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命の鎖  作者: 雨偽ゆら
始まり
1/38

『プロローグ』

 ――僕には、秘密にしていることがある。


 普通なら見えないはずの命や寿命が鎖として見え、それを切る能力を持っているのだ。

 人なんて簡単に命を滅ぼせるのだから、怖くなんてなかった。

 今だって僕にたかろうとするヤツらを、虫が相手のように意図も簡単に殺した。

 愛用の銀に光る鋏を手に、体と魂を結び付ける鎖を断ち切ったのだ。

 鎖が切られた者は全身から真っ赤な血を噴き出した。死ぬのを拒否するかのように、切れた鎖を離さない。

 すでに人間は動くことのない屍となり、赤黒く地面を染めていく。まるで絨毯のようだ。

 そんな屍の絨毯にて、ボーッと立っている女性がいた。


 ――何故、あの女だけ生きている?


 不審に思い、女性から目をはなさないように気をつける。

 よく見ると、闇のように黒く長い髪の陰から、不気味な紅い瞳がこっちを見ていた。


 びちゃ……ばちゃっ……


 歩くたびに水の音が響く絨毯を踏みつけ、僕に近づいてくる。

 原形を留めていた頭が、女性の重みに耐えられず――ぐちゅ……と鈍い音を立てて潰れた。

 女は僕の前に落ちている死体にのし掛かると足を止めた。


「ねぇ……」


 しゃがみこみ、人形のように動かない人間の髪を優しく撫でる。


「これ、貴方がやったんでしょう?」


 女性にしては低めな声。僕は黙ったまま動けずにいた。

 女性はカッターナイフを取り出して、屍の皮膚を剥がし始めた。

 肉や血管が露になる。その無惨な姿は、見ているだけで吐き気がするほど酷い。

 初めての恐怖に心がざわめき、同時に体が震えだす。


「答えて」


 その凛とした声に自然と背筋が伸びた。姿勢を正したまま視線を女性の瞳に合わせる。


「僕、が……やった……」

「ふぅん……」


 冷ややかな視線を浴びながら、鋏を強く握った。


 ――鎖は右肩か……。


 いつでも動けるよう、足に力を入れて構える。

 そんなことに気づかない女性はニヤッと嫌な笑みを浮かべた。


「貴方にお願いがあるの」

「お願い……?」


 会ったばかりの人間に頼み事をするなんて、命乞いしたヤツ以外は初めてだ。


「聞いてくれる?」


 本能が否定すべきだと叫んでいる。だが、ここで退くわけにもいかない。

 様子を見て切断するだけ……簡単なはずだ。

 勇気を振り絞り、返事を返す。


「内容しだいかな」


 どうせくだらない事だろうと決定付け、愛想笑いをした。


「貴方ならできることだから、安心なさい」

「僕にできること?」


「私のために――」


 次の瞬間、耳を疑った。思ってもいなかった言葉に目を丸くして、驚愕した。




「人を殺して」

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