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七話

剣獅の頭上から振り下ろされた日本刀。

その剣速は目で追うには少々困難なほどに迅い。

しかし、剣獅の動体視力もなかなか、間に板挟みにあっているスレイを遠くまで突き飛ばして右腕で受け止めた。


剣獅の右腕は事故の影響で義手になっており、その腕は色々と改造が施してある。

たとえばすべてが金属性、しかも肩から手まですべてだ。


キンッと鉄と鉄のぶつかる金属音が鳴り響く。突然のことに、少女ですら驚いている。


「お前その腕は...」


「昔事故で片腕と片足失ったんでな、全金属(フルメタル)の腕と足だ」


少女は剣獅の言葉に、昔のことを思い出す。

自分が助けた少年は、確か腕と足が無くなっていたことを。


(そうか...やはりだ。やはりこいつがあのときの)


「では切り落しても問題ないな?」


少女は刀に込めた力を、『腕の』力ではなく『全体重を乗せた』力に変更する。

その威力は凄まじく、剣獅の義手がギシギシと軋むような音を立てる。

さらに悪いことは続くようで、接続部が若干緩くなってきている。


(やばい、今外れたら...)


今外れれば、それこそ剣獅の体が真っ二つになることだろう。

剣獅は少女に向かって渾身の蹴りを繰り出すが、少女には読めていたようで避けられる。

しかしこれで一度攻撃の手を緩めることができた。


(危なかった...)


『おい剣獅!大丈夫かお前、腕が取れかかっておるぞ』


「なんだよわかんのか」


『お前のことなど全部知っておる。それよりあの剣、あれは私と同類だ』


少女の持つ日本刀。あれも元は人型であるというのだ。

人型は武器型の高位存在にあり、優劣でいうならば圧倒的な力を誇る。

その高位存在がぶつかれば、まずどちらかは死ぬと言われている。


「喋る剣、なんだそれも私の村正と同類か」


あちらも気づいたようだ。

だが、クロアは別のことに驚いていた。


『なぜあちらはこちらが喋ることに気づいた?私の声は剣獅以外には聞こえないはずだが』


「なぜあちらはこちらが喋ることに気づいた?私の声は剣獅以外には聞こえないはずだが。今そう言ったか?」


少女はまるで聞こえていたようにクロアの話した言葉を一字一句違わずに復唱してみせた。

クロアはあまりの驚きに、剣の状態を解いてしまう。


「お、おい」


「待て剣獅、こいつと話をさせてくれ」


その目は普段の子供のような目ではなく、真剣になにかを追い求める探求者の目だった。


「お前がエクスカリバーか。村正」


少女の刀も姿を人型に変える。和服がよく似合う可愛らしい子供だったが、その目は生きているのか死んでいるのかわからないぐらいに暗い。


「お呼びですかお嬢様」


村正は膝をついて頭を垂れる。おそらくはこれが剣の仕様なのだろう。


「エクスカリバー、さきほどのお前の疑問について教えてやる。どうやら人型を持つ剣姫同士は共鳴とも呼ぶべき不思議なパスで繋がっている」


「パス...」


「そこからお前の声を聞いた。これで満足か?では続きと行こう。村正」


再び刀を構えて斬りかかってくる。

剣獅もクロアを戻して応戦する。


少女は刀、剣獅は両刃のそこそこに太い剣。

刀のほうが鋭く迅い、受け流す程度が精々というところだ。

こうしている間にも義手の接続が緩んできている剣獅としては、あまり時間のない勝負だった。


『クロア、なんかこう必殺技みたいなのないのか?』


『そんなものあるわけなかろう』


やはり期待するだけ無駄だった。いくら伝説上の聖剣といってもここは現実、人が妄想で書いた物語みたいに剣から炎が出たり光が出るなどということはありえないのだ。

しかし、そんな会話も少女には筒抜けのようだった。


「必殺技か、ないなら私の技を見せてやる」


あちらにはあったようだ。少女は天高く刀を振り上げる。

剣獅はどこぞの漫画で同じような画を見たことがあるので、嫌な予感しかしなかった。


「裂け、村正ァッ!!」


真上から豪快に振り下ろされた斬撃は空気を叩き、空気摩擦で空気が燃え上がり炎の斬撃として剣獅に襲い来る。

剣獅の嫌な予感的中である。

さすがにこればかりは義手では受け止めることができない。

これまでかと思われたとき、斬撃が突如として霧散する。


「何っ!?」


驚いたのは少女だけではない、これで終わりかと破滅覚悟の剣獅も同様だ。

その斬撃を消し去った存在、それこそが。


「学園長...」


少女は忌々しげに、校庭を闊歩する学園長を睨みつける。

一方の学園長は花を愛でながら、悠々と歩いてくる。


「やぁ剣獅くん、エンカウント率高いねえ。RPGならうざくて電源切っちゃうところだよ」


「セーブデータはちゃんと残したほうがいいですよ」


剣獅は遅い到着となった学園長に皮肉を投げつける。


「さて、十夜芽絢香。これはどういうことだ」


あの温厚そうな学園長が珍しく怒っている、それは空気や大地の震えによってわかる。

今にもあの首にかかった聖剣を抜きそうな鬼気を発している。


「どういうこととは?説明の余地はありません」


「私に歯向かうか小娘ェ」


鬼気を帯びた目で、学園長は首からかかった剣を顕現させる。

かつて学園長を、世界でも五指の剣姫に導いた聖剣アポカリプスを。


余計な装飾など一切なく、されども美しく金色に輝く細身の長剣だ。見たものはまず目を奪われ、最後に命を奪われる聖剣である。


「わかりました、今あなたとやるのは本意ではありません。そこのお前、お前にはいずれ正式にデュエルを申し込む、逃げるなよ」


さすがに世界五指とやる気はなかったようで、剣獅にそう言い残して十夜芽と呼ばれた少女は、どこかへ歩いて行ってしまった。


「大丈夫だったかね?」


「ちょうどいいところに、俺の寮壊れたんで直しておいてくれません?」


さきほどクロアを顕現させる際、窓ガラスを突き破ったので壊れたままだったのだ。

学園長に頼もうと思っていたのでちょうどいいといえばちょうどいい。


「まったく作ったばかりのものを壊すんじゃない」


とか言いつつ、さっさと直してしまうところが学園長なのだ。


「まったく、あの生徒は問題児ですね」


スレイもようやく事態が啾々したので、こちらの会話に参加する。

スレイは紋章術はプロ以上なのだが、剣が使えないのでこうして紋章術が使えない状況に陥ると、なにもできなくなる。


「剣獅くん、入学初日でデュエルの申し込み二つなんてモテるねぇ」


もちろんこれは完全に皮肉なのだが、剣獅はそんなことは耳にはいっていなかった。

剣獅の興味はあの少女の名前、十夜芽。まさか自分を救ってくれた恩人の名前と一致する名前をこんなところで聞くとは、だがその恩人ならなぜ襲ってきたのか、自分はあの少女にとってその程度の思い出でしかなかったのか。

あの自分を助けてくれた心優しき少女はもういないのか。


様々な憶測が流れるが、剣獅に残ったのは学園長が来なければ自分は負けていたという事実。

次は正式なデュエルを挑んでくると言った、ならばこちらも強くならなければならない。


「先生、あの人は」


「二年ランキング一位、処女女帝、十夜芽絢香。ラッキーだったね、一位とやって生きているんだから」


あの恩人なのかどうかはわからないが、勝たなければわからずにいるのは確かだ。

剣獅は失った腕にかけて、十夜芽を倒すと決意した。







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