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七十話

クロアを取り戻した剣獅の意識は、次元の型代であるクロアがいなくなったことで現実の体に戻ってきた。


あれだけの傷を負っても、体には傷一つないので今回はすんなり起きれた。

その後起きなきゃよかったと思ったりしたのだが。


「あ、起きた。おはよう」


自分の目の前にエレンの顔。後頭部には柔らかい感覚があるので、膝枕でもされているのだろう。

それはいいのだが、その後ろあたりにいる喧しい幼女が一人。


「離せ黒っ!!なぜあの女が剣獅に膝枕など~~!!」


ハクアが暴れるクロアを羽交い締めにしているらしい。

さすがに体格差があってクロアの分が悪い。


「暴れないでくださいお姉ちゃん」


「剣獅に膝枕するのは私と決まっているのだ~~!!」


そんな決まりごとはないし、あれではどちらが姉かなどわかったものではない。


「剣獅くんは愛されてるねぇ」


「俺のせがれだからな」


今まで聞かなかった声が二つ。

そこでここはどこなのかという疑問にいきつく。


「ここは?」


「私の部屋だよ。アーサーもうちょっとまともな場所があっただろうなぜ私の部屋なんだ」


「別に俺が挨拶するついでに、こいつらの体見張るのにうってつけだからですが?」


だからなんだとでも言いたげな表情でいう。

メイガスも生徒の手前我慢しているのだろう。


「親父は結局何しに黄泉返ったんだよ」


「成長したお前に会いに来たじゃ不服か?親がガキに会いに来て何が悪い」


アーサーは呆れるほどに親で、呆れるほどに父親だった。

剣獅はそんなアーサーが少し誇らしくなる。


「その前沙織にあってこなければ」


前言撤回。


「孃ちゃん名前は?」


「エ、エレンです…」


さすが人見知りなのか、たどたどしく答える。


「剣獅のこと頼むぜ。いっしょにあの世界で戦えたんだこれからもやってけるさ」


これは親公認と思っていいのだろう。とりあえずそう思っておく。


「剣獅ィ…てめえの女泣かしたら俺が殺しにいくからな」


とりあえずはい。


「じゃそゆことで先生。沙織と旅行にでも行ってきます」


次の瞬間には、アーサーはいなくなっていた。


「さて俺たちもいくか」


「剣獅膝枕したから足痺れた。抱っこ」


「ずるいぞ剣獅私もだ」


「一回には無理に決まってんだろお前ら」


「じゃあ私はおんぶでいいです」


「仕方ない。私は肩車にするぞ」


結果、肩にはクロア、手にはエレン、背中にハクアというどこのびっくりサーカス団だという格好に。

さすがに重い。


「誰か降りて」


「「「降りない」」」


寮までこのまま帰った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





夜…眠る剣獅の上に覆い被さる影が。

その影は、突如剣獅の上に馬乗りするように跨がった。

剣獅は、その影を毛布を捲り上げて倒した。


クロアとハクアが寝ているので、手のひらに炎をだし、それを灯り代わりにしてその影の正体を確認した。


「何してんだエレン」


なぜか全裸のエレン。

このことから連想されるのは夜這いしかない。


「剣獅が私のことしか愛せないようにしてあげる」


「あの…エレンさん?」


「きて…剣獅の子供がほしい」


かつてここまで大胆なエレンを見たことがない。

体が震えていながらも、そう言っていることから本気なのがわかる。


二人は声を押し殺しながら、熱い夜を過ごした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「貴様らわかっているな一ヶ月後に何があるのか」


スレイの言うとおり既に2月。つまりは学期末なのだ。

学期末ということは、当然ランク戦がある。


二学期は、学園祭の騒動のおかげで飛んだが、三学期はクラスまでわける重要なものになる。

いまのクラスは適当だが、後から徐々に変動する。

尚、剣獅のランクは初回の功績もあって一位健在。アミリアが二位、エレンが三位くらい、シィルはランク外とこんな序列である。


上位ランカーを倒すとポイントが入り、順位が同列の場合そのポイントが優劣をわける。


「一ヶ月しかないとも言うが、一ヶ月もあるとも言う。しっかりと準備して挑むように」


スレイが出ていったあとは、女子たちの話し合いが始まる。

剣獅は昼行灯なので、寝たふりをして過ごす。


「剣獅起きてるでしょ」


「エレンか?寝てることにしててくれ」


彼女にはなんでもお見通しらしい。


「前のゴーレムのときみたいにトラブルとかないよね?」


あのゴーレムは事故ということになっているが、実際には故意にあの場に向けられたように思われる。

剣獅を狙った第三者によるものではないかとの見解が有力だ。


「いまはクロアとハクアの二人がいるから大丈夫だろ」


慢心ではなく信じきっているほうの答えだろう。

もちろんエレンも、剣獅を信じていないわけではないのだが、嫌な予感がしてならないのだ。


「何かあったら俺が絶対守ってやる」


突っ伏しながら言われても安心できない。

やはり不安は晴れなかった。









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