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八十五話

場内は静まり返った。

突然壁をぶち破って現れた人間と、直後に降った雷鳴がその場にいたものに衝撃を与えた。

誰もが固まって動けない中、バージンロードを剣獅はゆっくり歩き出す。

邪魔するものはいないただ道のど真ん中を歩いていくだけだ。

そしてエレンの目の前にたどり着く。


「剣...獅」


「とう!」


剣獅はにこりと笑って、エレンの頭にチョップを一発。


「剣獅痛い」


剣獅はなにも言わずにエレンを抱きしめる。


「馬鹿野郎。お前はとんでもなく馬鹿な女だよ。

一人でなんでも抱え込んでんじゃねえよ。

つらいときは涙垂れ流してブサイクな面で泣きやがれ。悩みがあるなら逆に俺が困るぐらいまで頼りやがれ。お前の旦那は世界で一番お前を愛していて、世界で一番お前のために行動してやれる男だ

だからさエレン俺と結婚してください」


腕のなかでエレンの涙で服がぐしょぐしょになっているのがわかる。

なんどもごめんと小さく繰り返すエレンの体をずっと抱きしめる。


「そこはごめんじゃないだろ」


「そうだね。はい、私を剣獅のお嫁さんにしてください」


当初の目標はこれで達成。

あとは....。


「なにを勝手なことを抜かしている人間風情が。それを返せ」


エレンがわが身を呈してでも止めたかった怪物を倒さなくてはならない。

その怪物が、業を煮やしながらこちらにずんずんと近づいてきている。


「これはこれはお父様。初めまして樟葉剣獅です」


「なにを勝手なことを。私は認めんぞそれは私のものだ返してもらおう」


「自分の娘をものみたいに...それが親のいうセリフか!」


「私はもうお父さんの言う通りになんかならない。私は剣獅といっしょにいく」


エレンも断固拒絶の意思を示す。

だが、それすらもこの怪物を怒らせるには十分足りえる事象の一つでしかなかった。


「人間ごときが...私の邪魔をするなー!!」


吸血鬼の王はコウモリなどではなく、影から兵隊を作り出す。

影の軍団ともいうべきそれは、王にのみ許された能力であり権能。

周りの影のすべてを従える力こそ、王の力の一つである。

その数は、数を増し十にも百にも膨れ上がる。


「まじのバケモンかよ」


さすがにこんな光景は剣獅もみたことがない。

綾香の村正とは対極。

綾香が一騎当千の個であるなら、こちらは数にものを言わせた集団戦法。


まず一体目が隊のなかから出てくる。

初撃はなんとか受けたが、何度も受けていられるほど軽いものでもない。

手が痺れるほど一撃が重い。


続けて後ろから数体飛びかかってくる。

素手、トンファー、両手剣、ナイフ、ヤリ、ハンマー、ソード、サーベル。多種多様な武装をした影たちが次々に襲い来る。

すんでで受け流し、なおかつ一体一体を処理していく。

エレンのところにも数体流れていってるが、あちらもなんとか処理しているようだ。


「しゃらくせえ!雷鳴!!」


得意の紋章術を起動。広範囲に雷を落とす剣獅の十八番ともいえるその技を周囲に向かって撃ち放つ。

天より落ちる雷鳴が、影の軍団と周りで戦いの巻き添えを食ってはと避けていた吸血鬼たちを焼き尽くす。

もちろん吸血鬼たちは再生するが、コウモリたちですらもダメージを負うように攻撃したため、そう簡単に再生したりはしないだろう。


だがこの男はさすがに違う。

自らの吸血鬼を頭上に集めて雷の直撃を免れた。

いわば避雷針代わりに使ったのだ。


「人間ごときがここまでやってくれたな」


「これで気兼ねなくやれる」


駆け引きの間もなく剣獅が先に飛び出した。

先手必勝のセオリーなど戦いにおいてありえないが、それでも思考の時間与えない行動はときとしてなによりの脅威になりえる。

そんな意を突いた攻撃を、この王は軽く受け止めた。


「こんなものか人間。人間らしく小賢しい知恵を巡らせたようだがそれでも私には届かない」


すぐに剣を振り払って距離を取る。

奇襲は失敗、二手三手を考え出す。


「人間がどんな知恵を絞ろうと無駄だァ!!」


直後地面から無数の棘が突出し、それが王を中心に広がってくる。やがて剣獅に向かってまっすぐに次々と地面をえぐりながら近づいてくる。

剣獅は急いでエレンを抱きかかえて城の外に飛び出る。


振り返ると、まるで茨の城。

真っ赤な歪なかたちをした形容しがたい気味の悪いものができあがっていた。

よく見れば、ほかの吸血鬼たちも串刺しになったりと明らかな巻き添えを食っていた。

同情する気はないが、妙に腹立たしい気持ちになった。


それを引き起こした張本人は、悠々と空を飛んでこちらに向かってくる。

こっちは飛んでいるわけはなくあくまで跳んでいるつまり跳躍だ。

空の上では分が悪すぎる。


「堕ちろ忌まわしき家名を背負う人間の子よ」


周囲の影から槍を作り出して構える。

それは鮮血のごとく赤黒い趣味の悪そうな色をしていた。

そして吸血鬼の腕力で投げられた槍が、剣獅たちに直撃した。

防御が間に合ってダメージには至っていないが、すさまじい勢いで森のなかを吹き飛ばされた。


べきべきと木が倒れていく音が剣獅の通ったあとから聞こえてくるのが、その衝撃を物語る。

気づけばそこは荒地だった。

木の一本も生えていないまっさらな更地。

元からあったのではない。たったいまできたのだ。


「エレン無事か」


「なんとか」


(いまのはやばかった...次がきたら)


とか思っていると、眼前から本当に二本目がきた。

槍の回転が螺旋を描き、貫通力をさらにあげていることだろう。


「エレン避けろ!!」


防御しても無駄だと判断した剣獅は、エレンにも回避の指示を出し二人で一斉に避ける。

避けた後ろでは爆弾でも爆発したのかと思うほどの衝撃で、強烈な暴風が吹きつけた。


「人間よ。貴様に私は超えられん。なぜなら人間であるからだ」


いつの間にか王は近くにきていた。


「なぜ人間を嫌う。あんたの嫁だって人間だろう」


「ああそうだ。しかしあの女は私を裏切った。

貴様の父親のせいだよ剣騎。だからこそ私は人間を嫌悪する!!

私からすべてを奪った人間を!!私を裏切った人間を!!」














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