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五十七話

シィルから謎のままになっている『約束』を告げられた次の日、剣獅はなぜだかよくわからないが、眠りが浅く、いつもより早く起きて、いつもより早く学校に行った。


早くといってもたかだか三十分程度、この時間帯なら人は普通にいる。

剣獅がほかの生徒の目を気にして、あまり人のいる時間帯にいこうとしないだけなのだ。

学校につくと、一階の掲示板。

いつも部活の勧誘やらなんやらと、連絡のために使われるものだが、その前が騒がしい。


人が集まってなにやら一枚の紙を見て、隣近所で噂している。


「なんだ?」


剣獅もその中に入っていくと、剣獅に気づいた生徒が道を開けてくれた。

ということは、剣獅宛の連絡だろう。

その紙に目を通した剣獅は、内容に驚愕する。


【通達書】


シィル・カーラー  樟葉剣獅両名の合意に基づき、下記記載の日時にデュエルを行う。

また、これは生徒会の認める正式なものとする


【対戦者】


シィル・カーラー


樟葉剣獅


【備考】


ブレイドヴァルキュリア学園生徒会の名において、この決闘の結果を遵守することを約束し、生徒会が全面的に協力の元行い、生徒会側はデュエルの結果に一切の責任等を負わない。


生徒会長ケイミー・ルクス




という、いつものデュエルの通達書だが、今回剣獅は合意などした覚えはない。

それに相手があのシィルとはどういうことだろう。


答えはすぐに現れた。


「剣獅おはよう」


シィルが剣獅の目の前に現れた。


「これはどういうことか説明してもらおうか」


「見ての通りだ。ボクとキミでデュエルをする」


「俺は合意なんてした覚えはないぞ」


「そうだね。でもキミはボクとの約束を忘れている。だからこそ思い出すために、このデュエルは受けなくてはならない。それがキミの贖罪だ」


「だから約束ってなんのことなんだよ」


「ボクが勝ったら約束の内容がなんであれ、その約束は果たしてもらうよ。そのときその質問の解答は教えてあげるよ」


シィルは踵を返して、どこかに歩き去っていった。

シィルとした約束が、それほど大事なものだったとは露知らず、忘れている剣獅はただ困惑するばかりだ。

そんなところに、やつれたケイミーがやってくる。


「あ~樟葉くんだ~アハハハハはh...」


ダメだ完全に壊れておいでだ。


「会長どうしたんですか?」


「ちょっと真夜中に起こされて仕事しただけだよ...あのシィルって子恐ろしいわまさか帰ろうとした矢先にデュエルしたなんていいだしてね...」


そのあと色々愚痴を聞かされたのが、なまじ関係者であるために逃げられない。

思ったことは、「本当お疲れ様です会長」の一言だ。


およそ十五分ほど愚痴を垂れ流すようにこぼしていくと、またフラフラと危なっかしい足取りで廊下を歩いて行った。

あちこちに頭をぶつけては、人でないものにまで謝っているので、心配になったが誰かが助けてくれるだろうと他力本願にお任せした。


「あいつ本当なに考えてんだろ」


『私はパパの過去は寝ていたので知りません。お姉ちゃんなら知ってると思います』


しかしそのクロアはもういない。

となれば自分で思い出すか、直接聞くしかない。


色々考えていると、今度は別の人がくる。

人の行き交う廊下だから当たり前だが、身の回りの関係者が次々くるのもどうなのだろう。

そしてその人物というのが、メイガスだった。


「おはよう剣獅くん。ちょっと私の部屋で話さないかな?」







久しぶりに訪れるメイガスの部屋。相変わらず小宇宙のような光景の広がる不思議な部屋だ。

今日は流星群のようで、部屋の模様の星が大量の流れ星になっている。

見とれている剣獅をおいて、茶の用意をいそいそと始めるメイガス。


「うちの孫はどうかな?デュエルをするんだってね」


「俺あいつとなにか約束をしたらしいんですけど、全然思い出せなくて」


「私も知らないねえ。なんせ会ったのもこの学園にきてからが初めてだ」


それは初耳だったが、メイガスとシリウスが疎遠になっていることを考えれば、孫と会っていないという話は頷ける部分もある。


「約束はなにか知らないけど、くれぐれも気をつけることだねえ。あの子は実戦経験を積んでいるだろう」


「それはあの任務にでたあんなのじゃなくてですか?」


一学期、剣獅たちは任務で外へと絢香たち四人で行ったことがあった。

あのときは、剣獅が制圧したのでよく覚えている。


「あんなの比にならないほどの戦いの日々。あんな年で(むご)いものだねぇ」


そう言ってメイガスは、自分で淹れた茶をすする。


「それと国王に連れて行かれた件だけどね。反省しているから水に流して欲しいと、昨日ハルカゼから言いにきたよ」


わざわざそんなことを伝えるために出向くとは、仕事に生真面目な人だ。

そういえば、絢香との問題は解決したのかと、少し気になるところもある。


「なんにしても、あれでもうちの孫だ。身内びいきじゃないけど、あの子と仲良くしてやってくれ」


今日言いたかった本音は多分それだろう。


「わかりました。一応やってみます」


「頼んだよ~」


と、気の抜けた声で出て行く剣獅を見送った。

剣獅は本日何度目になるやも知れぬため息をついた。







そしてデュエル当日。

その日も、やはり授業を全面的に止めて行われた。

デュエル会場となる闘技場には、前回同様全校生徒が観客席を埋め尽くしている。


よく見ると、賭けをやっている生徒や普通に弁当販売をしている商売っ気のある生徒がチラホラと見える。

教師陣ももはや止める気もなく、むしろ混じってしまっている。

これがモラルの崩壊というやつだろう。


「剣獅大丈夫?」


これも前回同様エレンが見送りにきてくれた。

絢香たちは、客席から見送るようで、エレンだけがどうしてもと来たらしい。


「問題ない。あいつと分かりあってくる」


戦いにいくとは言わなかった。

メイガスの言葉を汲んでのことだ。


「そう。頑張って」


「おう」


「あのね剣獅。今日の夜私の部屋にきて」


『夜』と、『私の部屋』の部分から連想したものが頭のなかを駆け巡って仕方ない。


いやいやこれは俺の勘違いだきっと。

そう思うことで、気分を紛らわせた。


「わかった。約束だ」


この瞬間思った。

また懲りずに約束なんて軽々しくやっちまった。


シィルのことからなにも反省していないいい証拠だ。


「うん。行ってらっしゃい」


エレンに背中を押されて、剣獅は闘技場の戦いの舞台へと足を進めた。





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