた。


この状況は、半分は偶然だけど、半分は自分が望んで手に入れたものだ。

途中で投げ出さないで、踏ん張ってここまで来た。

一生懸命神様の顔色伺って、ここまで来たんだ。


だけど、もしこれが成功したとして、次はうまく行くのか?

元の世界に帰って、ここで得たことを生かして、今度こそちゃんとした人生を送れるのか?


……答えはでない。

これから先の未来のことは、今のアタシにはどうすることもできない。

この状況ですら、絶対に想像することはできなかった。

先のことなんて、神のみぞ知るだ。


アタシの選択肢は、神様が与えた試練を「やる」か「やらないか」のどちらかしかない。

もちろん、答えは一つ。

最善を尽くすだけだ。

もしこれで戦争になっても、アタシは最善は尽くしたと答えられる。

結果は分からない。

結果を選ぶのは神様だから……


アタシはオケの方に向き直り腕を掲げ、振り下ろした。


演奏がスタートする。

フルートが物悲しい旋律をたどっていき、一人の男の姿が映しだされた。

このモデルは恐らくベントーベンだ。

彼の晩年の孤独が、まるで映画のように流れる。

ひたすら曲を自作し、孤独を紛らわすも、とうとう耐え切れなくなり街に繰り出そうとする。

しかし、体が弱っていた彼は、召使たちに取り押さえられてしまう。


「外に出たら病状が悪化します!」


彼の胸の内を知らない召使たちが寝静まった夜中に、彼は一人街に繰り出した。

しかし、そこで見たのは楽し気な家族や、幸せそうなエルフたち。

孤独なのは自分だけと勘違いし、家に戻って行った。


この人もかわいそうだ。

何かきっかけさえあったら変わっていたんだ。

心境の変化があったってことは、変われたんだ。


曲は無常にも、最悪の結末へと導かれていく。

とうとう病で体が動かなくなった男は、寝たきりの生活になった。

自分に残された体力では、あと一曲を書くのが限界だ。

自分の孤独と絶望を残すため、男は家の召使を皆殺しにする。

そして、最後に曲を書き終えると、自らも命を絶った……


「……」


全ての演奏が終わった。

ぶっ倒れなかった……

アタシは、やり切ったんだ。

後は、魔族がこの演奏をどう評価するかだ。


その時、


「う、うわあああああああああっ」


魔族の悲鳴が背後から聞こえ、振り返った。

そこには、魔法で作られたと思われる巨大な剣があった。

その剣は、魔族目がけて振り払われた。


会場にいたすべての魔族が消滅した。


「なっ……」


突然の展開に、息を飲む。

すると、目の前にノダメが現れた。


「やりましたね、ファング」


「ノダメ、どういうことだ……」


ノダメは全てを話した。

この曲の中には、魔族を消滅させる闇魔法の旋律が仕込まれていたこと。

闇魔法ゆえ、指揮者は闇を持つ者でなければ、剣は具現化できても、扱うことができない。剣はアタシの死のイメージを受けて、攻撃を行った。



「だからアタシを指揮者に……」


「ええ、しかし、もう一つ理由があります」


ブオン……


目の前に人が入れるくらいの穴が出現した。


「この魔法の対価として、魔王にその使用者をいけにえに捧げなければいけません」


なるほどな。

アタシは全ての条件を満たしていたんだ。

女であり、心に闇を持っている。


「はなっからこうなることを望んでたのか」


「……申訳ありません」


ちっ、ほんとに、結果なんて神のみぞ知るだな。

アタシが穴に入ろうとした時、ノダメが最後に忠告をくれた。


「月の扉、あれは3つの世界とリンクしています。人間、エルフ、魔族。人間の世界から入ればエルフの世界に、エルフの世界から入れば、魔族の世界、そして、魔族の世界から入れば、人間の世界に」


「……!」


「また、会いましょう。 ファング」


なるほど、魔族の世界から、うまくいけば人間の世界に行けるのか。

だったら考えるまでもねえ!

絶対に帰って来てやる!


アタシは魔族の世界へと、旅だった。


終わり





終わりましたー


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