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八話

「剣獅、腕はどうだ?」


「問題ない」


カシュンと腕の接続パーツに、離れかけていた腕を填め直す。

痛みはないのだが、どうもこれが緩くて何度もしなければならないところが面倒くさい。


「あの人強かったな...」


「あの女はこの学園でも類を見ない強さだろうな、なぜならこの私の力を凌駕するのだから」


伝説の聖剣エクスカリバー。その力は本来他の聖剣の力を寄せ付けない圧倒的なもののはずであった。

だが、長い時を剣獅のなかで眠り続けたことで力が弱まっている、いわば寝起きのライオン状態だ。

今のままでは剣獅は勝利を手にすることなどできない。


剣獅は考える、どうやればあの十夜芽に勝つことができるかを。だが、何通りもの攻撃パターンを模索しようと一向に糸口が見つからない。あの迅い剣速に対する対抗策が思いつかないのだ。


「考えてもわからんっ!寝る」


今はただ、目の前のことをこなしていれさえすればいい。

とにかく今日は早めにベッドに潜ることにした。明日からは通常の授業が始まるのだから。






翌日。早く寝たせいか、まだ日の登りきっていない夜明け頃に目が覚める。

いつもであれば、朝から母親に起こされるところであるが今は剣獅と、横になぜかパジャマのクロアがいるだけだ。


「あれ?寝ぼけてんのかな」


確かに昨日の夜、クロアはペンダントになったはずだ。それはこの目で確認して寝たはずだが。


「うるさいぞ剣獅...私に睡眠を...」


これももちろん寝言である、この聖剣様は寝言でも寝ていやがるのだ。

ことの次第を聞くために、この寝ぼけた聖剣様を起こすことにした。


「起きろクロア」


案外すんなりと起きた。

もう少し起きなければ、剣獅の握力50を超えるアイアンクローが、クロアの頭を握りつぶしていたところだ。


「なんだ剣獅、おはよう」


「おはようってやかましいっ!。なんでお前が俺の隣で寝てんだよ」


「剣のままで寝るのは寒いのだ」


この学園は山の麓に位置するので、夜の気温はそこそこに寒い。

ここには、四季というものが存在しないので一年中こんな気温が続く。


「だからってなぁ...」


「点呼にきましたよ~」


エリスの声が玄関のほうから聞こえる。その瞬間、剣獅の体が一瞬にして固まる。

まずい、今この現場を抑えられると完全に拙い、特に教師というところが。

剣獅が取るべき行動は簡単にしてシンプル、このクロアをペンダントに戻せばいい。


「戻れクロア」


どうにかクロアを元に戻すことに成功、だが別の問題が発生した。

クロアがいた場所に、どういうわけかパジャマだけが残ってしまった。


「樟葉く~ん」


剣獅、いきなりのピンチである。

二階にある剣獅の部屋に、階段を上る音が聞こえる。

こうなっては奥の手、隠蔽工作(アンダーベッドシュート)である。


剣獅はパジャマを、素早く手で巻いてそのまま屑籠にでも捨てるようにパジャマを投げ隠した。

その瞬間、タイミングよくノックの音がする。


「樟葉くん点呼です。入りますよ」


「どうぞ」


入ってきたのはエリスだ。どうやら担当クラスの点呼役も担任の務めらしい。

どうやら隠した隠蔽物は見つからなかったようで、そのまま出て行ってしまった。


「助かった...」


どうにか難を逃れた剣獅だった。






剣獅は教室に早くついても、なにかを話すような友達も相手もいない。

なので、ギリギリぐらいのちょうどいい時間に寮を出ることにする。


それでもやはり同じ時間帯に登校する生徒は多く、歩いているだけで白い目で見られる。

剣獅は居心地が悪いので、足早に過ぎ去ることにした。

しかしそれは教室も同じで、入った途端に楽しげに会話していた女子たちの顔が一斉に剣獅のほうを睨みつける。

それはもうぐさぐさと剣獅の心を抉ってくる。


剣獅の席は、窓から二列目の一番後ろという席のなかでは二番目くらいにはいい席だ。

剣獅はさっさと自分の席について、たぬき寝入りで女子たちの視線をやり過ごすことにした。


『えらい嫌われようだな』


『うるさい』


『ちょっとぐらい輪にはいってきたらどうだ』


意地の悪いことをいうものだ。目視だけで暗殺対象にされかねないくらいに、自分に対して嫌悪感を抱いている少女たちの輪に入ろうものなら、男一匹玉砕するだけである。


『俺はこのままでいい』


そのまま寝たふりを続けていると、その脇に誰か立っている気配がする。

なにを言われようと剣獅は振り向く気もなかった。

その人物でなければ。


なにやら教室が静かになっている。

どういうことかと、片目だけで状態を探ることにした。

すると自分のすぐ隣、誰かいると思っていた場所に確かに誰かいた。

原因はそいつだ。


「おい、樟葉」


その聞き覚えのある声に、剣獅は振り向く。

まさかと思っていればそのまさかだった。


「デュエルだ、ランク戦までは待っていてやる」


なんと向こうから直々にデュエルの申し込みに、一年の教室まで乗り込んできたのだ。

よく見ると、女子生徒の何人かは気絶し、なぜか口を揃えて「お姉さま」と呼んでいる。


「これはこれは、ご指名どうも」


剣獅は敢えて慇懃無礼に返す。それがどうやらファンらしき生徒のカンに障ったらしく、あちこちから

「お姉さまになんて口を」とか「なぜあんな男にデュエルを!?」とか非難の声が浴びせかけられる。

被害者はこちらなのだが。


「じゃあな、これにて失礼」


「ちょっと待て。あんたどこかで会ったことはないか?たとえば十年前のデパートの火災現場とかで」


「知らん。火事で腕と足をなくした男のことなど」


覚えていた。やはりこの人はあの自分を助けてくれた、黒髪の少女だ。

剣獅は涙が出そうだった。


「だったら、あんたにもらったこの命で、あんたを倒して恩を返す」


「楽しみにしているぞ。村正のサビにする瞬間をな」


その去りゆく顔は、いつもの能面のような顔ではなく、狂気に歪んだ危ない気配を滲ませた笑みを浮かべていた。


「樟葉!あんたお姉様とどういう関係?!」


「なんであんたなんかとデュエルを?」


などと、一難去ったあとにまた難はやってきて、エリスが来るまでクラス中から質問攻めにされた。

主にどんな関係かについて。



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