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七十四話

春休みのみんなの予定を聞いたところ、綾香以外の全員が剣獅の家に泊まりにくることになっているのだが、エレンだけは報告もあるということで、一日だけ先にきていた。

そして話があると、リビングに沙織とアーサーを呼び出した。


「実は俺たち付き合ってるんだ」


アーサーは知っていたので、動揺もしないが、沙織にいたっては時が止まったように固まって動かない。

そして口をパクパクさせているので、そうとうに動揺してるらしい。


「へ 、へ~つ、付き合ってるのね。知らなかった~」


落ち着かせようとしてか、コーヒーの入ったカップを口に運ぶのだが、その持っているカップがカタカタと震える。

どれだけ衝撃的だったかおよびもつかない。


「ど、どれくらい経つの?そ、その付き合ってから」


「3ヶ月くらいかな…」


聞いた瞬間、沙織が卒倒した。


「3ヶ月ぅ!?それって一番イチャイチャしてる頃じゃない。剣くんの周りに悪い虫がつかないように注意して、小学校のときに下駄箱に入ってたラブレターも極秘で処分したり、中学の席隣のなか良さげの子に脅迫したりして剣くんを守ってきたのにまさかこんな…リーザのところの子の毒牙にかかるなんて…」


色々とんでもないことが暴露された。

親でもストーカー被害で訴えられてもおかしくない。


案外いないと思っていても影では見ていたらしい

と、少し嬉しかった反面、馬鹿だと呆れるところもある。


今思えば、なんだか仲良かった子が急によそよそしくなることがあった。それは、全部沙織のせいだったのだ。


「まったくリーザがいたらなんていうか…」


おそらく大喜びだ。


「どこまで考えてるの?別に遊びなら母さんは許します。将来までというなら話は別です、私直々にエレンちゃんを試します」


対面の沙織から、絢香に匹敵しそうな濃密な殺気が肌で感じることができるほど発せられる。

こんな馬鹿っぷりを見て忘れがちだが、沙織は世界最強の剣姫なのだ。


「沙織落ち着け。将来のことはこの子たちが決めるだろう、俺たちが口を挟むことじゃ…」


「うるさい」


沙織の一瞥で、アーサーさえも黙ってしまった。

こうなった沙織はもう止まらない。

そこにエレンさん。


「私は剣獅のことが好き、結婚もしたい。そのためならどんな障害も乗り越える」


火に油、いや火事に石油を撒くような発言。

剣獅とアーサーはもう嫁姑の戦いが恐ろしすぎて、黙っているしかない。


「剣くんはっ!?結婚する気あるの?ないの?」


怖い怖い。頼むからそんな鬼みたいな顔で睨むの止めて。

いつから付き合った報告から、結婚相談に変わったんだ。


言われて気づいたが、剣獅はエレンとの将来のことなど考えたこともなかった。

エレンが好きだというのは変わらない。しかし、これから先、十年二十年先の話など想像したことすらなかった。


「わかんねぇよ未来の話なんて」


「それはその気がないととっていいのね?」


「沙織あまり剣獅を追い込んでやるな。

剣獅だってまだ十六の子供じゃないか、将来のことを言われてもわからないことだらけだろう」


困った剣獅にアーサーが助け船を出してくれた。


「だってアーサー…」


「剣獅とは二人で話をするから。くれぐれも喧嘩するなよ?いくらローン無しで買った家でも修繕費で家計崩れたら元も子もないからな」


アーサーは嫁姑戦争の火種無くすことにだけは成功した。

気のせいか、黙って二人で火花を散らしてるように見える。


それからすぐに剣獅は外へ連れ出された。

車に乗せられ、どこへいくとも言わずに車を走らせる。


「なぁ剣獅。お前エレンちゃんのどこに惚れたんだ」


いきなりの単刀直入が過ぎる質問に、剣獅は吹き出してしまった。


「まぁリーザに似て可愛いからな。おまけにお前に積極的だしな、揺れるのもわかる」


「全部見てたのかよ」


そう言わずにはいられないくらい、それは的を射ていた。

そして意外な答えも返ってくる。


「見てた。というかエクスカリバーを通して俺にお前の記憶とか思考とかが全部送られてきた。

そこから俺が言いたいのは、なんでもっと気持ちに答えてやろうとしない。エレンちゃんは少なくともお前との結婚本気だぞ」


「怖いんだよ…」


「失うのがか?」


言う前に言われてしまった。

