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七十六話

長いようで短かった春休みは終わり、相変わらず寒い気候の学園には、桜が咲くことはないが、春が訪れていた。

 春といえば、剣獅は学年が一つあがり、二年生になるのだ。

 学年末のランク戦の成績トップであった剣獅は、二年生主席という立ち位置を得た。

 ちなみに、二位は倒れるまで剣獅と戦ったシィルである。


 二年生からは、成績順にクラスが三つに振り分けらる。

 剣獅の身内は、全員が上位に食い込んでくる実力者ぞろいなので、もちろん同じクラスになった。


 そして、相変わらずみんなそろって剣獅の元に集まってくる。

 アミリアなどは、剣獅に春休み中の令嬢の私生活のあれやこれを聞かされ、苦笑いしてるところを、エレンがわざとらしく咳をして止めたり、シィルがランク戦の再戦をしようとか思って、鎌で思い切り斬りかかってきたりと、学年が変わろうが、二週間程度では何一つ変わらない。

 

 ここにいないのは、綾香くらいだが、それはいつものこと。

 なぜなら、綾香は三年生...のはず。


 剣獅は眼前の席に座る少女を見て、目を疑った。

 まさかいるわけがないのだ。だって、その少女は三年生なのだから。


 「あ、綾香なにしてんの?ここ二年生の教室だぞ?」

 

 ここで綾香、座っていたとおもったら、体を起こしたまま寝ていたらしい。

 振り返って、剣獅を座りながら剣獅を見上げる。

 

 「おはよう剣獅。春休みはなかなかそっちに顔が出せなくてすまなかったな」


 いま現在、あくびをされながら世間話をされているのだが、なにひとつ話が入ってこない。 

 

 「綾香俺の話きいて」


 「うん?私も二年生だが?」


 どうせまたいつもの感じで、綾香はボケでからかっているのだろうと思った。

 だが、どうもそんな様子がまったくない。


 「綾香三年生だよな?」


 「二年生だ。お前頭でも打ったのか剣獅」


 その瞬間剣獅は悟った、これガチだ。


 「えっと?」


 「留年してやった」


 しばしの静寂、時が止まったように一切誰も声を出せないでいる。

 留年?留年?RYUNEN?まさかおおよそ聞くことはあっても、本気でやるやつがいたとは思わず、しかもそれが身内なだけに、剣獅の精神的衝撃は半端なかった。


 「そういえば綾香って...」


 「授業の出席数が足らなくてな。まあ元々出る気もないあくびがでるような授業だ別にかまうものか」


 そういえば思い出したが、綾香は二年生の授業すべてをさぼっていたのだ。

 一年から一応上がれたということは、二年生になった時点からなにか心境の変化があったのだろう。


 「それにな...私はただでさえお前といられる時間が少ないんだ。せめて、お前と過ごす時間ぐらいくれてもいいだろ剣獅」


 といいながら、婚約者(エレン)を前にして剣獅に色目を使うあたり抜け目ない。

 もちろん、エレンは見逃さず、剣獅を白い目でじっと睨みつけていた。


 「ああ、それはそうと一つ言っておくことがある」


 と綾香。

 なにを言い出すのかと、全員でさっきのこともあってか身構える。


 「今年私の妹が入ってくるのだが...」


 瞬間、やけにむきだしの殺気が近づいてきたのを感じた。

 

 それは廊下のほう、一歩一歩と歩くたびに綾香に似通ったものを感じさせる雰囲気を纏った、ポニテの少女が歩いて、歩いて、歩いて、教室の扉まできたところで、抜刀して飛び掛りと同時に斬りかかってきた。

 

 剣獅は、軽く受け止めたが、蹴りだして飛び掛ってきたぶんだけ、やはり重い。すぐさま双剣に切り替える。

 そしてこの少女の顔をよく見ると、髪型こそ似てないものの、顔つきはまさしく綾香に似ている。


 「彩香(さやか)その辺にしろ」


 「お姉ちゃんを私から奪う悪はお前かっ!!」


 そういった瞬間、綾香に拳骨で殴られた。


 「お姉ちゃん痛いなにすんの!!」


 「自分のクラスはどうした!入学式まではそこにいろ!しかも上級生を捕まえて悪とはなんだ!」


 綾香がなんだか珍しく、年上っぽい行動をしている。そう思ったのは、身内の全員もれなくだ。

 

 「だってお姉ちゃん、ここ一年ほど帰ってきても、この人のことばっかり考えてるし、私と全然遊んでくれないし」


 どうやら、そうとうにシスコンの妹に育ったらしい。普段の綾香をみていたら、なぜこんなに信仰心を抱くようになったのか、甚だ疑問を感じ得ない。

 

 「こいつがうちの愚妹の彩香だ」


 と、首根っこを捕まえて紹介されても...。


 「樟葉先輩、あなたを倒して絶対お姉ちゃんは返してもらいますからね」


 「いやそもそも俺のにした覚えないし」


 とこの切り替えしは想定外だったらしく、二の句が思いつかず黙り込んでしまった。

 結構綾香に似てるところがあって、これはこれでみていて面白い。


 「まあこんな馬鹿だが、私のたった一人の妹だ。仲良くしてやってくれ」


 「彩香ちゃんだっけ?」


 と、ここでエレン。さっそく友好的な態度を取るのかと、温かくみていたら。


 「うちの剣獅にちょっかい出したら、殺すからやるならそのつもりでね」

 

 喉元に剣を突きつけて脅迫しているのだが、剣獅以外の角度からは微妙に見えないらしく全員なんのことやらさっぱりらしい。

 剣獅は、とりあえずもうどっちが悪いかわかったもんじゃないので、黙って見過ごすことにした。

 身内に甘いのは、剣獅の特徴とも言える。


 「俺の自己紹介はいいとして、こっちが俺の婚約者のエレンな」


 引き離してもまだ殺意的な視線を向け続ける二人。おそらく綾香と二人で、胃を痛くする日々が始まるのだろう。


 「で、アミリアと幼馴染のシィル」


 「樟葉先輩ってこんだけ女の子集めるなんて、天才的なすけこましですね」


 いままで誰も言わなかったことを、この子さらっと言い出した。

 話を聞いていなかったほかの女子ですら、いまの発言を聞いただけで腫れ物をみるような視線に変わった。

 今の発言は、禿げた親父にそれかつらでしょというくらいタブーなのだ。

 

 「もういいからお前は教室に戻れ」


 綾香がこの事態を芳しくなく思い、彩香をこの場から切り離した。

 今日のこの一瞬だけで、彩香は剣獅のなかで苦手な少女第一位に堂々ランクインしてしまった。


 「先輩今度デュエルしましょうね」


 とか言っていたような気もするが、このとき剣獅の耳にそんな言葉が入ってくるはずもなかった。


 そこでさらに、追い討ちをかけるようなことが。


 「二年生諸君は、パーティーを組んで一週間クエスト研修をしてもらう。明日からなので身支度を済ませておくように」


 新学期そうそうから、剣獅の周りは相変わらずはちゃめちゃであった。



 

話が進まないですが、次回からクエストと称してちょっと学園を離れたストーリーになります。

簡単にいうと、冒険ファンタジー風になります多分。

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