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九十二話

「それがお前の本当の剣だと?笑わせるな!お前のそれはハッタリだ!現にお前のそれは何一つ変わっていないではないか!」


ゼウスの言う通り、その剣自体はなんの変化もしてはいない。

メイガスにも、その変化した様子もない。

だが、その態度は余裕綽々とそう言いたげだ。


「トリックスターもここまでくればただのピエロだな。一人で寂しく劇を踊るか」


「ハッタリかどうか見てみるかい?あたしの能力を」


「見ずとも知っている」


二度目ということは、当然相手は手の内を知っているし対策もある程度出来上がっていることだろう。

メイガスの能力は知られているということは大きなハンデとなる。

分からないからこそ、幻惑し自分のペースへもっていくことができるのだから。


「それは本当に(・・・)合ってるのかい?あのとき能力を明かしたつもりは一切ないよ」


このときゼウスは迷った。ブラフか、それとも本当のことを言ってるのか。或いは、この会話こそがやつの話術でまんまと迷うように嵌められたのではないか、と。

違っていた場合、ゼウスの手札はすべて最弱のエースになるが、もし本当にブラフならば圧倒的に強い二枚のキングとクイーンを所持するこちらの圧倒的有利。

この揺さぶりには切りジョーカーが存在しない。

故に乗るか反るかの二択しかない。


(やつの能力は昔一度見ているそれで間違いない。そしてやつの能力には効果範囲が存在する間違いない)


悩んだ末、ゼウスはブラフであるほうを選択した。

だからこそそのまま突撃する。

その全距離攻撃の剣を以て。


「死ねメイガス!嘘とハッタリだけで勝てるほど甘くは...」


「あんたの選択は不正解だ。大人しく下がっていれば斬られずに済んだものを」


ゼウスの体に、いつのまにかバツ印になるように刀傷が刻まれていた。

痛みはなかった。しかし、流れる血は本物だ。


「馬鹿...な...このわたしの体はすべての聖剣を撥ね返す鎧のはず...」


「私の言葉を思い出してみるといい」


頭によぎるのは数分前のこと。


「私が絶対だ。アブソリュートの真の能力は自分の思う通りに事象を捻じ曲げる。真の力を解放したアブソリュートに効果範囲なんて小さいものはない。あたしの理解が及ぶ範囲すべてが効果範囲だ」


つまり、いまメイガスは二つの事象の改変を行った。

一つはゼウスの体の効果をなくすこと、もう一つはゼウスの体にキズが最初からあったようにしたこと。

そうすることで、気づかないうちに傷を負わせることができたのだ。


「ただしこの能力にはリスクが存在する。

寿命で死ぬことはできず、そして二度目の解放であたしの命は燃え尽きる」


「まさか...本当の命がけとはな...私の...負けだ」


ゼウスはゆっくりと傷口から体を滑らせて、そこにバラバラになって落ちる。

ほどなくして、元の剣の姿に戻る。


「黄泉路はともに行こうか...」


メイガスもゆっくりと沈むように倒れこむ。

口からはたらりと血が一筋流れ出していた。


「先生ぇ!!!」


剣獅たちも急いで駆け寄る。

それぞれに蘇生を試みるが、やはりもう手遅れ助かる見込みはない。


「ありがとう...長すぎた人生にもついに終わりがきたようだ。できることなら君たちの卒業と、君たちの子供たちが入学してくるまでを見ていたかった...」


「なんで...そこまで」


「教師が教え子を守って死ぬことに理由はないんだよ剣獅くん...むしろそれは名誉なことだ。

失敗ばかりしてきた人生だった。けど、それでもやっと失敗を帳消しにするなにかができたのかもしれない」


いつの間にか周りには生徒たちが取り囲むように集まってきていた。

避難していた生徒たちだろう。

教師たちもいっしょになって人の円をを描いていた。


「死に際には人の人生が映る。これだけの人に...囲まれて...いける幸せを...かみしめていける喜びに...感謝するよ」


静かにその瞼が閉じかかったときだった。


「なにかこっちにくる!」


誰かが突然上を見上げて叫んだ。

ものすごい速度で降下する物体が、空から確かにこちらに向かってきていた。

そしてそれは、すぐ近くの地面に降り立った。


「メイガス...ついに二度目を使ってしまったんだね」


剣獅たちはその姿に見覚えがあった。

そして、その姿は伝説に伝えられるものそのものであった。


「イディ...ア」


「いかにも。ボクがイディア始まりの剣姫だよ今を生きる剣姫たちよ」


そのとき燃え尽きようとしていたメイガスの目に精気が宿った。

そして再び立ち上がる。


「それはアブソリュートの意思か。剣が意思を持って主を動かすなんてすごいね」


「何故我らの前に姿を現した始まりの巫女よ」


「君もたしかにウィスケリトスの次に古い聖剣だ。だったら察しはついているんだろう?」


「祭壇はもうここには存在しない。あれは我らが確かに破壊し、瓦礫の山へと還した」


「ここにはだろう?」


イディアはバラバラに砕けたウィストリケスを拾い上げる。


「長い間ごくろうさま。ボクはこんないい剣を持っていたけど、少し残念だったよ。あの程度の封印に、ボクが大人しくなってると思われていたことが」


「やはりあのとき己の力を分散させておったか。封印したのは力のなくした抜け殻であると」


「キミ少し知りすぎてるな」


「汝もどこまで知っておる。我の能力のことも知っていた、あれはメイガスと我だけの秘密のはず」


「やはりキミだけは危険だ。ボクの手で始末しよう」


イディアは剣を出さず、徒手空拳で戦う。当然だ、なぜなら己が剣はいまそこでバラバラになっているのだから。

しかし、聖剣が砕けても生きているのも不思議な話だ。

アブソリュートも臨戦態勢をとる。


(体を借りるぞメイガス)


「出でよアブソリュート!!出でて絶対なる神命を告げよ!」


自身の顕現。しかし、その刀身はすでに崩壊しそうなほど弱っていた。

主は死に、さらには想定されなかった三度目の顕現。

力にかろうじて剣が耐えている状態だ。


「汝だけはここで道連れにさせてもらうぞ!イディア!!」


アブソリュートの能力で、イディアの体をなかったことにしようとした。

しかし、その能力は発動しなかった。

平然と眼前に立っているではないか。


「なぜだ。なぜ我の力が」


「効かないよ。キミの力はもうボクには届かない。消えるがいい亡霊よ」


イディアの指から放たれた人差し指ほどの太さの光線が、メイガスの体を貫いた。

貫かれた体が、ふわりと宙を舞い後ろへと飛んでいく。

さらに光線の軌道にいた生徒が巻き添えになって食らう。

その光線の当たった生徒は、瞬時に灰になって消えた。


メイガスの体も同じように灰になる。


「さて...邪魔ものもいなくなったし、ちょっと話をしようか剣...」


二人を遮るように突然一本の剣が地面に突き刺さる。

それは沙織のグラディウスだった。


「きたかアーサー。来客は空からくる決まりでもあるのかいこの学園は」


「俺がそうしようと思ったらあんたが被っただけだ」











ついにラスボス登場でそろそろ物語は終わりへと近づいています。あれ?よく考えたらここまで主人公なにもしてない回が続いている。しかもまだ続く(えっ?)。とまあとりあえず次話を気長にお楽しみに

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