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八十三話

燃えるような夕日を背負って、四人と一体は対峙する。

綾香は村正の力を解放。シィルとアミリアもそれぞれ聖剣を取り出して臨戦態勢に入る。

剣獅は相変わらず空では役に立たず、ワイバーンの上でのびている。

そして敵の吸血鬼はというと、無数のコウモリを集めて、黒く染まった一本の剣を作り出す。


「構えるまで待っているとはどういうつもりだ人間」


「なんということはない。こちらは三人で相手させてもらうというのだ、せめて構える隙くらいは与えようという私たちのささやかな配慮だが?吸血鬼どのにはお気に召さないか」


「言ってくれるな人間風情が」


意外と簡単に挑発に乗った吸血鬼は、剣を構えてまっすぐ綾香に突撃。

空中戦ではたしかに向こうに分があるだろうが、綾香は遠隔攻撃の手段をもっている。

ほぼ条件は五分いっていい。故に、いま飛び込むことはまさしく飛んで火にいる吸血鬼だ。


吸血鬼の一閃を、綾香は村正の六本のうちの二本で受け止める。

ギギギと刃の擦れる音を立てながら、剣が押し合いへし合いする。


「予想外だなこれは...」


絢香が思わず感嘆の声を洩らす。

吸血鬼の力は言葉通り予想外で、細身の体のくせに綾香の村正を二本とはいえ押し返してくる。

綾香も腕の数を増やして応戦。六本目でようやく力が均衡した。

吸血鬼が力が強いのは、エレンからひそかに聞いていた。しかし、まさか純血がこれほどとは予想だにしていなかった。


「やるな人間風情が。我と張り合うとは」


「ボクたちも忘れてもらっちゃ困るんだよね」


シィルが上からの奇襲、アミリアが右からの奇襲。

この二人はいつの間にか連携が得意になり、いまも二人ともお互いの攻撃の射線上に入らないように配慮しながら、ほぼ同時に攻撃を仕掛けている。

そしていまの吸血鬼は反撃の手がない。


「ちぃっ!!」


決まるかに思われた攻撃は、吸血鬼がコウモリ化をしたことで失敗に終わる。


「厄介ですわね。あれはどうやら力ではなく、もはや機能のようなもののようですし」


「あれをどうにか封じたいところだね」


「あれはやつの意思によるものだろう。ならばやつに変化させる暇を与えず致命傷を当てれれば可能性はある。という訳で邪魔だ剣獅」


と、絢香は抱えていた剣獅を空から投げ捨てた。

ほぼダウン状態の剣獅は地面へと、吸い寄せられるように落ちていく。


「お、お前の血は何色だー!!」


吸血鬼も、口調が変わっていることなど無視して、絢香に怒鳴った。


「味方突き落とすとかお前人間の顔した悪魔か!!鬼か!!」


「ふん。あ~肩の荷が降りた」


「上手くねぇからな!!信じられん生き物だ。ますますここを通すわけにはいかん」


吸血鬼は絢香に対抗しようと、さらに二本目の剣を取り出す。


「二刀流か。こちらの六刀を前にしては少々見劣りするな」


「見栄えだけだろ」


吸血鬼は再び絢香に突撃。

そして先ほどと同じように絢香も受け止める。

今度はちゃんと六刀で受ける。

が、ガチガチと刃が啼きながら絢香をどんどん押してくるのだ。

二本になったことで、片腕一本の力を両腕の力の二本に変えてきたのだ。


「参ったな。これでは押しきられてしまう」


「諦めて帰るならこのまま帰してやるが」


勝ち誇ったように、吸血鬼は言った。


「ああそうだな。『このまま』ではいかんな」


「は?」


直後、村正が突如白無垢を着た女の格好に変わり、

その体に鎧を纏い始める。

そして伸びていた六本の腕は、千にも及ばんとする無数の数へと分裂する。


「村正の真なる姿。千刀鎧衣村正(せんとうがいいむらまさ)


千にも及ぶ刀が、一斉に吸血鬼に斬りかかる。

二本程度に受けきれるはずもなく、コウモリ化して逃げる。

だが、絢香はその分裂体のコウモリさえも一体ずつ潰していく。


コウモリを潰されて、痛手を負ったのか吸血鬼は少し離れたところで元の姿に戻った。


「やはりな。吸血鬼にもそれ相応の弱点はあったな」


「いいところまできてるが、忘れてもらっては困る。我らは不死身だ」


吸血鬼は伝承では、不死身であり不老。物理による消滅のない不滅の存在とされる。

事実、敵の傷は時間が経つにつれて修復していく。


「めんどうだな。村正!!」


千の刀がうねりだす。

吸血鬼がコウモリに変身する暇を与えず、ひたすらに攻撃を刻んでいく。

斬られた傷が、灰となって宙を舞う。


もはや一片の灰の塊となったところで、攻撃の手が止まる。

だが、再び再生を始める。


「効かないな。貴様の攻撃など」


まるで千日手。永遠に続くような消耗戦。

終わりのない勝負のように見えた。


「いや、貴様は次の一手で終わる」


綾香は勝利を確信したかのように、勝ち誇った笑顔を見せる。


「なにを馬鹿な。我にこの再生能力がある限り負けはしない」


「村正!!」


三度、村正の千の刃がうねりだす。

そして三度目の光景。

幾度も斬られ、灰へと還る吸血鬼。


「む、無駄だぁっ!!いくら攻撃したところで我は朽ちぬ!!」


「誰が私が倒すなどと言った」


綾香は攻撃の向きを転換。下から叩きつけるように剣を振り下ろした。

吸血鬼の体は地面へと急降下を始める。

そしてちょうどその位置は、さきほど剣獅を落とした地点だ。

落下地点で、ちょうど剣獅が構えていた剣に刺さる。


「ぐはっ...まさか狙って落としたのか...大した連携だが...これぐらいで...」


「これぐらいじゃ死なないって?刺さってるもんをよく見ろよ」


剣獅の持つエクスカリバーは、白銀の輝きを放つ。いわば銀の剣だ。

吸血鬼の弱点は大きく分けて、太陽と聖水と銀。

つまり、いま刺し貫いているものは、吸血鬼を唯一倒せるものなのだ。


「き、貴様あああああああああ!!!!」


「ハクアの能力は物質操作。この剣は銀でできているってことになったのさ。

エレンがいなかったらお前には勝てなかったよ」


「我の仇は王自らが取るだろう...姫を守るために...な」


さらさらと灰に変わった吸血鬼は、風に流されて消えた。

その瞬間、上から綾香が落ちてきた。

ちょうど綺麗に落ちてきたものだから、なんなくキャッチ。


「大丈夫か?」


「これを使うと意識がもっていかれてな、しばらく休息が必要になる」


時刻は夕暮れも終わりの夜に指しかかろうとしている。

このまま吸血鬼の軍団と戦うのは危険だ。

綾香を休ませる意味も考えて、野宿することになった。







その頃学園では、ある男が学園を訪れていた。

その男は体が大きく、壮年男性といえばふさわしい人相をしていた。

学園は本来男子禁制であるが、剣獅がいることによって忘れていたのだろう。

女学生たちはすんなりその男の侵入を許してしまった。


「剣騎の気配がないな...どこかに出て行っているのか。ならば先に用事を済ませよう」


男は、地面に手を突き、紋章を展開。そこから無数の魔獣とも呼べる得体の知れない生物が、次々と飛び出す。


「なにっ!?」


「全員逃げろ!!学園長先生に報告をがはっ...」


学園はあっという間に生徒の怒号と悲鳴に埋め尽くされた。












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