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五十三話

剣獅はハルカゼの言葉を理解するまでに、数秒の時間を要した。

自分を待っている王とは、多分自分の叔父にあたる国王クレンシア14世。アウスター・クレンシアのことだろう。

一応調べたが、世界における剣姫の地位を確立し、社会に受け入れられるように尽力した人物だそうだ。

日本や世界各国に剣姫を派遣して、仕事を与える巨大ギルドの役割をしているのもこの男だ。

沙織にとっては、義兄にあたる。


しかし、その男がなぜ今頃になって自分を呼びつけるのか、剣獅は別に表彰されるようなことは何もしていないし、その逆もない。

呼び出される理由がまず見つからない。


「国王様が俺になんの用だ」


「私もそれは知りません。ただ娘がどうとか....」


そのフレーズを聞いて、それがわからない人間はこの場にはいなかった。

つまりそれは...。


「従姉妹で結婚?」


と、誰かが言ったそれだ。

明らかにそれしかありえないのだ。しかし、そんなことをあの三人と沙織が黙っているわけがない。

ついでにハクアも。


「剣獅行っちゃダメ」


「そうですわ!!行くならせめて私のところに...」


「行ったら帰る場所はないと思わないとね」


「うちの剣獅はどこにもあげないわ」


と、このように騒がしくなってしまった。

ギャーギャーとうるさい女たちに囲まれて、剣獅は困惑する。

自分には別に結婚などする気はないというのに。


「そろそろいいですか。私も暇ではないので」


ハルカゼは腰に下げた剣を抜いて、剣獅たちに向ける。

穏便に行く気はすでにないようだ。

剣獅も、戦闘に備えてハクアを呼ぼうとしたが、出たのは空気の塊だけだった。

素早い動きで、剣獅の懐に潜り込んだハルカゼは、剣の柄で剣獅の鳩尾を一突き。

剣獅の意識が一気に吹き飛ばされる。


「ハク...ア...」


「パパッ!!」


ハクアも自身の象徴たるエクスカリバーを顕現し、ハルカゼに向かって斬りかかる。

そんなハクアを意に介さず、ただ受け流し意識を失った剣獅を抱き抱える。


「パパを離せ人間」


怒りに満ちたハクアはいつもの無邪気なハクアではなく、まさに人の黒い部分をさらけ出したように邪気に溢れている。

それが視覚に訴えかけてくるようなのだ。

ハクアの周りに黒い瘴気がまとわりつく。


「来るか人型。こちらには貴様の主がいるぞ」


主を人質に取られては、いくら絶大な力を持つ剣といえど易々と手を出すことはできない。

ハクアはそこで足踏みするしかない後手に回された格好だ。


「黒何をしてるの手を貸しなさい!!」


沙織が動いた。

自身のグラディウスを片手に叫んでいる。一瞬で沙織がなにをしたいのか、なにをしようとしているのか理解した。

それゆえに、ハクアは迷った。剣獅を助けるためだ手段を選んでいる時間も余裕もない。ここは賭けだ。

ハクアは自ら剣となり、沙織の手に収まる。


「先輩それはっ!!?」


沙織のやったことをいち早く理解した人間であるスレイは、見た瞬間に驚愕の声をあげた。

それは剣騎だけが許された二刀流の構えだったからだ。


普通の剣姫に二刀を振ることは許されていない。

それは自らの剣を裏切ることになるからだ。

もし、それを破れば剣姫にはそれ相応の罰が肉体に課せられる。

現に今、沙織の体はグラディウスからの罰によって、全身に打撃や刀傷のような感覚が伝わってきているはずだ。


『大丈夫ですかおばあちゃん』


沙織にはハクアのおばあちゃん呼びに怒鳴って返す余裕も今はない。

ただ剣獅のために体に鞭打って腕を振るう力しかない。


「沙織馬鹿なことはやめなさい」


「うちの息子を返してからいうのね春香」


本名を言われたハルカゼの眉根がピクっと反応する。

普段から本名を言われることが少ないハルカゼは、自分の名前を呼ばれるのがあまり好きではなく、動揺してしまうのが唯一の弱点とでもいうべき穴だ。

ついでに、そのあと信じられないぐらいに癇癪を起こすことも。


「黙っていればいいものを...沙織あなたは最強ではない」


ハルカゼが剣を引き抜いた。

余計な装飾など一切ないシンプルな剣。銘打つは神キリスト、銘はアスカロン。竜殺しの剣として有名な聖剣である。

柄にあしらわれた十字架が象徴たるキリストを表している。


「最強はこの私だ」


剣をひと振りしただけで、凄まじい大気の奔流が襲い来る。

こんなものはただの挨拶がわりだ。攻撃でもなんでもない、いわば余波といったところだろう。

沙織も警戒に双剣を構える。


ハルカゼは蝿でも払うように剣をひと振り。

切られた空気が押し出されて迫りくる。これは絢香と同じ技のスタイルだ。

地球に極々ありふれたものである空気を使っての攻撃。


空気は鎌鼬のように鋭く肉を切る。

今のダメージを追い続けている沙織には苦痛以外の何物でもない。


「ぐっ...」


傷ついていく沙織のからだの弱い部分を的確に狙い打ってくる。

沙織はただ為すすべもなく、ただやられていくだけだ。


「沙織あなたは腕が鈍ったわね。かつて私とブレイドヴァルキュリアとして闘ったころのあなたの姿はもうない。今のあなたはただの女に成り下がった」


「ギャーギャーうるさい」


双剣でバツ印を描くように飛んでくる空気の刃を振り払う。

そして余裕綽綽と行った様子で、コキコキと首の骨を鳴らす。


「あなたまさか...」


「やっと馴染んだ。この子癖強いから苦労したわ~」


『失礼ですよおばあちゃん』


なんて二人で漫才を繰り広げている。

対するハルカゼは、ただただ驚いていた。


(まさか...沙織はずっと動かなかっただけ?)


そう。意に介していなかったのは、ハルカゼではなく沙織のほう。

そしてずっと反撃のチャンスを狙っていたのだ。

ハルカゼも、沙織を正面切って向かい合ったら太刀打ちできないことは知っている。

形勢逆転とはよく言ったものだ。


(せめて目的だけは果たさなければ...)


ハルカゼも目的は戦闘ではない。あくまで剣獅を連れてくる(連れ去る)ことだ。

危険を冒してまで沙織と一騎打ちする意味はない。


「相変わらずの化物ね前言撤回してあげる。ただし、あなたの息子は連れて行かせてもらうわ」


「させるわけないでしょっ!!」


沙織は持てる最高速度で肉迫。

剣が触れるまであと一歩というところまで近づいたところで、ハルカゼと剣獅が突如として消える。

紋章術による瞬間移動だ。

してやられたと、はしたなくも舌打ちする沙織。


同時に、二刀流のダメージが限界を迎え、ハクアとグラディウスの顕現が解ける。


「沙織先輩っ!!」


「何してるのあなたたち...早く追いかけなさい」


沙織の言葉に、エレン、アミリア、シィルの覚悟は決まった。

三人は剣獅を追いかけて王都へとドラゴンを飛ばした。

















なんか北斗の拳みたいにかっこよく次回予告のナレーションしてくれる人がほしい。

というわけで次回はエレンたちが王国相手に剣獅をかけて戦います。お楽しみに

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