『プロローグ』
――僕には、秘密にしていることがある。
普通なら見えないはずの命や寿命が鎖として見え、それを切る能力を持っているのだ。
人なんて簡単に命を滅ぼせるのだから、怖くなんてなかった。
今だって僕にたかろうとするヤツらを、虫が相手のように意図も簡単に殺した。
愛用の銀に光る鋏を手に、体と魂を結び付ける鎖を断ち切ったのだ。
鎖が切られた者は全身から真っ赤な血を噴き出した。死ぬのを拒否するかのように、切れた鎖を離さない。
すでに人間は動くことのない屍となり、赤黒く地面を染めていく。まるで絨毯のようだ。
そんな屍の絨毯にて、ボーッと立っている女性がいた。
――何故、あの女だけ生きている?
不審に思い、女性から目をはなさないように気をつける。
よく見ると、闇のように黒く長い髪の陰から、不気味な紅い瞳がこっちを見ていた。
びちゃ……ばちゃっ……
歩くたびに水の音が響く絨毯を踏みつけ、僕に近づいてくる。
原形を留めていた頭が、女性の重みに耐えられず――ぐちゅ……と鈍い音を立てて潰れた。
女は僕の前に落ちている死体にのし掛かると足を止めた。
「ねぇ……」
しゃがみこみ、人形のように動かない人間の髪を優しく撫でる。
「これ、貴方がやったんでしょう?」
女性にしては低めな声。僕は黙ったまま動けずにいた。
女性はカッターナイフを取り出して、屍の皮膚を剥がし始めた。
肉や血管が露になる。その無惨な姿は、見ているだけで吐き気がするほど酷い。
初めての恐怖に心がざわめき、同時に体が震えだす。
「答えて」
その凛とした声に自然と背筋が伸びた。姿勢を正したまま視線を女性の瞳に合わせる。
「僕、が……やった……」
「ふぅん……」
冷ややかな視線を浴びながら、鋏を強く握った。
――鎖は右肩か……。
いつでも動けるよう、足に力を入れて構える。
そんなことに気づかない女性はニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
「貴方にお願いがあるの」
「お願い……?」
会ったばかりの人間に頼み事をするなんて、命乞いしたヤツ以外は初めてだ。
「聞いてくれる?」
本能が否定すべきだと叫んでいる。だが、ここで退くわけにもいかない。
様子を見て切断するだけ……簡単なはずだ。
勇気を振り絞り、返事を返す。
「内容しだいかな」
どうせくだらない事だろうと決定付け、愛想笑いをした。
「貴方ならできることだから、安心なさい」
「僕にできること?」
「私のために――」
次の瞬間、耳を疑った。思ってもいなかった言葉に目を丸くして、驚愕した。
「人を殺して」