クロアを失ったあのときから、剣獅は何かを失うことに過敏になっていた。

そしてそれが自分の大事なものなら尚更だった。

だから大事なものを作るまい増やすまいとしてきたのだ。


「いいか。男が強くなるには大事な女一人を護るという強い意志が必要だ。

エクスカリバーは何も言わないが、多分足りないっていうならそこだと思うぜ。技術じゃ埋められないそれをな」


アーサーは左胸に親指を立てて、ハートだ。と、示した。


「今の話を踏まえて、お前はこの先どうするんだ?」


将来などいまはまだわからない。

でも、剣獅は自分の気持ちに正直でいようと思った。


「俺さ。あの学園に入ったとき、一人で不安で寂しくて仕方なかった。

でもエレンはそんな俺に寄り添ってくれた。

多分あいつも同じなんだ。

だから俺もあいつの側にいてやりたい」


「そうか、お前と話ができて良かった。まだ父親らしいことなんてしてやった覚えがないからな」


なんだかんだでアーサーだって十分親馬鹿なのだ。

二人揃って馬鹿馬鹿しいくらいに、剣獅のことが好きなのだ。

剣獅は恥ずかしさとともに、この二人の息子で良かったと思った。


「ところで剣獅。まさかお前らヤッてないよな」


「は?」


「恋人以上のことしてないよな?」


「…」


剣獅の全身から脂汗が流れ出してきた。

実を言うと、そこが怖かった。

勢いに任せたところもあるが、剣獅からすると、親になる心の準備ができてなかったので、決心が鈍ったというところだ。


沈黙は禁ではないが、黙っているのが動かぬ証拠だった。


「あのな…そういうのは親合意でやれ阿呆っ!!!」


アーサーから痛い拳骨が飛んできた。

剣獅は脳天に喰らって悶絶する。

父親の拳骨、聞きしに勝る威力。


「そこまでやったんなら責任取れ。これで遊びとか言い出したらさすがに拳骨どころじゃ済まなかったな」


他に何をする気だったのだ。


「帰ったら母さんに報告するからな」


「はい…」


なぜか敬語になった。

ついでになんか申し訳ない気分にもなった。






家に帰るとやけに静かだった。まさかあの二人が和解するわけもないだろう。


ものすごい嫌な予感とともに、リビングに入る。


「ただいま~」


剣獅は目の前の光景に、自分の目を疑った。


沙織とエレンが、なぜか恐ろしく酔っていたのだ。

目に入ったテーブルの上のチョコレートの成分表示のシールと、ウィスキー配合の帯。


間違いないこれだ。


疑心は確信に変わった。

あとは、どうやってこの事態を収拾するかだが、二人揃って服を脱ぎ始めたのでヤバイ急がなければ。


「剣獅、沙織はものすごい酒癖悪いから眠らせる以外に止める方法はないぞ」


それはエレンも同じらしかった。


「あ~おかえり~。剣獅だ~あはははは」


「エレンとりあえず水飲もう。な?」


エレンは差し出されたコップの水を一気に飲み干した。


「剣獅はぁ~、私と~結婚したくないのっ!?」


駄目だ酔っていて水も効かない。


「エレンさん落ち着いてマジで話しよう」


「やかましいっ!!!」


刹那、走馬灯とともにどこからともなく剣閃が光った。

剣獅はエレンを掴んで躯す。


「あたしを誰だと思ってんだこら~」


一番酔ってはいけない人間が酔ったらしい。


「あははははははは…かはっ」


突然沙織が気絶する。

アーサーが背後から紋章術で気絶させたようだ。

これでアーサーも沙織に次ぐ実力者なのだから、人というのはわからない。


「まぁ沙織の酒癖は昔から変わってないな。そっちはお前で片付けろ」


「剣獅~私といいことしよっか?しないの?泣くよ泣いちゃうよ」


エレンは酔うとすごくねちっこくて正直一番嫌なタイプだ。


(何か気絶するようなショック…)


一つ思い当たった。

賭けるならこれしかない。


剣獅は自分の唇を強引にエレンの唇に押し当てた。

それは長い長いキス。

今まで剣獅のほうからしたこともないので、酔っていてもエレンは驚いているのがわかる。


「け、剣獅?なんだか頭がぼーっとするんだけど何してるの?」


「エレン結婚しよう。最初に側にいてくれたお前だから最後まで側にいてほしいんだ。

愛してる」


「うん私も愛してる」


多分エレンは酔いと勢いだろうが、小さく頬にキスして、剣獅の胸のなかで寝息を立てて眠った。




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