『エピローグ』
俺が鎖姫になってから、数年の月日が経った。でも、俺の姿と同様に、周りはあの頃と一切変わらない。
「お兄さんお一人ですか~?」
駅前で腕時計をチラ見しながら人を待っていると、可愛らしい少女に声をかけられた。
「桟、どうしてここに?」
「お姉ちゃんに聞いたの。ヨウが鞠さんとデートするって」
あははと苦笑し、つい落胆してしまう。俺はデートのつもりでも、鞠にとってはただの買い物だ。
「……デートじゃないなら私もついていっちゃおうかな~っ」
ピッタリとくっつかれると胸が当たり、もう追い付かれたんだなとしみじみ思う。ついつい異性として意識してしまうが、そんなこと口に出せるわけもない。
「ねえヨウ」
「ん?」
耳元でポソリと囁かれた言葉に、俺は驚愕した。
「なんでそんなこと」
桟は一歩前に踏み出し、くるりと振り向く。俺と出会った頃のように、純粋で素直な瞳を輝かせていた。
「あたしは、ヨウとの絆の証を残しておきたい。ただそれだけなの」
タイミング悪く、俺らの前をレンとマチ兄が通り、足を止める。
「あれ?ヨウ、どうしたの?」
瞬時に状況を理解し、額に汗を流す二人。
「何やってるのよ、今面白いところだったじゃないの!ねぇ、雲月ちゃん!」
「ちょ、栞っ!?」
辛抱切らして草むらから飛び出してきたのは、こっそり覗き見していた造と晴河先輩だった。
「おーい、レンお待たせ~」
シュウが走ってきたと思えば、ストーカーのように吹雪が後を追ってきていた。
「王子に下僕、それに晴河までいるとは、偶然なのです」
晴河って呼ぶあたり、二人の距離は近付いてるようだ。まあ、揃い踏みなのは好都合だな。
「聴こえていましたよ、みんなに報告することがあるんですね?」
最後の役者が到着した。優柔不断で不誠実な結論だと、なんとなく否定していた。けれど、ギリギリで踏ん張っていたというのに、ポンと背中を押されてしまう。
「人生は長いのですから、私はそれも良いと思います」
「鞠……」
鞠は俺が告白したことに気付かない。でも、俺はそのおかげで吹っ切れて、前に踏み出すことが出来る。
俺はみんなの視線が集まる中、縁を結んでくれた仲間たちに感謝しながら、ゆっくりと告げる。
「……俺、結婚するよ」