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八十話

一週間のクエスト研修も終わり、剣獅たちは学園へと帰ってきた。

この研修で力をつけた者、自信をつけた者もいることだろう。


そんななかエレンは、自室にあった一通の手紙に目を落とし、そのまま静止する。

召喚令状。送り主はジーロスト・テルンつまり、エレンの父親であり、吸血鬼王(ヴァンパイアロード)だ。


そして内容は、見合いをしろ。つまりは、政略結婚のために帰ってこいとのことだった。

これを受ければ、おそらくもうここに戻ることはできない。

拒めば、吸血鬼王の父が不死身の吸血鬼の大軍を連れて、学園を殲滅にかかるだろう。


(剣獅…やだよ。離れたくない)


エレンは絶望を胸に抱え、誰にも相談できず一人部屋で泣き崩れた。






朝目が覚めると、剣獅は汗が体にべったりと張りついていた。

そんな気持ち悪さで目を覚ましたのだが。

ものすごい嫌な夢を見た。

エレンに突然別れを告げられて、どこかへいってしまうという夢なのだが、考えただけでも寒気がした。

不安を拭うために、急いでエレンの元へと走る。

リビングにたどり着くと、エレンは珍しく朝食を作っていて、台所に立つ姿が見えた。


「どうしたの?そんなに慌てて」


「いや、別になんでもない」


どうやら杞憂に終わったらしい。

まさか正夢だったらどうしようかと不安だった心が、少し軽くなった。


「座って待ってて」


しかし、今日のエレンは一段と元気がない。

普段から抑揚のない声だが、それでも今日は声のトーンが均一なのだ。

まるで機械と話しているような。


「エレン今日はやけに静かだな。どうかしたか?」


「別に。それより食べよ」


絶対なにか隠している。

しかし、剣獅にそれを知る術がない。


そしてエレンがついに口を開いた。


「剣獅。私たち別れよう」


「は?」


剣獅は夢が正夢になり、目の前が真っ暗になって倒れて、そのまま一日寝込んでしまった。






「剣獅大丈夫か?」


「ありがとうハクア…俺は大丈夫だから」


とは言うが、実は結構高熱を出して倒れている。

剣には風邪とかないらしく、看病するにはうってつけの存在なわけだ。

そんなわけで、二人で看病しているというわけだが、おそらく一週間の研修と、衝撃的な告白を聞いたがゆえの発病だろうとのことだ。


「まさかあの女のほうから別れるとはな」


「やっぱりあれ怒ってたのかな…」


クレアとのことを根に持っていたのか、それとも単純に剣獅を嫌いになったのかどっちだろうと、剣獅は寝ながら考え続ける。


結局答えは出るわけもなく、一日をベッドの上で過ごすことになった。






高熱を出したわりに、一日で回復したので、学園へ通うことにした。

ちゃんとエレンと話をしようと。

だが、教室にエレンの姿はなかった。


「エレン・テルンは今朝退学届を出して、学園を去った」


すでに手の届かない場所にいた。

いや、まだ諦めるな。

剣獅は自分に言い聞かせ、女子寮に走った。

スレイの怒鳴り声が聞こえたが、そんなものは気にするところではない。

急がなければ本当に手遅れになる。


剣獅がたどり着くと同タイミングで、エレンが女子寮から荷物を運び出すところだった。

エレンなら、多分ここにくるだろうと思っていたのだ。


「剣獅は見送りにきたの?」


「お前退学って…」


「私は吸血鬼の王の娘。一週間くらいしたらかな~どこの誰かも知れない相手と結婚するんだ」


エレンはいつも通り眈々と話す。

哀愁すら伝わってこない。


「お前、俺と結婚しようって…」


「忘れて。私とのこと全部。ちょうど絢香は剣獅にぞっこんだし乗り換えるのもいいと思うよ」


「忘れられねぇよ!お前といた時間が俺の一番なんだよ!」


剣獅は思わず声を荒らげた。


「止めてよ!私がどんな思いで別れたかわかる?!いつまでもしつこいんだよ!」


初めてエレンがこんな大声で怒るところを見た。

その様子に、ただ呆然と立ち尽くした。

何も言い返せない。

剣獅とエレンの最初の大喧嘩は、後味の悪いものになった。


「じゃあね。行くから」


どこからともなく、大量のコウモリがエレンにまとわりつき、そのまま覆ってしまった。

その隙間から見たエレンは、泣いているように見えた。

そして、その場からコウモリとともにエレンは消えた。


剣獅は全身の力を抜かれたように、膝から崩れ落ちた。

脱け殻のように、ただ目に涙を浮かべて空を見上げていた。


それからの剣獅は、何をやっても心ここにあらず。完璧な廃人と成り果てた。

死んでいるのと何も変わらない。

覇気はなく、生きているのか曖昧になりつつある。


エレンの結婚式まで、残り一週間。

そのカウントダウンは始まった。







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